ホテルの2階にはこのホテルーチェーン特徴とも言えるレストランがあり。

大量の宿泊客を一斉に裁ける広大なフロアと計算されたバフェレーンの配置は機能だけが優先される。

そんな、明るいカジュアル感だけのスペースで僕は侑子との朝食をとっていた。

味も香りも無いコヒーで味も香りもないパンを食べながら。

寝不足の彼女の目は充血して、お世辞にもいい女からは程遠い

勿論そんな事を出だすわけもなく、僕は疲れた侑子を見ていた。

「仕事・・もう直ぐに出かけなくてはならないのかしら」

侑子がコーヒーマグを両手に持ちながら言った。

「そう オフィスに11時に行けば大丈夫だ」

「良かった、未だ少し一緒にいられる」

「君は」

「今日はお休みだから、買い物でもして午後の新幹線で名古屋に帰るわ」

少し寂しそうに彼女はそう答えた

「夕方に出会い、朝に別れる」

そんな会いかたを僕らはもう何度も続けていた。


仕事の合間 お互いにスケジュールが交わる事はとても少ない二人

一月に、会えるのはせいぜいい1回あるかないかだった。


「そう、話があるとそう言っていたね」

僕は深夜の記憶を辿った

「覚えていてくれたの」

「そう 眠る直前に 僕は眠ってはいけないと思いながら眠ってしまった、そして朝目覚めた時は会話より君が欲しかった・・・」

「そして、私も貴方が欲しかったのよ」


「話をしよう 今から」

「聞いてくれるのね」

「聞こう」

そうして、僕らは再び部屋へと戻った。


窓からの景色は、平日の朝の風景だった。

既にホテルの駅には多くの人が溢れていた。


ベットサイドのソファーのセットに腰をおろして僕は彼女を見つめた。

「さあ 話してくれ」

「構えられるととても話にくいのよ」

彼女は笑顔で答えた

「かまわないから話してくれ」


こちらを真っ直ぐに向き直り視線を僕の目に集中させながら彼女は話を始めた。

「わたし お嫁さんに行く事になったみたい」

僕は慌てた 突然の話題に戸惑った。

「相手はね うん 言ってもしかたないかもしれないわ 貴方の知らない人 」

僕は半ば、現実から逃げた意識でそれを聞いた。

「いつ するつもりなんだ」

「近いうちに 多分来月の27日だと思うわ 招待状はそうなっていたから」


僕は 「なぜ?」 という疑問が頭の中で生まれ、それが急激なスピードで膨張するのを感じながら

それでも、その「なぜ」を言い出すことがとても相応しく無い様な気持ちがして無言でいた。

そんな僕に彼女は話を続けた。

その中には言い訳といえる様なものはなく、それは聞いているうちに何となく他人事の様に

そして、何となく理解できるような そんな不思議な気持ちにさせた。

彼女の言葉は、僕に対する説明としてではない、彼女が自分に言って聞かせているそんな様に聞こえた。


僕はひとしきり彼女の話聞いた


言葉は出なかったけれど 憎しみも悲しみも痛みも無かった


彼女の話やがて終わった。


僕は、無言でいられる持ち時間が無くなったのを感じ 言葉を捜した


彼女は僕を見ていた


「コーヒーを飲みに行かないか 香りと味がする とても上等なやつをね」


僕が言った言葉だった。


「行きましょう コーヒーを飲みに」


彼女が言った。


「支度をしてロビーにいてくれ、僕は車を駐車場から回してくるから」


そう言って僕は彼女のいる部屋を出てエレベーターに向ってあるいた。


「そんなものかもしれない」


僕は独り言を言った


それは以外にも大きな声だった。





写真は無関係 綺麗な女優さん


molt posso 追従できない放物線の裏側へ