眠りから覚めたのはエアコンの風が心地よい朝も遅い時間だった。
昨夜の出来事が、真っ白な頭の中に少しずつ少しずつ、布にインクを零したみたいに思いだされ広がった。
昨日は朝から、大きな仕事の打ち合わせが繋がり、忙しさは当初から予想されていた。
気温の昇り続ける表参道、クライアントを待つ間も日差しは勢いを増し、戸外で待ち合わせしたのを後悔していた時に、一台の車が信号待ちで止まった。
何の特徴もないセダンを運転しているのは女性、他には誰ものっていない。
歩道のレベルからだと車の中を見下ろす形になっていた。
何気なく、車内を見て僕は驚いた。
ドライビングシートの女性は、涼しげに浴衣を着て。
白地に菖蒲のその浴衣は古風な江戸の雰囲気を持つもので、着こなしも素人のものでは無いと感じた。
そして、彼女の浴衣の胸元は不自然に大きく開き通常は隠されるであろう胸元が見えて
見えてしまっているというだらしなさは全くない とても美しかった。
腰のシートベルトをしたその下あたり、浴衣の裾が左右に割れて、白い艶やかな太股が
オートマティックのセダンは無論 ツーペダルレイアウトだからクラッチはない
なのに、左足はクラッチペダルを踏む必要があるが如く、開かれていた。

信号は、直ぐに赤から青に 平凡なセダンは、とても平凡ではない彼女の操作で緩やかに発信し、参道の緑の木洩れ日を反射しながら走り去った。

端正な綺麗な横顔の彼女 僕はふと一人の女性を思い出した。
その女性もとても浴衣の似合う人だった。
白い肌も、そして整った顔つきも彼女に似ていた。

そして、僕の知る一人の女性なら、ドライビングシートで見せたあの状態も理解できるのだけれど。

僕は、今見た景色の中の女性も、僕の知る彼女と同じ世界を持っているのかもしれない・・・
そう感じて 少しだけ 悲しく思い そして少しだけ 身体の中が痺れ熱くなる感覚をもった。

今日も変らずに暑い、昨日の彼女はどうしているだろう
そして、僕の知る彼女はどうしているだろう

(画僧は無関係です)

molt posso 追従できない放物線の裏側へ