時として、自分自身が放物線を描きながら空間へと飛び出す事を経験する。

これを今、読んでいただいている貴方にもその経験はあるのでは無いだろうか。

自分が期待したのか、それとも恐れているのか自分自身でさえ解らない行動に自分が向かう事。

それは、そう言い当てるなら【なりゆき】で進んでしまっている出来事みたいなものだ。


熱帯モンスーン独特の香りが立ち込める戸外から、歴史のあるこのホテルのロービーに入った。

ロビーは外界とはドアで隔たっていないにも関わらず涼しい。

それは多分に、この歴史ある建物の雰囲気を壊す事無く最新技術で空調管理をしているからに他ならない。

このコロニアル建築の開放感を保ちながら、目には見えないエアカーテンガ張り巡らされているのだろう。

ロビー左側の明るい部屋ではランチライムバッフェが始まっていた。

この地域には珍しく無い果物の数々が目に飛び込んでくる。

ロビーを進み階段を上がる。

開放的な廊下が中庭を見下ろすように周囲を囲んでいた。

直進して突き当たりを折れて右に続く廊下に逆らうかのように左側のドアを押した。

そこはバーラウンジだ。

重厚なカウンターが部屋の壁側に長く続き、カウンターと同じ暗い色調の床には、やはり同じ雰囲気の椅子テーブルが並んでいた。


部屋の中央、どの壁からも、そして窓からも同じような間隔で離れたテーブルに座った。

白いユニホームのインド人だろうか色の黒い男がメニューを持って来た。

かれの独特の笑顔と微笑んだ時の白い歯がとても強い印象を与えた。

軽いアルコールの飲み物を注文すると彼は微笑んで下がった。


再び現れた彼はトレーに飲み物を載せて来た。

飲み物をテーブルに置くと独特のアクセントの英語で彼は

「ここにはビジネスでお越しですか?それとも観光に・・・」と嫌みを感じさせない雰囲気でたずねて来た。

「そうだね どちらとも言えないような旅だ」

彼にそう答えると

「良い滞在になりますように」

そう微笑んで再びテーブルを離れた。


既にグラスには多くの水滴がついて ここの湿度の多さにあらためて気付いた。

グラスを唇に運びながら 先ほど自分が入って来た入り口に目を向けた。

逆光の光の中でつば広の黒い帽子をかぶったサマードレスを着た女性が入ってきた。

光は彼女のサマードレスを透かし、彼女の持つ美しい身体の線をシルエットで浮かび上らせている。

足を組み換え、煙草に火を移す時間で彼女はこのテーブルまで辿り着いた。


「お待たせしてしまったのかしら」

帽子を脱いで彼女は言った。

「いいえ 今来たばかりですから」


「そうならいいのだけれど」

先ほどのウエイターが来て彼女の帽子を受け取った。

彼女は彼の眼を真っ直ぐに見て やはり軽いアルコールを注文した。


「今回は面白い提案だったわ」

「気に入ってくれたのだろうか」


「気に行ったのよ だから来たの」


「それなら 僕は十分に満足だ」


「でも 」

「でも 何かな?」


「変わった人」


「そう言われるのは嫌では無いな」


二人は つい数か月ほど前に さる共通の友人の主催するホームパーティーで出会った。

そして、その後 1度だけ二人で食事をした。

会話ははずみ 二人は友人として心地よい時間を過ごした。


そして、彼は彼女にメールで一つの 提案をした。


////もう一度、食事をしませんか ?

少し遠いのですが 良い店を知っています。

貴女をお連れして食事が出来ればとても素晴らしいと思うのです。

再来週たまたま、仕事がその店のある街であります。

よろしければ、その週末に合流して食事をしませんか?

良い街なので、時間に余裕があれば数日滞在されれば きつと楽しいと思います。

私も、その仕事の後は数日休暇を取る予定です。

詳細は改めて・・・・



彼女は 場所を聞かずに 快諾した


男の事は良く知っていると言うほど 未だ良くは知らない男だった。

男には どんな 企みがあるのか 彼女なりに考えもした。

でも、普通は断られるに決まっている事は容易に想像できる提案をしてきた彼。

彼の事は良くは知らないけれど、おおよその雰囲気は前回の食事で想像が出来た。


普通はしない誘い方には・・・


彼女が出した答え は普通はしない答えだった。





写真は本文とは関係ありません

私の好きだったHpから転載






molt posso 追従できない放物線の裏側へ