彼女は我侭な酒を飲み 我侭な料理を楽しんだ。

ギャルソンは彼女の態度に適度に閉口しながらも、美しい客としての彼女に魅かれている。

男は彼女の我侭を冷たい視線で眺めていたけれど、咎めもしなければ同調もしなかった。

食後には少しだけ強い酒が欲しいと彼女が言うので、男は店を変えることにした。


店の出口に近いクロークでコートを受け取り、ギャルソンと極めて短い会話の後で店を出た。

既に呼んでおいた車がドアを開けて待っていた。

男はドアのところで彼女を先に車内に乗せた。

左側のドアから車に乗る彼女の動きを男は見た。


腰から車内に入った彼女はシートに腰を入れて、そこから足を車内に引き込んだ。

右足が先に引き込まれて、少し間をおいて左足が引き込まれる。

ほんの一瞬だけれど彼女のベージュのタイトスカートの裾が大きく開く。

内股の景色が男にはとても特別のように見えた。

程よい色合いの黒系のストッキングに包まれた細い足首、ストッキングの中に微かに見えるアンクレット。

そんな美しい足運びを男は見届けて、自分も車内に入った。


男は運転手に向って、ホテルの名前を告げた。

そのホテルは、都内にあるホテルの中では異質の小さなホテルだった。

彼女は男の目的がそこのホテルのバーであることに気づいて。

男の目を見た。

「今夜はあそこのバーがいい」

そう告げた男に 彼女は黙って小さく頷いた。


レストランからホテルまでは10分掛からずに付いた。

エントランスのベルは2人を車のウインドウ越しに見て出迎えた。

バーに行く旨を男が伝えると、ハウスフォンでバーに連絡をしてくれている様だった。

2人は、答えも聞かずにバーへと向った。

バーの手前のクロークでコートを預けた。

バーに向う途中で、彼女はレストルームに寄ることを彼に告げた。

彼は彼女に短く言った。

「僕は先に行っている 外してくるんだよ」

そういうと、彼女も見ないで 廊下をバーの入り口へと歩いて行った。


バーに入ると、カウンターにバーテンダーが待っていた。

フロアの係りではなく、顔見知りのバーテンダーが出迎えた。

「どちらにいたしましょうか」

バーテンダーは男に聞いた

「連れが居るから奥の席にしてもらえればと思うんだけど」

「かしこまりました どうぞ」

バーテンはフロアの係を呼んで男を奥のテーブルの席に案内させた。

バーカンターからは少し離れた席 皮製のソファーが丸い小さなウォールナットのテーブルを挟んで2脚配置されていた。

男が席に着いた時に彼女が入って来た。

彼女は係りに案内されて彼の向かいに座った。


「何をいただこうかしら」

彼女は独り言のように言いながら 

アマーロを頼んだ。

彼は ダークラム マイヤーズだった。


やがて、酒がテーブルに届けられ、2人は軽くそれぞれのグラスをかざした。

「どうやら、外してきてくれているようだ。」

男はやや微笑んで言った

「どうかしらね」


「いいよ 答えは言わないで欲しいんだ 」

「じゃ どうやって確かめるのかしら」

「それはこれから考える、あせる事はないさ」

「じゃ ご期待に添っていなかったら」

「ふん それもそれで君らしい」

「期待どうりかもしれないわ」

「それも 君らしい」


彼女はタイトのベージュのタイトスカートにカシミアのカーディアンというシンプルなスタイルだった。

カーディガンの下はドレスシャツを着ていた。

ブラウスのボタンは2つ外され、首にはパールのネックレスがあしらわれていた。


「ストッキングはガーターなのかな」

「なぜ」

「ガーターで吊っていないとなると 外しても最低は1枚履いている事になる」

「それも素敵なのではないかしら」

「かもしれない」


「うん 確かにそれも面白い」

男は妙に納得したような顔をしたので、彼女は可笑しくなって笑った。





molt posso 追従できない放物線の裏側へ