西新宿のオフィス街

ビルの谷間にオープンスペースのカフェがある。

すっかり、葉の落ちた木の枝を透かして、弱い日差しはテーブルに影を落とす。

ゆらゆら その影が揺れている。

コートは脱がないままで、大き目のマグを包み込むようにコーヒーを飲む。

香りも、味も アウトドアのカフェにしては上出来だった。

ふと、一つテーブルを挟んだ席を見る

そこに、懐かしい顔が居た

やはりコートを着たままで一人でコーヒーを飲んでいる。

肩までの髪

頬から首に至るラインの完璧さも、その表情もまた 昔のまま

いや、それ以上に美しくなった気がする。


彼女は僕に気づいている だろうか

2人には、かつてお互いの総てを知り尽くしている時期が存在した。

とてもいい時間を過ごしたと思っている


ぼんやりと 彼女を見つめていたら うかつにも目が合ってしまった

表情を変えずにこちらを見ている彼女を、 僕も表情が変わらないように努力して見た。


色々な出来事が 丁度 残ったコーヒ1杯分だけ蘇った。

手元に目線を戻し コーヒーを飲んだ。


今一度彼女を見ると

彼女は今度はマグ越しに僕に微笑んだ。

僕は左手を少しだけ上げて合図した。


冬の陽だまりが少し暖かいと感じた


そして3度目に彼女の方を見た時


彼女の席は既に空席になっていた。


僕は、伝票を持ち キャッシャーへ


請求にはコーヒー2杯分つけられていた。


僕はそれを支払い


コーヒー一杯分にしては とても素敵な時間をもらった気がした


よそ行き顔の彼女の笑顔ははとても美しかった