雨上がりの港 風は何処か柔らかに吹きぬけて行った。
歩道と隔てて取り付けてある白い鉄の柱、そしてそこに渡されたロープは水滴がいっぱいに付いて。
彼女はそれを軽やかに飛び越えた。
オレンジのカクテルライトがヨットを照らして、そこがヨットハーバーだけの機能ではない港だと言う事を、多くの艀が印象付けていた。
艀とヨットの間には自然と線引きがされていて、ここ横浜の風景がそこには確実にあった。
慶子は緩やかに弧を描いて続く防波堤のような所をゆっくりと歩いて、丁度腰の高さほどの一段高くなった突堤にあがった。僕も彼女に続いてそこを登ると目の前に、先ほどの船溜まりが少しだけ見下ろせる景色になった。
空は暗く、カクテルの光線の中だけが現実の世界のように輝いていた。
慶子が僕を見た。
彼女の少しだけ上向きに尖った唇を僕が僕の目線の少しだけ下にあった。
僕はキスする理由を探したけれど見つからなかった。
ぎこちないキス 振れた途端に少し開いた彼女の唇が嬉しい裏切を感じさせた。
軽いキス のつもりだったけれど
僕等のキスは雨上がりにしては少しだけ長かった。
髪の香りに途中で気付いた、甘くて爽やかな香り
僕の4711よりも遥かに素敵な香りだった。
「よくね一人でここに来てたのよ」
「夜中にかい 」
「そう夜が多いの 風が聞こえるから 」
「風が好きなの」
「好きよ そして星もね 今は出ていないけれど」
僕は少し不安になった、慶子が一人で深夜にこの場所になんて・・・
明らかに安全な場所とは言いきれないこの場所 本牧埠頭

僕は、彼女のこの危うさが好きなんだと 感じた。
と同時に、未だ良く知らない彼女と づつと一緒にいたいと そう願い そう感じた。
少し風が強くなった マストを鳴らす音が間隔をつめて響いてきたから。

僕は彼女の手を引いて車へと向かった。
防波堤を飛び降りて、ロープを飛んで車に戻った。
慶子は直前で車のキーを出して僕に投げた。
僕は左側のドアを空け慶子を乗せ、運転席に付いた。
前過ぎるシートを引いてエンジンをかけた。

車を一度 本牧から山下へ進めて 保土ヶ谷へ向かった。
いつしか エフエムの試験放送は終了していて
慶子がカセットを入れた

メリケン情緒は涙のカラー が流れ出した。