プレリュードは都内の渋滞の中を渋谷を目指した。
NHKの横まで来てトモヒデは車を路肩に停めた、丁度 左に電話のボックスがあった。
「電話してくる」
トモヒデはそう言うと車を降りて行った。
ボックスの扉を開き放しにしたまま手帳を見ながらボタンを押している。
暫くして、何やら話している様子だったが直ぐに受話器をフックに還して車に持ってきた。
車内では変わらずに門松敏生が歌っていた。
「用事か?」
「用事が無いのが少し悲しいから作ったよ」
僕が聞くとトモヒデは笑顔で答えた。
「どんな用事だい」
「面倒を買って出ることにしたんだ。」
僕が黙っていると。
「7時に銀座だ」
「なんだ~ 7時に銀座だと~」
「おう 銀座だ、それまで時間があるからヒロユキの店に行こう」
ヒロユキとは2人に共通する知り合いでカフェのバイトをしている。
その店は 渋谷と恵比寿の間にあった。
店の近くのパーキングに車を入れて店のあるフロアに二人は上がった。
木枠に擦りガラスの入った アールヌーボー調の扉を空けると店は空いていた。
観葉植物が置かれ、落ち着いた木の床には余裕を持って丸テーブルが配置されていた。
なぜか、部屋の隅には胴体の中がライトになったペンギンが立っている。
二人を見た、白いブラウスにリーバイスを履いた痩せた美人のウエイトレス?が窓側のを指さした。
僕等はその窓側の丸い木のテーブル席に着いた。
「来たな 無銭飲食常習犯どもめ」
ヒロユキが奥から出てきた。
「おう 久しぶりだな 顔を見に来てやったぞ」
トモヒデが大きな声で言った後
「綺麗なお姉さん もう食ったのか」
と今度は囁くような声で言った。
奥のカウンターで先ほどのウエイトレスがこちらを見て笑っていた。
「まあな ・・・ その話は今度な・・・」
「ヒロユキ お前はよ~」僕も囁く声で言った。
「社会人キラーが何を言うか」
ヒロユキも逆襲する
「キラーだか 餌だかわからんぞ・・・」
トモヒデが笑って言った。

僕はミントソーダ トモヒデはペリエを注文した。
「サブマリン・サンド食うか」
機嫌よさそうにヒロユキが言った。
僕等は頷いた。

やがて、氷の入った空のゴブレット2つと ミントソーダとペリエの瓶をトレーの乗せて先ほどの美人がテーブルに来た。
セットされる間、僕等は彼女を直視出来なかった。
彼女は「ごゆっくり」とだけ言いほほ笑んで下がっていった。
僕等はゴブレットにそれぞれ飲み物を注いだ。
「良い女だな」トモヒデが良い
僕も頷いた
「食ったらしいな」
「らしい」
「うらやましいな」
「かなりな」
僕等は小さな声で話をした
「お前らこれでも食っておとなしくなれ」
ヒロユキがサブマリンサンドを持って来た。
バゲットにレタス、トマト、パスタラミ、アボガド、タマゴ、マヨネーズが挟まったこの店の看板メニューだった。
僕等は、無言でそれをパク付いた。
1時間ほどして店を出た。
勘定はドリンクのみの請求だった。
「あいつバイトの分際で良く出来るな」
「店のオーナーも奴には一目置いているようだ 夜遅くまで良く働くし 店長代行みたいなもんだからな」
「たいしたもんだな」
「たいした奴だ 違う意味でも 大したやつだ」
僕等は妙に感心して駐車スペースまでを歩いた。
既に東京は夜と言える暗さになっていた。