焼肉定食はモヤシと豚肉をウスターソースで和えたヤツ。
熱々を白い飯に載せて頬張ると、途端に これにして良かった そんな思いが駆け巡る。
480円 味噌汁 付き だった。
隣では、ゼミの仲間の一人 ともひで が大盛りワンタン麺を啜ってる。
壁の隅 三角の板の上に載せられたテレビではジャイアンツとライオンズの日本シリーズが映ってる。
授業を早々に抜け出して、入り浸りの食堂で遅めの昼飯を食った。
カウンターの下の棚には 汚れた週刊誌
グラビアの女の子を見ながら 慶子を思い出した。

慶子は今年 新入社員でアパレル企業に入社して 有楽町で店員してる。
そうだ、会いに行こうと と考えた。
「マージャンやる」
口の中一杯にワンタン麺を入れながら トモヒデが言う。
「今日は辞めとく」
「慶子ちゃんか」
「ま そんなところだ」

「おまえ 入れ込むなよ 相手は社会に出たばかり 俺ら学生は つまらなく映るはずだから」
言われて、そのとうりだと 感じた。
「おう 俺ら学生は 分が悪いからな・・・・」
頷いて苦笑いした 僕の事など気にせず トモヒデは またワンタン麺と格闘しはじめた。

暫く 無言の食事の後で
店の大将と少し話をして店を出た。

「銀座だろ 乗せてってやるよ」
トモヒデが言う
この男、電車でも便利な学校になぜか 真っ赤なプレリュードで通ってる。
ま 通うなんて言えるほどは 来ていないのだけれど。
「お でも時間が有りすぎるからな・・・今から言っても」
「じゃ マージャンか」
「気分じゃないな・・・・」
慶子の仕事が終わるのは7時過ぎ 今は未だ3時を回ったばかりだ。
「良い事を考えた」
「何だよ」
「任せろよ」
そう言うと トモヒデは駐車場に停めた車に乗り込んで 運転席から助手席のドアを開いた。
僕は言われるままに 極端に低いシートに乗り込んだ。
頭上のガラスルーフ越しに西日が差しこんだ。
セルモーターの音がしてエンジンがかかると、テープが鳴り始めて

『東京タワー』 門松敏生だった
トモヒデが駐車場からゆっくりと国道へ続く道へプレリュードを向けた。
正門前で見慣れた顔が手を振っている。
トモヒデはクラクションを軽く鳴らした。

「女って 面倒だろ」
ダッシュボードトレイのケースからレイバンを取り出してかけた トモヒデが言った。
「そう 面倒だけど・・・」
「だろ」

「お前はどうなんだよ」
僕はトモヒデに訪ねた
「同じ その面倒の最中だね・・」
「だろ・・・」
僕は キャスターに火を付けた

スライディングルーフをトモヒデが少し空けた。