日差しは決して弱くはない
でも風だけが確実に秋の深まりを感じさせる。
そろそろ、落葉樹は葉を散らす準備に入っているだろうか。
携帯への 誘いは 固定電話の頃よりも 待ったが 無い
唐突で用件だけに終始する
ついでのお喋りもなければ 気のきいた遠まわしも

「待っている」
カフェの名前だけを告げて
部屋を出て地下鉄に乗る
目指す駅は4つ先の駅だった
何本目かのエスカレーターの先の階段で地上に出た。
告げられたカフェを僕は直ぐに見つけることが出来た。
ノンスモーキングのエリアで君は待っていた。
僕が席に着くなり、ウエイターが来た。
期待できないコーヒーを注文した。

「ごめんなさいね 急に呼びつけたりして」
ナラカミのブラスのボタンが2つ空けられ 胸元にはアクセサリーは無い
僕は彼女の顔は見ないで、喉元あたりに目線を置いて言った。
「いいよ 気まぐれに付き合うのはこれが初めてじゃないから。」
「期待しているのかしら。」
「程良く そう 僕は期待してきたよ。」
「ご期待に添えるかしら」
「さあ それは君次第だろうけれど。」
彼女は空になったカップを見下ろして、それを指先で持ち上げ そのまま降ろした。
「タバコが吸いたいわ」
「ここはノンスモだ」
スモーキングエリアには空席が有った。
僕は、そのエリアを眺めた。
「君がここを選んだのだしね」
「ホテルのお部屋で 吸いましょうよ。」
彼女はそのカフェのあるビルに隣接したホテルのカードキーを見せた。
「良い提案だ」
そう言う僕に
「ギャランティ出来るのは二人でタバコを吸いましょうという事だけよ」
「構わない 良い提案だ」
僕は答えて 運ばれて来たコーヒーを一口飲んだ。

「旨いコーヒーもギャランティに加えて欲しいね。」
「良いわよ」
彼女は伝票を持ち席を立った。

「ルームサービスね」
「いいや」
僕はそう言うと、そのカフェでは無いアメリカのチェーン店のコーヒーショップを指さした。
「あそこの テイクアウトでいいよ」

「あなたの言う 美味しいコーヒーなのかしら」
彼女がほほ笑んだ。
「少なくとも ここよりは マシだ それに・・・」
「それに 何」
「待ちきれないのさ」
彼女は更に笑顔を見せた とても綺麗な笑顔だった

「タバコがそんなに吸いたいのかしら」

「うん そういう事にしておいてくれ」

二人は、カフェを出て カフェに入って行った。