しばらく一緒に仕事をした後輩が居る。

〔おてんば娘〕 そんな 言葉がピタリとはまるような女の子だった。

いわゆる帰国子女というやつで、なんとも愉快な可愛い妹分だった。

そんな彼女が会社を辞めて突然アメリカに行くと言い出した。

止める事など誰にも出来ず彼女は去って行った。


それから数年の月日が流れた、僕はロサンゼルス サンフランの出張の帰りに彼女が居ると言うラスベガスへ寄ることにした。


マッカランへのアプローチに入ったのは昼間の強烈な太陽が西に傾いた頃、フライトの窓には、砂漠の景色が広がっていた。

少しすると突如現れた人口建造物の中に吸い込まれるようにしてディセンドやがて機体は着陸をした。

エアコンの効きすぎているターミナル内を移動してバゲージクレームまでたどり着く。

ここでも待たされるだろうと覚悟を決めてバゲの到着を待ちながら空のターンテーブルを眺めていた。

このところのラスベガスが人気はこのエリアに居る人と荷物を見ただけでも充分に理解できた。

聞き覚えのある声の方を向くとそこには彼女がこちらに向かってくる姿があった。

僕は懐かしさと再会の嬉しさでこれ以上に無い笑顔になった。

「おまえよ 元気だったか 無茶して凹んだりしてなかっただろうな」

「平気 平気 」 彼女の笑顔は数年前は離れた時と何も変わっていない気がした。

「それにしてもバゲージエリアまで出迎えに来るなんて お前は相変わらずだな~」

「うん こっちでキャリア関係の仕事も手伝ってるから・・・・・ま、いいじゃん 行きましょうよ・・」

「まだ バゲが出てないの」

2人で暫く荷物の到着を待ちピックアップして空港を後にした。


彼女の車でホテルに向かった。

車内の香りと音楽も日本に居たころの彼女の雰囲気と同じだった。

もともとが帰国子女、こちらの方が本来の姿なのかもしれないと思う。

空港は市内に隣接しているのでホテルには直ぐに到着した。

バレットでキーを預け、チェックインもそこそこに僕らはファーラムショップスのレストランに入った。

彼女のこの数年の話を聞きながら僕は料理をパクついた。

そして冷えたカルフォルニアワインを飲んだ。

彼女は良く喋り笑った。

でも、その笑顔 変わって無いとは言いながら何処かが違う気がした。


食事の後で彼女は僕にラスベガスを案内してくれた観光ガイドのように、各所で行われるテーマホテルのショウを何箇所か巡った。

噴水のショウ 海賊のショウ 火山のショウ 僕はとてもTDLに居るような錯覚に襲われた。

街の見物を終えてホテルに戻るともう夜9時を廻っていた。


部屋にはいると彼女はバスルームに入ろうとして すっとんきょな声を上げたのは彼女だった。

ハプニングが起きた。

このホテル バスルームがガラス張りだった。

バスタブ シャワーブースは勿論 トイレまでがガラスの向こうに見える。

これは流石に彼女も恥ずかしいだろう。

「僕は少しカジノでも見物してくるから、その間に使えばいいよ」

そう継げて部屋を出ようとした。

「先輩 見ないでくれればいいですよ。 その代わり盗み見もダメですよ。」

そう返事が返ってきた。

僕はテレビを点けて見たくも無い画面に集中しようとした。

テレビではカジノゲームの説明が日本語で流れていた。


暫くして彼女がバスルームからローブを着て出てきたので、入れ替わりに僕が入った。

「見ないでくれれば良いからさ 覗き見もダメな」

と彼女に声をかけると、彼女はベッドからこちらを眺めていた。


風呂から上がると彼女はベッドで眠っていた。

ブランケットに包まる彼女を見た

バスローブはベッドの上に置かれている。

僕は彼女が裸なのかどうか気になったけれど・・・

ベッドの隣のスペースに横になると時差ぼけが手伝い僕は眠りに落ちた。


暫く眠ってしまったようだ僕は目を覚ました。

隣には彼女が眠っていた。

僕は彼女の事が無性に可愛くそして抱きたくなった。

僕は彼女をブランケットの上から抱きしめた。

彼女が目を覚まし僕を見た

僕は子供のような彼女の瞳を見つめながらしばらく彼女を抱きしめていた。

彼女の唇にキスをしようとした時、ふいに彼女の手のひらが僕の唇を塞いだ。


「明日 ゴルフしよ! ね 7時に迎えに来るね あ 寝てて良いよここに来て起こすから それと 朝ご飯一緒にね 一人の朝ご飯は 寂しいからさ・・・・」

そう言うと彼女は僕の腕をすり抜けてブランケットごと立ち上がった。

ソファーに畳まれた服を拾い上げて

「着替えるよ 見ないでね 見るなら私が気がつかないように覗き見してね・・」

そう悪戯っぽく言った。

彼女の裸を見たのは これがはじめてだった


翌日僕らはゴルフをした そして朝食も一緒に 夜は遅くまで飲んだ

そして3日目は彼女の車でアウトレットへ

ラスベガス最後の夜も2人でオリーブで食事をした。

沢山の会話をして 2人で本当に良く笑った


空港まで見送りに来た彼女に僕は笑顔で握手を求めた。

このままじゃ後悔すると思いながらも。


彼女の瞳はその時も同じだった気がする。


上昇するL機内で僕の後悔は既に始まっていた。

そう、こんな気持ちになる事は解っていたのに。


どうしようもない後悔とともに、僕はLAXを経由して日本に着いた。






molt posso 追従できない放物線の裏側へ