田沼が目を見張った。

いつの間にやら黒い布で顔を隠していた二人の暗殺者相手に対し真っ向から斬り合う長七郎。

引けを取らないどころか寧ろ押し始めているではないか。

『こやつ、出来る!』

 

同じ事を暗殺者も思っていた。

『我等二人を相手に退かぬどころか優位に立っているぞ、この若造!』

『信じられん剣さばき!早い、ついて行けぬ!』

僅かな、ほんの僅かな隙を長七郎の剣が突く。

「うげぇ!」

一人の暗殺者が右脇腹を押さえて転がった。

押さえた指の間から血が吹き出ている。

『こいつ、躊躇いも無く人を斬った!この若さでどれだけ修羅場を掻い潜ってきたのだ!』

 

もう一人の暗殺者がばっと後ろに跳び距離を取った。

「どうした。仲間が苦しんでいるぞ。助けるのか逃げるのか」

長七郎が鋒(きっさき)を男に向け挑発じみた素振りを見せた。

男がちらりと倒れている仲間を見やる。

何も言わず刀を構え直し、長七郎に向かって飛びかかる。

と、思いきや男は倒れている男の脇に着地をし、苦しんでいた男の顔に何度も刀を突き立てた。

肉の斬れる音、骨が砕かれる音が混ざり合う。

 

「顔を見られてはいけない、という訳か。そこそこ知られている者、という事かな」

仕事を終え、ゆらりと立ち上がる男に言葉をかける長七郎。

 

「何者か知らんがこれだけ血が流れてもぴくりともせんとはお前、相当血なまぐさい世渡りをしてきたのだろうな」

暗殺者が応え、刀を構え直す。

長七郎、何も言わず刀を腰の位置、切っ先を自分の後方に向け迎撃の姿勢を取った。

斜の構えだ。

『俺との間合いは既に見切ったという事か。後は踏み込みの速さ比べ···面白い』

暗殺者の男は久しぶりに身震いした。

強い者と相対するという喜びで、だ。

 

じりじりっと摺足で距離を詰める男。

長七郎は微動だにしない。

「せあっ!」

男が刀を振り下ろす。

長七郎の身体がすっと沈む。

次の瞬間、刀を握ったままの男の両手が宙に舞い、そのままどすん、と地面に落ちた。

 

『な、何が起きたのだ···俺の手首が転がっている···?』

暫く男の思考が停止した。

実際は一瞬の事だったのだが男には長く感じたのである。

 

「うぬうぅぅぅ!」

男がうめき声を上げる。

痛みが襲って来たのだ。

これ程完膚なきまでにやられるとは思ってもみなかった暗殺者。

ひざまづく様に倒れ込み地面に転がった。

 

「見事!長七郎!」

田沼が思わず声を上げていた。

 

 

 

 

つづく