遠くの空で、一羽の鳥の声がしていた。

無知なわたしには何の種類かも知れない。

だけど、夜の帳のおちる間際に響く声は

その空を支配しているかのように広くひろく行き渡っていた。

夜の濃紺がそれに続いていった。




もうすぐ夜だ。




ラプンツェルの屍






携帯が光った。

この色は、メールだ。

サイレントにしてあるから、音はしない。

無造作に引っつかむと、画面を見下ろした。

その目線が蔑むようなのは、自分が一番知っていた。


ただの広告メールだったとき、

わたしの視線は柔らかくなる。



だから、その目線は来るべきメールへの侮蔑ではない。

自制なのだ。

そのメールを眺めたとき、まさか自分が喜びはしないかと。

喜んでたまるか、と。

喜びの表情を出さぬための予防線と、

そうせざるを得ない自分への本当の蔑み。





*   *   *


魔女の家のラプンツェルが食べられなければ死んでしまうから、と。

やっと授かった子供を宿す妻が病んでいる現在。

無事に生まれたとて子供を犠牲にする未来。

本末転倒どころか、卑しいほどのエゴイズム。



ほんとうは、本当に大事なのは、生まれてくる「子供」ではなくて、

「子供が生まれた」という事実。

本当に授かりたかったのは、子供を造れるという自分たち。


*   *   *



またメールが来た。

今度こそ、来るべきものだった。


だけど、
わたしは泣いてしまった。

結局、用意しておいた予防線も自分への侮蔑も、そこにはなくて。



事実の前には、慈悲も蔑みも怒りも、歪みですら形を溶かしてしまう。



こういうとき、ひとは祈るのだろうか。


神さま、と。



移動中寝る? ブログネタ:移動中寝る? 参加中



ことん、ことん。
電車が揺れる音がする。

目を閉じているから余計に耳に残っていく。


ふんわりと、日差しが私の目をのぞこうとしては
まぶたに遮られて去っていく。

その日差しは春の匂いがした。





 春 涙 今 を 覚 え ず





電車は好きだ。
”普通”電車なら特に。

だって、自分の目的地に顔を向けていなくて済む。

向かい合った座席に座って、目的地へ向かう景色を横目でみていれば着いてくれる。
もしくは、今のわたしみたいに目をつぶっていればいい。

まもなく着く駅の名前がくりかえされ、
それを確かめるように、わたしの目が開いて、窓の外の景色に向いた。

大丈夫。
まだまだ先。

自分に言い聞かせるようだった。
そしてあわてて目を閉じた。
そんな自分がチキンなことも確かめられた。

ほんとうに眠いのか、憂鬱からなのか、いっそ面倒なのか、わからない。

冬と言えた半年前には、同じ距離を
出来るだけ早く時間を縮めたくて、
特急に乗っていたのに。







*  *  *






急に、体全体が横殴りにあった。

ちがう。
駅に停車したのだ。

その衝撃で、うっかり目を開いてしまった。
そして確認するために、自然と視線が窓の外へ向かう。

まだだった。
うん、そりゃあ、さっきまだまだって確認したのだから、そうだろう。

っていうか、わたし、今、寝てたよね。

電車の揺れは、眠りを誘う神秘だ。



そうこう寝覚めの頭でぐるぐるしているうちに、
またゆっくり、ことんと動き出した。

だけど、起きてしまったから、目を閉じる気になれない。

目も、頭と同じくぼんやりと窓の外に向けられたままだった。



と。

窓にぶつかって、柔らかだった日差しが顔色を変えた。

今度は私の目を突き破って、もっと奥へと突き刺さってきた。

痛い。

やめて。

日差しなんかに、攻撃されるいわれはない。




そんなことをしなくたって、もうわたしはずたぼろだ。

半年たって、あったかくなって、コートも脱げた。

そしたら、自分でも情けないほどずたぼろの自分が立っていて、

自分だって対処に困っているのだから。



攻撃を仕掛けてきたのは、

柔らかなフリをした日差しか、

美しいフリをした思い出か、

あんまり奥まで突いてくるもんだから、

涙腺まで届いてしまったじゃないか。



せっかく、景色を見たくなくて思い出したくなくて

今の自分から遠ざかったものたちを見たくなくて、

ずるずると普通に乗って、居眠りのフリをして、

遠ざけていたのに。




もうまぶたの壁が崩壊しそうだ。

今度こそ、ことんと揺れる、眠気を誘うリズムも味方してくれない。





降参。

まいりました。




そっと、日差しに白旗をあげて、防御壁を開いた。

ほとんど決壊しかかっていたから、

水分の膜でそとの景色も潤んでいる。






「…あ。」






窓に、潤んでフォーカスがかかった中に、

柔らかな女の子が映った。



あの人がいて、

あの人のことを考えて

日差しの中にまどろんでいた自分が。





だけれど。

わたしは、ゆるゆると頬を動かして

くしゃっと笑ってしまった。


次いで、ゆるゆると息を吐き出した。




ほっとしたのだ。


今の私を見なかったことに。











end.






毎朝必ずすることは? ブログネタ:毎朝必ずすることは? 参加中




「たのむからさぁ、自分のことは自分で決めて。」


そう言われて、私が突き放されて早一ヶ月。
同棲してたときよりもメイクが濃いのはどうしてだろう。






そうして守られていたのものは、怠惰か無垢か






ちょっとむくんだ顔がドレッサーの鏡に反映した。

それを見て、眉がむっと上がったのも映る。


「ふー…」


ため息なのか、呼吸なのかわからない空気が出て行った。

いやいや、うかうかしてらんないのだ。
さあ、支度をせねば。


気分はたたき起こされて、眠いながらも鎧兜をつける武将のようだ。

(ただし従者はいないので悪戦苦闘)




外は寒い。

だから皮膚を守るようにメイクも濃くなるのだろうか。
いや、夏でも塗るときゃ塗るよね。

とか、おもいながらせっせと顔に塗っていく。

それは塗るというより、隠すというより、

着けるという表現に近いと思う。

武将さんのお気持ちは脆弱な現代人のわたしには図りかねますが

それは鎧のように。



「…よし」


最後に目をぱちぱちして、まつげを確認した後、自分にGOサインを送った。

さながら出陣だろうか。

武器も鎧も平和になったものだ。





*


「ねーえ。今日のメイク、どうかな?」

「あー、可愛い。可愛いよ」

「見てないし!」

「見た、みた。今見て、思った」


「ほんとに?」

「ほんと。」


「メイク薄くない?」

「いや、それ以上したら濃すぎ」

「優衣には最近薄いよって、言われちゃった」

「なんで?だめなの?」

「ねー、なんでだろうね?」



*


恋愛をしていて、誰かから愛されている(と思い込んでる)と、

武器も鎧もうすくなっていくのだろうか。

愛されてるって感じることは、武器と鎧の代わりになってるのだろうか。

社会っていう戦場でも、通用する代わりなのだろうか。





通用してるって思ってたのは、思い込んでた私、だけだったんじゃないだろうか。


だから、うすくなってしまったまま突き放されたわたしは、

とてもみじめに傷だらけになって、泣いてしまった。



うすくなった鎧と武器で、突き放されたら

そりゃあ、地面にぶつかって傷ができるし

傷ができたら、治るまで、傷を守るために厚くしないと。


って。


そうか、メイクは濃くなってたんじゃなくて、

厚くなってたんだ。





「優衣、みて。じゃーん、新色使ってみました~」

「お~、結構発色いいね」

「でしょ?」



武器と鎧は日本社会では平和になったね。

でも、


「最近、メイク戻ったね」

「うん…前が薄すぎたっていうか」

「やっぱ、それぐらいじゃないとね」

「だよねっ。気分のらないし!」



きゃっきゃと喋る。

もとの濃さと同じぐらいに

厚く塗ったメイクの下を悟られないように。


でも、
ほんとはね。

うすいままで
いたかったんだよって。


安心して、武器も鎧も要らない家の中にいたかったんだよって。




でも、合戦地は社会全体だから。

脱ぐわけにはいかないから。




一人で起きる朝は、脆弱な武将の気分になるのです。








END









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