遠くの空で、一羽の鳥の声がしていた。
無知なわたしには何の種類かも知れない。
だけど、夜の帳のおちる間際に響く声は
その空を支配しているかのように広くひろく行き渡っていた。
夜の濃紺がそれに続いていった。
もうすぐ夜だ。
ラプンツェルの屍
携帯が光った。
この色は、メールだ。
サイレントにしてあるから、音はしない。
無造作に引っつかむと、画面を見下ろした。
その目線が蔑むようなのは、自分が一番知っていた。
ただの広告メールだったとき、
わたしの視線は柔らかくなる。
だから、その目線は来るべきメールへの侮蔑ではない。
自制なのだ。
そのメールを眺めたとき、まさか自分が喜びはしないかと。
喜んでたまるか、と。
喜びの表情を出さぬための予防線と、
そうせざるを得ない自分への本当の蔑み。
* * *
魔女の家のラプンツェルが食べられなければ死んでしまうから、と。
やっと授かった子供を宿す妻が病んでいる現在。
無事に生まれたとて子供を犠牲にする未来。
本末転倒どころか、卑しいほどのエゴイズム。
ほんとうは、本当に大事なのは、生まれてくる「子供」ではなくて、
「子供が生まれた」という事実。
本当に授かりたかったのは、子供を造れるという自分たち。
* * *
またメールが来た。
今度こそ、来るべきものだった。
だけど、
わたしは泣いてしまった。
結局、用意しておいた予防線も自分への侮蔑も、そこにはなくて。
事実の前には、慈悲も蔑みも怒りも、歪みですら形を溶かしてしまう。
こういうとき、ひとは祈るのだろうか。
神さま、と。
