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週プレ NEWS (2019年4月8日付)
【 「日本人はまだコカインの本当のヤバさを知らない」モーリー・ロバートソンが徹底解説 】

「クスリはダメ、ゼッタイ」。大麻でも覚醒剤でも、そしてコカインでも、日本ではすべてをこの枠に押し込めてしまい、問題の本質に目が向くことがない。コカインはほかの薬物と何が違い、どこが最大の問題なのか?

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが徹底解説!

■"新しい強壮剤"として売り出されたことも

 ミュージシャン・俳優のピエール瀧氏がコカインの使用で逮捕されてから、「関連作品の販売停止や放送自粛は過剰か」といったものも含め、さまざまな議論・報道が飛び交っています。

 なかには著名人に対する「ざまあみろ」という群衆心理に乗っかり、問題の本質と関係ないところで藁(わら)人形にひたすら釘を打ち込むような言説も見受けられますが、そもそもコカインとはどんなものかという理解が深まっているとは思えません。

 今回フォーカスしたいのは、「コカインを供給する側」の闇の部分。コカインはしばしば"セレブドラッグ"といわれますが、それを嗜好(しこう)する人々の多くは、知らず知らずのうちに人道的な問題の拡大に加担している――そんな"現実"を紹介します。

 日本ではさほど実感がないかもしれませんが、世界ではコカイン市場が活況を帯びています(コカイン以外のドラッグも大盛況ですが)。米疾病対策センター(CDC)によると、米国内におけるコカイン中毒死の数は近年急増しており、2017年には1万4500人以上が過剰摂取により命を落としています。

 新種のドラッグが一時的に流行するのはよくある話ですが、クラシックなドラッグであるコカインが、なぜ猛威を振るっているのか。それを理解するための補助線として、まずはコカインの歴史をざっとひもといてみましょう。

 コカインの原料はコカという植物の葉で、紀元前3000年頃には、南米大陸北西部に栄えた古代インカ帝国の人々が、高山特有の薄い空気に順応するためコカの葉を噛んでいたといいます。

 長らく日常的に、あるいは宗教的儀式の際に主に中南米で広く使われていたコカですが、16世紀にペルーを侵略したスペイン軍は、先住民を銀山で強制労働させるためのツールとして利用したといわれています(第2次世界大戦中、旧日本軍が覚醒剤を使用したのと似たような使い方です)。

 時は流れて1850年代、ドイツの化学者がコカの葉から初めてコカインを抽出することに成功します。1880年代に入ると医療(主に精神医療)の現場でも活用され、有名なオーストリアの精神分析学者ジークムント・フロイトもコカインを"魔法の物質"と称して傾倒。

 今でいう向精神薬として、「大量に摂取しなければ死ぬことはないから、正しく知って、正しく使いましょう」と、コカインの使用を強く推奨するようになります(同時期に書かれた小説『シャーロック・ホームズ』シリーズにも、コカインがたびたび登場します)。

 アメリカではハリウッドの有名女優などもこの"新しい強壮剤"の宣伝に一役買い、コカインは広く普及。しかし、次第に過剰摂取による中毒死の続出が問題視され、1922年、ついにアメリカでコカインが違法薬物として正式に禁止されるに至りました。

 以来、米社会では「黒人が使う違法薬物」と位置づけられていたコカインですが、約半世紀の時を経て"リバイバル"が起こります。60年代末からロックミュージックと結びついて"カウンターカルチャー"としての薬物(主にマリファナやLSDなど)が広がっていたところに、ベトナム戦争でヘロイン中毒となった兵士が大量に帰還。

 売人を含めた薬物市場が活性化し、コカインが主に白人富裕層の間でブーム化しました。80年代に入ると供給量が増えて販売価格も下がり、貧しい人々にも広がって深刻な社会問題となっていきます。

 折しも、1970年代後半から80年代にかけてアメリカはディスコブーム。コカインの"効能"とディスコ文化は非常に親和性が高く、若者の間で爆発的に広がったのです。

■経済危機でコカの作付面積がV字回復

 70年代以降のコカインブームを供給面で支えたのは、コロンビアの「メデジン・カルテル」などの巨大麻薬組織でした。米政府やコロンビア政府はこうした組織の撲滅に力を注ぎ、2000年前後を境にコカインの生産量をいったん抑え込むことに成功。

 ところが、2010年代に入るとコカインの供給量は"V字回復期"に入り、コカの作付面積は2010年からの8年間で約4倍に拡大しています。

 コロンビアではメデジン・カルテルやカリ・カルテルなどの大型組織がなくなっても、細分化した各組織が活発に活動しているのですが、その背景には深刻かつ解決困難な貧困問題が存在します。

 特に、2014年末から続く石油価格下落により、近年のコロンビア経済は危機的な状態にあります。そのため、野菜などがまともに売れない多くの貧しい農家が、一度は離れたコカ栽培に復帰。

 さらに、国家財政が破綻した隣国ベネズエラからの多くの移民が、国境沿いのコカ畑でコロンビアの麻薬カルテルのために働いているのです。

 大した収入にもならず、また違法なコカイン生産の一端を担っていることを認識しながらも、背に腹は代えられない貧しい人たちが、半ば強制労働によってコカの葉を栽培。

 密売人もカルテルに脅されつつ販路を広げ、世界中の"末端の消費者"に届く――こうした現実を俯瞰(ふかん)してみると、コカインの生産・流通・消費のルートが極めて非人道的な"不幸の連鎖"によって成り立っていることが理解できると思います。

 先進国では"セレブドラッグ"といわれるコカインに手を出すことは、その搾取構造に加担することでもあるのです。

●モーリー・ロバートソン ( Morley Robertson )
 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『教えて! NEWSライブ正義のミカタ』(朝日放送)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!
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  アメリカにおけるコカインの大量流入を論じるならば、" イラン・コントラ事件 " を論じなくてはなりません。これを論ぜずして「日本人はまだコカインの本当のヤバさを知らない」などと言う、しかも、アメリカ国籍の ジャーナリスト が言うのは笑止千万。顔を洗って出直して欲しいものです、ハイ。

 そもそも、80年代の半ば、アメリカにコカインが大量に流入するようになったのはアメリカ政府自体にも責任の一端があります。どういうことかと言うと、1986年に表面に出てしまった " イラン・コントラ事件 " からうかがい知ることができます。では、イラン・コントラ事件とは何か、です。

 この事件は《 アメリカ政府の情報機関 CIA が密かにイランに武器を売却し、その代金をニカラグアの反政府ゲリラ コントラ に提供していた事案 》です。当時のレーガン政権はイランとは国交断絶中でしたし、一方の コントラ は麻薬カルテルとほぼ一心同体というか、麻薬カルテルそのものでした。

 しかも、当時はイラン・イラク戦争(1980~1988)の真っ最中で、アメリカは公式にはサダム・フセイン率いるイラクを支援していましたので、イランとのウラ取引がバレることは避けたかったわけです。一方、ニカラグアでは1978年に革命が起き、左派のサンディニスタ民族解放戦線が政権を奪取していました。

 当時は東西が対立する冷戦時代であり、アメリカの国家戦略の1つが南北アメリカ大陸における覇権維持ですから、当然、サンディニスタ政権を放っておくことはできません。そこで、CIA はイランへの武器売却で得た代金を反サンディニスタ武装闘争を続ける コントラ への援助資金としたわけです。

 コントラはアメリカの支援を受ける前から資金獲得のために麻薬 --- コカインの栽培&販売に手を染めており、アメリカからの資金を得て武器購入やゲリラの養成訓練に当て、さらに CIA スタッフの協力を得てアメリカ捜査当局の網をすり抜けてアメリカ本土に大量のコカインを送り出していました。

 ここら辺の事情を小気味よく描いたのが2017年に公開された映画『バリー・シール / アメリカをはめた男』です。トム・クルーズ演じる バリー・シール(1939~1986) は実在の人物です --- 実物はトム・クルーズほどイケメンじゃありませんが。面白い映画ですが、結末は笑えませんし、否、恐ろしい。

 ここまでをお付き合いいただけたなら、1つのことに気づいて欲しいですね。それは、アメリカ政府はけして人道 --- 自由や民主主義を守るために動いているのではなく、あくまでわが身の利益優先で動いている ということ。そして、そのためには非合法活動もいとわない ってことです。

 実際、コントラがその正体は麻薬カルテルと分かった後も、CIA は支援を続け、果てはコントラすなわちメデジンカルテルなどの麻薬カルテルがコカインをアメリカに持ち込むことすら容認 or 援助すらしていたことからも分かります。大統領直属の CIA が麻薬カルテルと共同歩調の図という次第。

 そして、このように一国の政府が直接間接問わず麻薬ビジネスに手を染め、そこから得た利益を国策と称する非合法活動に利用するという図式は戦前の日本でも同様です。いや、イラン・コントラ事件の CIA よりももっと大規模に動いていました。里見 甫(さとみはじめ:1896~1965)という人物がいます。

 里見は旧満州で旧日本軍の奉天特務機関と深い関係を結び、三井物産などの大手商社と組んで麻薬ビジネスを行い、中国大陸でのアヘン販売を取り仕切っていました。その過程で国策通信社 満州通信社 を設立。同社は里見が設立した 新聞聨合 と 電通 が統合された会社で、敗戦後、電通は通信部を切り離し現在に至っています。

" 満州のアヘン王 " と呼ばれた里見がアヘン売買で稼ぎ出す収益はモノ凄く、1ヶ月当たり関東軍、満州国政府、甘粕正彦(=満州映画協会 理事長)へそれぞれ80万円(現在の価格で20億円!)ずつ渡していたとされます。特に満州国政府に注目です。ここで高級官僚として辣腕を振るっていたのは、現 安倍晋三総理の祖父 岸信介 でした。

 安倍晋三総理は日本維新の会と組んで熱心に IR法(カジノ法)の成立を進め、昨年6月に衆議院で、同年7月には参議院で共に強行採決され成立しました。日本は宝くじや公営ギャンブル、パチンコで既に年間29兆円弱の売り上げを誇るギャンブル大国で、国民一人当たり年間24万円! というスゴさです。

 この上、さらに国の政策としてギャンブル施設建設を進める必要があるのでしょうか。ギャンブルも麻薬同様に依存性があり、果ては人格破壊に至ることが医学的にも明らかとなっています。国民をはじめ、人々を依存性のあるギャンブルにいざない、その上がりを国家経済を回す資金の一部にするのは不健全過ぎです。

 戦前、祖父岸信介がアヘン売買で得た資金を満州国運営に回し、その孫である安倍晋三がギャンブルで得た収益で国家経済に回そうとする姿 --- そこには共に依存性で苦しむ人々、それらの人々の家族など周辺の人たちの苦しむ姿など一切考慮されていません。

 いいですか、皆さん。「儲かればナニをしてもいい」と考える政府は、最早、民主主義体制下の正当な政府の姿ではありません。依存性に苦しむ国民を救うためにさらなる増税を目論むのか、それとも自己責任とばかりに見捨てるのか。これは重大な問題です。けして、他人事でありませんよ。(2019/08/04 記述)
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