今、国会で審議されている " 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案(以下、略称 " 組織犯罪処罰法改正案 " & " 当該法案 " と称す) " ですが、当該法案賛成派(=報道各社を含め政府与党系の人たち)は " テロ等準備罪 " と言い、当該法案反対派(=報道各社を含め野党系の人たち)は " 共謀罪 " と呼んでいます。報道各社ですら当該法案の呼び名さえ異なっています。そこで、皆さんにお聞きします。皆さんは当該法案について正確な知識をお持ちでしょうか。

 もちろん、バリバリに詳しい当該法案の知識ではなく、要点を押さえた概略レベルの知識という意味ですが、ご存知でしょうか。恐らくほとんどの人が「何か、テロに関係する法案かな」や、「何人かで共謀するとヤバイのかな」といったレベルの理解だろうと思います。そして、多くの人が「政府が必要だと言うから、必要じゃないの」と思われているでしょうね。もちろん、これらの意見はどれも間違ってはいませんが、当該法案の理解という点で考えるならば、極めて不十分です。

 不十分どころか、これで安心&納得してしまうならば、皆さんの " 生活はとても危なくなる可能性大 " です。なぜか。その理由を以下に縷々説明していきます。
 まず、当該法案の略式名称が「組織犯罪処罰法改正案」ですから、" 組織的な犯罪集団が行った犯罪 " or " 集団が行おうとする犯罪 " を処罰するんだなということは分かります。ここでチェック! 当該法案の名前には " テロ " という言葉は出てきてませんね。あるのは " 組織犯罪 " という言葉だけ。ここ、重要ポイントです。

 なぜか。" テロは1人でも起こせるから " です。従って、当該法案を " テロ等準備罪 " と呼ぶこと自体、既に間違ってます。たった1人によるテロを組織犯罪と呼ぶわけにはいかないことは、法律以前の常識ですからね。いいですか、皆さん。法案の正式名称に " テロ " という言葉がないにも関わらず、この法案を " テロ等準備罪 " と呼んで報道したり、説明やら議論している人やメディアはスタートからウソをついてるってこと。そういう人やメディアを信用しちゃダメです。

 当該法案はあくまでも " 組織犯罪処罰法改正案 " ですから、当該法案が処罰対象にするのは " 組織=複数人の集まり "。複数人でテロを起こす場合も多いですが、実際は1人で行う " 一匹狼型テロ " も少なくありません。その意味で『当該法案はテロ対策法案とは言い切れない』、これが正確な理解です。現在、日本の国会では定例国会1回当たり150本前後の法案が提出されますが、当該法案ほど法案の名前と内容が異なる法案はありません。それだけ胡散臭い法案ということです。

 ここまでで多くの政治家や評論家、メディアの解説がウソということがお分かりいただけたでしょうから、次に進みますと「当該法案が処罰対象にする " 犯罪を行う組織 " とは何か」が大問題になります。一般論で言うと「ある人を処罰する法律のことを " 刑事実体法 "」と言います。当該法案も刑事実体法の1つです。で、刑事実体法には必ず明記されていなければならない事項があります。逆に、この事項が明記されていない刑事実体法は国会で可決施行されたとしても違憲無効です。

 では「必ず明記されていなければならない事項とは何か」です。それは「犯罪とされる行為の内容とその犯罪を行った場合に科される刑罰」です。たとえば、刑法第199条殺人罪。同条の規定は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」です。行為の内容が " 人を殺す " で、科される刑罰が " 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役 " です。このように、刑事実体法では犯罪とされる行為内容と科される刑罰が予め厳密に決まっていなければなりません。

 このことを " 罪刑法定主義 " といいます。その上で当該法案名を見ますと、" 組織犯罪処罰法改正案(略称) " ですから、「どういう組織がどういう犯罪を行ったら処罰されるのか」となります。この点、" 組織犯罪 " とありますから、暴力団、過激派グループ、カルト教団、テログループなどの組織が行う犯罪が対象のように思えます。当該法案ではこの " 組織 " の定義をどう明記しているのでしょうか。ところが、驚くことに、当該法案では " 組織 " の定義はありません。

 正式な名称が " 組織的な犯罪の・・・" ですから、組織の定義として暴力団やら過激派グループなどと限定できないのでしょう。まして、テログループと限定できているワケでもありません。簡単に言えば『2人以上が集まって何かをやろうと話し合えば、そのやろうとしていることが懲役4年以上の犯罪に当たる場合、実際に犯罪行為をしていなくても捕まる』ということ。一言で言えば『懲役4年以上になるような犯罪行為を「やってやろうか」と話し合っただけでアウト!』ってこと。

 この点はとても重要なので念押ししておきますが、当該法案のキモは『実際に犯罪(⇒ 懲役4年以上)をしていなくても、2人以上でそれを話し合っただけで捕まる可能性がある』ってこと。次回に例(※01)を出して説明しますので、この点はしっかり覚えておいてください。ですから、安倍総理などが国会答弁などで「一般の人は対象になりません」と言ってますが、まるっきりウソってこと。当該法案に組織の定義がないのですから、2人以上であれば、当然一般人も対象です。

 どうですか、皆さん。こんな重要法案の国会審議で安倍総理も金田法務大臣も平気でウソをついているのですよ。この人たちは私たちの税金で雇われていますから、私たち国民にウソをつくこと自体、犯罪的な悪質さです。しかしネットを見ると、ネトウヨらだけでなく、多くの " 善男善女 " が「起こってからじゃ遅いから、テロ等準備罪を新設するわけだ」などと書き込みしています。コロッと安倍政権にダマされてますね。情けないと言うか、バカ丸出しと言うか、ため息が出ます。

 そもそも、当該法案は2000年11月に国連総会で採択された " 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(=パレルモ条約) " を日本国内で批准するために提出された法案です。ざっくり言うと、この条約は " マフィアや麻薬組織などによる麻薬取引・人身売買・金融詐欺・マネーロンダリングなどを国際的に取り締まる取り決め " です。安倍政権が説明するようにテロ対策の国際条約ではありません。にも関わらず「テロ対策」などと言う安部総理、ウソが過ぎますよ。

 当該法案はパレルモ条約が規定するマフィアや麻薬組織ではなく、先ほどから説明している通り、一般人を対象にする点で、同条約とは百八十度逆方向に向いている法案です。また、テロ対策に関して言うと、これまでわが国の警察は令状も取らずに対象者の車にGPS装置をこっそり取り付けるなど行き過ぎた捜査を行ってきました(⇒ 去る3月、最高裁は " 令状なしのGPS捜査は違法 " と判示)。ここまでをご了解の上、シェアした日刊ゲンダイDIGITALの記事をご一読ください。

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 引用始め▼
日刊ゲンダイDIGITAL 2017年4月24日
【共謀罪の本質バレた  法務省 " 見解不一致 " 露呈で官邸大慌て 】

 副大臣と政務官のマトモな答弁に官邸は大慌てだ。
 先週21日、共謀罪法案を審議した衆院法務委員会で、盛山正仁法務副大臣が「一般の人が(共謀罪の捜査の)対象にならないということはない」と言ってのけた一件である。井野俊郎法務政務官も「捜査の結果、シロかクロかが分かる」と、一般人への捜査の可能性を示唆した。

 これまで安倍首相以下、菅官房長官も金田法相も「一般の方が対象になることはない」と繰り返し強調してきた。副大臣と政務官の答弁で、共謀罪の本質がバレたわけだが、これで法務省内の見解不一致が明らかになってしまった。どうしてこういうことが起きたのか。

「マトモに答弁できず何も分かっていない金田法相であれば、どんな質問に対しても、『一般人は対象にならない』とトボケ続けられたでしょう。しかし、民進党の逢坂議員はかなりしつこく理詰めで質問しました。捜査を多少なりとも知っていて、質問にちゃんと答えようとすれば、副大臣のような常識的な答弁になるのは当然です。官邸も金田法相の答弁能力の低さを懸念するあまり、刑事局長を答弁に立たせる形で " 金田隠し " に必死になっていた。副大臣と政務官にまで気が回らず、コントロール外だったのでしょう。議論が噛み合ってしまうと、ほころびが見えてくる。安倍政権は今ごろ頭を抱えているのではないでしょうか」(政界関係者)

 実際、23日のNHKの日曜討論で自民党・茂木敏充政調会長は、「一般の市民や団体の捜査は全く対象とならない」と " 火消し " に躍起だった。

■野党には法案成立阻止の " 突破口 "

 共謀罪法案に詳しい小口幸人弁護士が言う。
「そもそも一般の人かどうかは、特定の人を調査や捜査をしてみないとわからないことです。" 一般の人は捜査対象にならない " という説明がウソだったのです」

 野党はマトモな議論の " 突破口 " をつかんだ。副大臣と政務官を攻めればいいのだ。さて、官邸は金田法相に続いて、「副大臣・政務官隠し」までするのか。そうなれば法案審議の異常さがクローズアップされ、国民も違和感を覚えるだろう。政府・与党が画策する " 連休明け採決 " などもってのほかだ。
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 いかがですか、皆さん。引用した日刊ゲンダイDIGITALの記事も、これまで安倍総理や金田法相らが繰り返してきた「一般人は対象にならない」という国会答弁が丸っきりウソだったことを報じています。加えて、記事では当該法案が現実になった場合の恐ろしさを小口幸人弁護士が指摘しています。それは「(当該法案で処罰対象になる人が)そもそも一般の人かどうかは、特定の人を調査や捜査をしてみないとわからないことです」 という部分。コレ、超重要です。この点を次回検討します。(2017/04/29 記述)

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