『正しい " 戦争の始め方 " 』を考えて、いよいよ最後になりました。最後の論点として " 集団安全保障 " を考えます。集団的自衛権との違いを意識しつつ検討していきます。

 1つの例として、あるクラスを考えます。30人のクラスにA、B、C3人の仲良しがいて、Bと仲の悪いXがいるとします。ある日、XがBにケンカを売ってきた。Bが殴られるのを見たAが、Bをかばって、Xを殴ったとします。すかさず、CがXを羽交い絞めにして、AがさらにXを殴った。このA、B、Cの関係が集団的自衛権です。
 一方、同じ状況で、BがXに殴られ、Bはクラス全員に助けを求めた。すると、クラス全員がXを取り囲み「止めろよ」と口々に言った。それでもXが止めないので、A、C及び他の数人でXを取り押さえた。これが集団安全保障です。


 集団的自衛権と集団安全保障の最大の違いは、攻撃されているBを助けるのが仲良しA&Cか、クラス全員か、という点です。この違い、実は大きな違いです。なぜか。
 最初の例で言えば、A、B、Cの3人仲良しに対し、対立するX、Y、Zの3人仲良しもいたならどうなるでしょうか。Bを助けるため、A、CがXを攻撃していると、Xを助けるため、Y、ZがA、Cに殴りかかってくるでしょう。B⇔X間のケンカがA・B・C vs X・Y・Zの大ゲンカにエスカレートします。つまり、集団的自衛権の行使はケンカが収まるとは限らず、逆に大ゲンカに発展する可能性が高い。怖いですね。


 集団安全保障では、対立する2つのグループがあったとしても、BがXから攻撃された時点で、Bはクラス全員に助けを求めますから、いきなりA・B・C vs X・Y・Zの大ゲンカにはなりにくい。両グループに属さない人たちが話し合いを提案するでしょう。また、Xにしても衆人監視の下でBを殴り続ければクラス内での立場はなくなってしまいますし、最悪、クラス内で孤立するかもしれませんので、止めるほかありません。つまり、集団安全保障では大ゲンカにならず、収束に向かう可能性が高い。


 いかがでしょうか。" 集団安全保障と集団的自衛権の違い " が明らかになったと思います。そして、国連の基本的スタンスは " 集団安全保障体制 " です。「自分の国は自分で守る(=個別的自衛権)」を各国共通のスタンスとしながら、それでは十分ではない場合に「攻撃を受けた国は国連安全保障理事会に訴え出て集団安全保障の枠組みで対応する」、これが基本。それゆえ、集団的自衛権行使による軍事同盟などは例外的な措置と考えるべきです。


 もちろん、日米安保条約も集団的自衛権行使の取り決めですから、同条約によるわが国防衛は謙抑的に考えるべきなのは言うまでもありません。具体的には、憲法第9条の規定に従い、自衛隊が主体となって、国民の生命・身体・財産を守ることを主眼に、領土・領海・領空の防衛に務めるということ。従って、敵地攻撃やら先制攻撃などは原則として行ないません。すなわち " 専守防衛 "、これをわが国防衛の大原則とすべき。その上で、日米安保条約上、アメリカ軍との連携(=双方の役割分担)を考えることになります。


 実は、日米安保条約に基いて自衛隊とアメリカ軍の連携の取り決めが " 日米防衛協力のための指針 " です。これは通称 " 日米ガイドライン " と呼ばれ、既に1978年から締結されています。1978年の日米ガイドラインは " ソ連の侵攻 " に対応する内容、1997年の日米ガイドラインは " 朝鮮半島有事 " に対応する内容でした。そして2015年に改定された日米ガイドラインは " 安倍政権による集団的自衛権行使容認を受けて、地理的制限なくアメリカ軍への後方支援活動などを実行する " 内容となりました。


 いかがですか、日米ガイドラインの " 時代による変遷 "。2015年のガイドラインの " 異質さ " が際立っていることがお分かりいただけたでしょう。本来、日本国憲法第9条の下での自衛隊とアメリカ軍の連携(=ガイドライン)ですから、地理的行動範囲は日本周辺、多少拡張しても東アジアまでが限界でしょう。それが今や " 地理的限定なし " ですから、驚きです。これでは、前回お話した「アメリカの3つの国家戦略に自衛隊(=日本)がスッポリと取り込まれてしまっている」と言うほかありません。


 2015年の日米ガイドラインの改定は " 軍備増強を図って強引な海洋進出を行う中共への対応であること " は間違いありません。しかし「安倍政権は解釈改憲を行って集団的自衛権行使を容認し、積極的平和主義などと言いつつ、地球上のどこにでもアメリカ軍について行く姿勢を明らかにした」のです。アメリカべったりもココまで来ると、もう " 売国奴か大バカ者 " と言うしかありません。そもそも安倍総理の言う " 積極的平和主義 " なる言葉自体、本来の政治学的意味とは正反対ですから。いい加減にもほどがあります。


 繰り返しますが、アメリカは自らの3つの国際戦略に基づいて外交・軍事政策を行っています。そして " アメリカの国際戦略=日本の国際戦略 " ではありません。しかも、日米安保条約を錦の御旗にしてアメリカにくっついて行くことは集団的自衛権の行使ですから、国連の錦の御旗=集団安全保障体制とは正反対ですからね。ヨーロッパでも集団的自衛権組織であるNATO(=北大西洋条約機構)がありますが、NATOはアメリカを中心に、イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スペインなどヨーロッパの旧列強諸国が加盟しています。


 翻って、日米安保条約は日本とアメリカだけ。韓国や台湾、フィリピンなども加盟する集団的自衛権行使のための軍事機構はありません。しかも、NATOは軍事行動を起こす際、それぞれの加盟各国が国連による制裁決議が出ているかどうかを主体的に判断して軍事行動を取るかどうかを決めています。この点、先のイラク戦争では、アメリカの軍事行動につき従ったイギリスのトニー・ブレア総理は戦後、イギリス議会で厳しい追及を受けています。日本では自衛隊の活動は後方支援だけだったためか、小泉純一郎総理への追求などありませんでした。日本とイギリスの " 国民の意識の差 " ですね。


 2015年の日米ガイドラインにあるように、日本が本当に中共の軍事的膨張に備えるのであれば、まずは東南アジア諸国と図ってNATOのような国連憲章第51条が定める限定的な集団的自衛権行使組織をつくることになるでしょうが、安倍総理はもちろん自民党の議員たちは、なぜか " 戦前回帰路線 " にご執心。かつて日本から侵略を受けた国々が、ことある毎に戦前回帰路線をちらつかせる日本の政府与党を信頼するはずもありません。戦前回帰路線にこだわる自民党が政権党である限り、日本の安全保障は万全な体制にはなれません。もう一度国連創設の由来と趣旨を考えるべきです。「国内向けだから大丈夫」などとタカをくくって戦前回帰などやってると、本当に敵国条項が適用されますよ。冗談じゃ済みません。


 ネトウヨや自民党ネトサポの人たちは「サヨクや反日じゃ、日本を守れない」などと言いますが、現実を知らない激バカちゃんということ。日本を危険にさらしているのは、むしろ自民党ですよ。本来であれば、『" 自衛隊による専守防衛 " と日米安保条約による日本周辺諸への対応強化こそがわが国の安全保障の原則』です。しかし、中共の膨張への対応でそれ以上を求めるならば、同じ対中共問題を抱える東南アジア諸国と限定的集団自衛体制を築くべきですが、それは自民党の戦前回帰路線で無理。そこで無理やりアメリカにくっついていく、この情けない状況が、日本の安全保障の現実です。


 こう言うと必ず「現に今、中共の脅威があるから仕方ない」という声が上がってきます。しかし、ここは冷静に考えるべき。" 中共の脅威 " と言いますが、本当にそうでしょうか。過去に本投稿でも指摘していますが、東アジアの地理的状況を見れば、中共のポジションが分かります。1978年、鄧小平の主導による改革開放路線がスタートし、1989年の天安門事件により一時停滞したものの、1992年には社会主義市場経済体制への移行を掲げ、その後は目覚しい経済的発展を遂げてきています。


 中共について多くの論者は " 中共の経済発展 ⇒ 軍事力増大 " という表面的な事象のみを語ります。しかし、よく考えると『経済発展の本質は " 資源輸入&製品輸出 " のために貿易依存度が高まる』ということ。で、貿易依存度が高まるということは、輸入であれ輸出であれ、陸路であれ海路であれ、" 交易ルートの確保 " が必須課題になります。ゆえに、国家は軍事的手段を用いても交易ルートの確保を図ります。この点は、既にアメリカの国家戦略でも説明しています。中共もまったく同様です。


 アメリカと異なり中共が条件的に難しいのは、1)国内に抱える人口が大きいこと、2)国内で産出する石油資源ではまったく足りないこと、3)民主主義体制ができていないこと、の3点です。そして、中共が表面的には " 軍事的膨張政策 " に見える " 交易ルート確保政策 " を取る場合、陸上では西に向けて進むか、海上では東に向けて進むかしかありません。陸上を西に進む場合、これはイスラム勢力などと必ず衝突します。また、たとえ陸路の安全性が確保されていても輸送コストが高い。


 一方、海上を進む場合、東&南シナ海まではスンナリ出られますが、そこから先は島々からなる国々に阻まれて難しい。ただ、航路の安全性が確保されれば安価に大量の輸送ができます。そこで、中共は " 海上交易ルート確保をこのまま軍事力増強路線で行うのか、周辺諸国との緊張緩和路線で行うのか " の選択を迫られます。このことは、ウラから見れば、日本と東南アジア諸国が連携する限定的集団自衛体制が整えば、中共が取り得る選択肢は緊張緩和路線のみになるということです。


 一方、アメリカの国家戦略の1つ " ユーラシア大陸に覇権国家誕生を許さない " を念頭に置けば、アメリカはわざと軍事的対決路線を取るでしょう。なぜか。少なくとも現在の中共の軍事技術力を見る限り、向こう10年かそこらでアメリカの軍事力に対抗できる軍事力を中共が持てる可能性はないからです。しかも、中共がこの先10年以上軍事力増大路線を続ければ、国家財政の破綻が現実味を帯びてきます。その時、13億を超える民を納得させる政策を打ち出すことは無理でしょう。つまり、共産党独裁という中共の国家体制自体が弱点なのです。


 アメリカのこうした " 軍事力拡大競争路線に持ち込んで経済的に相手をねじ伏せるやり方 " は、旧ソ連に対して成功をおさめ、結果、冷戦に勝利した戦略です。まさに『戦わずして勝利を収める』孫子の兵法ですね。政治的には素人とされるトランプ大統領ですが、その政権の国防担当は経験豊富な軍人出身者揃いです。恐らく、彼らのアドバイスでしょうが、トランプ大統領は手始めに軍事費10%増加、特に " 核戦力リニューアル " を打ち出しています。アメリカと中共を比べて決定的な軍事力の差こそが " 核戦力 " ですから(核弾頭数 アメリカ:6800発  中共:270発 ■アメリカ科学者連盟調べ)。


 また、中共が廃船を改装した空母 遼寧ですが、これは戦力にはなりません。当然、中共も分かってますから、新たに2隻の空母を建造中です。これらの空母は原子力ではなく、通常動力型と見られています。通常動力推進で蒸気カタパルト装備となると、艦載機発進能力ではアメリカの原子力空母に劣ります。この点、現在公試運転に入ろうとしているアメリカの新型原子力空母ジェラルド・R・フォードは、蒸気カタパルトより先進的な電磁式カタパルトを装備していると伝えられています。さらに空母機動部隊が行動する際の " 目 " となる偵察&哨戒能力は比べモノになりません。


 いかがでしょうか。「アメリカの軍事力が相対的に低下してきている」という論者も多いですが、到底そのようには思えません。空母や核戦力だけでなく、電子戦能力や空軍力、陸上戦力など、どれをとっても中共がアメリカに対抗できる分野は皆無です。かろうじて、中共本土に近づくアメリカ艦隊に対しミサイル攻撃をかけるのが精一杯でしょう。しかもこの場合、アメリカがステルス戦闘機などによる攻撃を敢行するならば、中共の海岸沿いのミサイル基地など短時間で無力化されます。「中共にもステルス戦闘機がある」と思われるでしょうが、ステルス戦闘機の攻撃力は支援する早期警戒管制機(=AWACS)など電子戦機の能力で決まります。電子戦機の能力が劣る国のステルス機は脅威足りえません。


 従って、わが国の防衛を考えるならば、尖閣諸島など離島防衛をこれまで通り続け、対中共有事に備えて海上交通路の遮断を可能にする対潜哨戒を含めた情報収集力強化、海峡防護の対艦ミサイル&攻守にわたる機雷戦の備えなど、専守防衛の立場でこれまで通り粛々と続けていけばよいのです。特に、中共の目の前の海=東&南シナ海ですが、一部南シナ海に3500mを超える深い地点がありますが、それ以外は深度200~400mが多い。となると、潜水艦の行動は対潜哨戒機に把握されやすいということ。日米の対潜哨戒能力であれば、中共の潜水艦の行動は間違いなく把握されてしまいます。一方、深く潜れば、潜水艦発射弾道ミサイル(=SLBM)は発射できません。これも中共の核戦力の弱点です。


 また、東&南シナ海は大陸に近づけば近づくほど、なだらかに浅くなります。これは " 機雷の餌食になり易い " ってこと。わが国も太平洋戦争中、アメリカ軍が空中からまいた機雷に苦しめられました(このときの機雷がまだ海中に残っています)。アメリカや自衛隊が中共沿岸に機雷を大量散布すれば、あっと言う間に太平洋戦争中のわが国と同じ状況に陥ります。港目前での海上封鎖=沿岸封鎖です。これは、海上交易ルートの遮断を意味します。こうなると中共の継戦能力は大幅に失われます(わが国の場合、太平洋ルートもありますから機雷戦では中共より有利)。


 このように、ざっと見渡しただけでも中共の軍事力は穴だらけです。必要以上に恐れる心配はありません。マスメディアのいい加減な軍事評論を鵜呑みにしてもらっては困ります、ホント。ただし、中共の核弾道ミサイルが日本の米軍基地や主要都市などをターゲットにしているのは間違いありません。ですが、軍事的理由から中共は核の先制攻撃を自ら否定していますので、平時においていきなり核攻撃をしてくる可能性はまずありません。従って、日本は中共と深刻かつ決定的な対立を避けるようにすればよいのです。では、その際に有効な対中共戦略があるでしょうか。答えはイエス。


 中共にとって一番効果のある戦略が " 民主主義の輸出 " です。中共は社会主義市場経済なる珍妙な体制を取っていますが、国民が経済的に豊かになってくると、当然様々な要求が出てきます。1つは不平等の是正、1つは政治参加です。一党独裁体制の中共にとって、国民が民主主義に目覚めることが一番怖い。おまけに、中共国内にはイスラム教の少数民族などが複数存在します。現在はこうした人たちを弾圧していますが、いつまで続けられるでしょうか。経済発展が目覚しいからこそ、国民の間には不平等と一党独裁への反発が生まれてきます。すなわち、中共の国家体制が揺らぎます。


 つまり、中共にとって一番厄介なのが " 自由と民主主義の拡散 " です。それを同じアジア人の日本がお手本を見せることこそ、中共政府にとっての大打撃となります。従って『多くの中共の人たちに日本観光に来てもらい、自由と民主主義を見せる』、これがポイントです。軍事力を使わない安全保障戦略です。その意味でも、バカげた戦前回帰を掲げる自民党、安倍政権は百害あって一利なしです。自衛隊がアメリカ軍と一緒になって世界のあちらこちらに出て行く必要などありません。自衛隊は日本の空海陸の国境周辺をしっかり守ってくれればよいのです。徒らに中共の脅威を煽り、アメリカ軍にくっついて海外に出て行くなど、不必要どころか危険ですらあり、愚の骨頂です。


 安倍政権と自民党は国内で求心力を高め、一気に戦前回帰路線を実現するために " 中共の脅威 " をことさら煽っているのでしょう。しかし現在、中共は国連安全保障理事会の常任理事国ですからね。かつての十五年戦争時の中華民国とはまったく違います。安倍政権と自民党が調子に乗ってると「いつの間にか、国際社会で日本が孤立していた」なんて状況になります。そうなると、アメリカも助けてはくれませんよ。その証拠に、日米安保条約には日本を抑える " ビンのフタ " 理論は未だ生きているのですから。日米安保条約は、アメリカにメリットがあるからこそ結ばれているのですからね。


 かつてのように「気がついたら自衛隊が相手国に攻め込んでいた」とならないよう私たち国民レベルで政府の決定&行動を監視していくことこそが大事です。何度も述べますが、日本は国連では " 敵国 " ですから、調子に乗ってると大変なことになりますからね。そして、日本の最大の戦略的武器は " 平和憲法下での自由と民主主義 " であることに日本国民はそろそろ気がつくべきです。先進国で第二次世界大戦後70年を経る中、" 国家の行為として外国で一人も殺していない国 "、それが日本です。要するに、諸外国から恨みをかってません。これこそが日本の外交上の強力な武器です。


 皆さん、もうお分かりですね。ここまでの検討を総合すると、わが国に限らず、" 正しい戦争の始め方 " は、1)自国が直接攻撃された場合のみ、反撃として防衛戦争を行う(=個別的自衛権の発動)、2)国連安保理が出す侵略国への軍事的制裁決議のある場合のみ、日本国憲法に沿って他の加盟国と協議しつつ、抑制的に後方支援作戦に参加する(=集団安全保障の発動)、の2パターンのみとご納得いただけるでしょう。

(了)(2017/04/19 記述)
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