国道179号線から県道26号線とつないで、宍粟市の役所がある山崎の町へ向かいます。市内で一番大きな町です。インターチェンジもあるし、マクドナルドもあります。
でも、日本酒が大好きな私の目的地は酒蔵。さっき、たつの市の見どころを調べるときに、ちゃっかり酒蔵も調べていたのです。
「Uくん、酒蔵寄っていいかい?」
どうやら山崎の町の中心部に2軒ほど造り酒屋さんがあるようなので、小さな瓶でも買って行くことにします。
県道から一本裏道に入ると、風情のある町並みが残されていました。その中にある老松酒造さんへ向かいます。造り酒屋さんの建物も、昔ながらといった雰囲気です。軒先には酒林が吊るしてあり、いかにも「酒造ってます」といった感じがたまりません。
店内に入ると、「日本酒発祥の地 宍粟市」と書かれていました。それによれば、「宍粟市一宮にあります庭田神社は、米から製造された酒(日本酒)に関するもっとも古い記述で、日本酒発祥の地といわれています。」とのこと。
◯◯発祥の地というのは全国各地にあり、日本酒の起源についても諸説あるようですが、こういったことを前面に出せるということはそれだけの自信があるということです。これは期待が高まります。
「ご予約、されていますか?」
お店の女性に言われましたが、「いえ。お酒を買いにきました」と言うと、「どうぞ」と案内されました。どうやらここでは食事もできるようです。
私は酒蔵へ行くと、まずは純米酒とワンカップを買い求めます。純米酒は、私が好きな酒。そしてワンカップも、私が好きな酒です。
蔵が力を入れる吟醸酒なんかが美味しいのは当然のこと。けれども、みんなが日頃から高級なお酒を飲むわけではありません。
普段の生活に寄り添うようなお酒。そんなお酒が、一番好きなのです。
近くにはもう一軒、播州一献の山陽盃酒造さんもありました。こちらの売店にも行ってみたのですが、冷蔵ケースが並んでいて、冷やしてあるお酒をそのまま車に積んでしまうのは気が引けます。とりあえず、今回は老松さんだけにしてみるのでした。
あとはお昼ごはん。たかのす東小学校の周りには、飲食店はおろか、コンビニだって期待できません。
Google Mapsを開いてみると、たかのす東小学校までの道沿いに一軒、不思議なお店が見つかりました。利用者が星を付ける評価によると、満点が5.0点のところ4.9点。
「Uくん。この店、絶対怪しいよ」
お客さん相手の商売ですから、利用者全員が満足することはあり得ません。それなのに4.9というハイスコアは、とても気になります。お昼ごはんはそこを目指すことにして、現地に向けて出発です。
ミュージックキャンプ参加を申し込んだ時、いただいた案内に、山崎ICからたかのす東小学校までの3つのルートが示されていました。
「アクセスが良いのは国道 29 号線ルート(Aコース)、スリルや田舎感を体験されたい方は県道 154 号線ルート(Cコース)をご利用ください。」
どう考えても走りやすいのは国道ルートです。けれども、それはあまり面白そうではありません。
「Uくん、山越えするよ」
しばらくは中国道に沿って走りますが、途中の土万三叉路からは先行車もいなくなりました。小さな集落をいくつか抜けると道はさらに細くなり、離合するのも苦労するような道が続きます。こんな道をスイスイ走るのは実に楽しいのです。
「まるで四国みたいだ」
私が言うと、隣でU氏が、
「まるでジェットコースターだ!」
と言います。
しまった! U氏を乗せているのをすっかり忘れて、いつものペースで走ってしまいました。それでも、U氏は楽しんでくれているので、このまま走っていくことにしましょう。
道はどんどん山深く入っていきます。「こんな道沿いに店なんかあるのか?」と心配にもなりますが、あるわけがありません。案内にあったBコースに行くべきだったのです。
案の定、店なんか一軒も見かけないまま、たかのす東小学校前に差し掛かりました。緑色のジャージで揃えた方々が、会場の準備をしてくださっているのが見えます。きっと今回のイベントの主催者、楽団四想の方々に違いありません。
何人かがこちらに目を向けたような気がします。そんなにたくさん車が通るところではないでしょうし、ましてや東京のナンバーで走る人はわずかでしょう。
向こうはこちらを知らないはず。それなら、ちゃんとあいさつをするのは後にして、「なんとなく走っている東京のナンバーの軽自動車ですよ」といった感じで通り抜けます。
たかのす東小学校を過ぎると、道は下り坂。U氏からは、さっきの山道だけでなく、下りもいいペースで走ると言われました。
「軽いから下りの方が有利なのさ」
「頭文字◯みたいなこと言ってる……」
私はなんとかDという漫画もアニメも見たことがありません。なんだか山道をガンガン車で走る話だということは知っていますが、こちらはパワーのない軽自動車。作中に登場するAE86のようなスポーツ車ではないので、軽自動車の性能の範囲内でのんびりと走っていくのでした。