目が覚めると,昨日は騒がしかった窓の外の亞皆老街Argyle St.はとても静かです。日曜日だからでしょうか。走っている車も少なく,道がとても広く感じられます。
その道の端を,水を撒いて清掃しているのが見えました。なるほど。雨でもないのに香港の道が濡れていることがあるのは,これのせいなのでしょう。
昨夜は疲れてそのまま寝てしまったので,朝,シャワーを浴びることにします。トイレの便器の上に湯沸かし器があり,そこの湯を約10分間使える仕組みのようです。
まずはスイッチを入れ,湯が溜まるのを待ちます。
その間,旅ノートをまとめたり,友だちへのはがきを書いたりしようと,テレビの下にある小さなテーブルのようなスペースに行って気がつきました。この部屋には,椅子がないのです。仕方なく,ベッドに寝ころびながら書き物をします。
そのうちに,スタンバイの赤ランプが消え,シャワーが使えるようになりました。トイレ・シャワー一体型の香港スタイルですが,ちゃんと温かいお湯が出るので無問題。スッキリしてから荷物をまとめて,最高のゲストハウス,ドラゴンホステルをチェックアウトしました。
花園街Fa Yuen St.に出ると,そこにずらりと赤い小巴が並んでいました。街中でよく見かける小巴ですが,これだけ並んでいると圧巻としか言いようがありません。思わず写真をパチリ。Instagramにもアップしました。
朝食は,ずっと行ってみたかった妹記生滾粥品へ。ドラゴンホステルからほど近い,花園街街市という市場の中の,熟食中心というフードコートの中にあります。
街市に近づくと,市場らしい匂いが漂ってきます。日本の市場よりももっと強い,食べ物そのものの匂い。でも,これこそ香港のエネルギーの源のような気がするのです。
エスカレーターで3階に上がると,目当てのお粥やさんはすぐに見つかりました。誰もいないテーブルに案内され,日本語も書かれたメニューをくれます。
魚が好きな私は,鯇魚腩粥Congee with fish belly(魚のアラ入り粥 ぼらのアラ入り)HK$39を注文。日本ではあまり食べる機会がないボラですが,クセはなく,弾力のある淡泊な身が美味しい。そして何よりも,皮の触感がたまりません。魚の皮が美味しいなんて,今までほとんど思ったことがなかった私がそう思ったくらいです。
調子に乗って,ボラの生の皮と書かれていた爽魚皮HK$25も注文。刻んだ生姜が載っていますが,臭みは全くありません。醤油に味つけでしょうか。それに香菜も効いていて,まさに爽やかな一品。コリコリとした食感も最高です。
贅沢な朝ごはんを満喫していると,同じテーブルに,ことりっぷを持った若い日本人のカップルがやってきました。何やら楽しそうにおしゃべりしながら,メニューを見て選んでいます。
やがて彼らが注文したお粥が運ばれてきました。中の具を食べようとした女性が,テーブルの真ん中にあった箸を取ろうとしたので,容れものごと取って差し出すと,
「Thank you.」
と私に向かって言うのです。
ん? これは嫌な予感。
というのも,前回の香港の旅では,何度か私が地元の人だと思われていたようなフシがあったので,今回もまたかと思ってしまったのです。
それからは,日本語のスマートフォンもガイドブックも,旅ノートも一切封印。一言もしゃべらずにお粥を食べ,「埋單(マイタン)」と言ってお会計をお願いしました。
そして,最後に席を立つときに,
「どうぞお気をつけて」
と声をかけると,さっきの女性がすごく驚いた顔をしていました。
エスカレーターに向かって歩いていくときに,背中越しに,
「あの人,日本人だったんだ」
という声が聞こえましたが,私,一体どこの国の人だと思われていたのでしょう……。
街市の中を少し見学させてもらいます。店先に並べられた豊富な野菜や果物は,どれも生き生きとして見えます。日本で見るものとは,色つやも違って見えるのです。
肉の売り場では,ブロックの肉がつりさげられています。よく見ると,豚の丸焼きもならんでいました。吊るされた豚は,中の骨までしっかりと見えています。
命をいただくということ。頭ではわかっているつもりでも,日本で生活していると,そのことを実感する機会はなかなかありません。しかし,香港では身近なところでそれを見ることができる。どちらが良いとは言えませんが,こんなところでも香港という街のエネルギーを感じることができたのです。