思い出したんだが。

極限状態での人間心理に興味があって、山岳遭難者の手記とかよく読む。へーと思ったんだけど、案外多くの遭難者が幻覚で「演歌が聞えてきた」と言うんだよね。猛烈な吹雪の中で死にかけてるときに、どこからか演歌が聞えてくる。漁船と大漁旗まで見えてきた人もいた。

彼らは大半が若者で、演歌なんて普段は全然聴かない人たち。「よりによって演歌?」とみんな驚いているのが面白い。過酷な状況から日常へと逃避し たいがために幻覚を見るのだろうから、つまり、演歌とか漁船とかって、「日本人にとっての日常性」を象徴してるのかな、と思ったり。

だけど、この話を人にすると「じゃあ、おれが遭難したらキング・クリムゾンが聞えてくるな」「おれスキマスイッチ」とか言い出すので、がっくりき てしまう。だから、好きな歌とか嫌いな歌が聞えてくるんじゃなくて、無意識の中に根を張る日本人としての共同意識がだな…とか言いかけて、自分でも説明で きなくて毎回終わるんだが。


しかし、演歌、大漁旗、ヤンキー、スナックの店内装飾などなどって、おれ自体好きじゃないけど、日本人のかなり深いところに根ざしてる気がする。ひょっとすると、数百年後に日本の戦後を代表する文化として熱心に研究されてるんじゃないか、とか妄想したり。