<はじめに>
ちょっと思い立ちまして、二次創作ではなくオリジナルで小説を書き始めてみました。
…といっても、タイトルすらまだ決まっていないほどの見切り発車で、今後どうなって
いくのやら見当もつかないのですが(笑)
スパ小説のつもりで書き始めたのに、そこにたどり着くまでがやたら長そうなのも
どうなの?って話で (´Д`;)
なので、今のところスパも無い、ただの小説もどきですけが、少しずつでも書き続けて
いきたいと思っておりますので、お暇な方はお付き合い頂ければ幸いです。
秋風の吹くころ16歳の誕生日を迎えて、その翌年の春。
僕、シーシアス・エキセターは生まれ故郷を離れ、帝都へ働き口を探しに旅立つことを
決意した。
誰かにそうしろと言われたわけでもないのだけれど、もう随分前からこの歳に旅立つの
は『運命』なのだと思っていて。まあ、子供特有の勝手な思い込み。と言ってしまえばそ
れまでなんだけど、僕にとっては冬が終われば春が来るのと同じくらい、それは自然で
当たり前のことだった。
貧乏ではないが、家長が働かなくても一家全員が食べていけるほど裕福でもない。
つまりごく一般的な家庭に生まれた僕は、ある程度の年齢になったら自立し、少なくとも自分
自身を養える程度の収入は己で稼ぐべく働きに出ることが義務付けられていたようなもので。
まあ田舎暮らしの次男三男は大概そんなものだから、その事にとりたて疑問や不満を
持つこともなかった。
特に僕の家は長男である兄の体が弱く、先に外でばりばり働いてもらうというわけにも
いかなかったから、なおさら無駄飯食らいを置いておく余裕などないという事情もあって。
父も母も『家から出て行ってくれ』なんて一度も言ったりしなかったけど、そこはまあ、
空気読め、ってやつだ。
そんな僕ら一家の収入を一手に支える父の仕事はといえば、村の子どもたちを相手に
勉強や剣術を教える傍らで、農業用の水路や、水車の動力を利用した製粉設備、村で
共有して使う上下水道……そういったものを整備する工事の音頭を執ったり、村中の
ありとあらゆるものの修理を買って出たり、というのがその主な内容だったが、特に
報酬らしい報酬もなくそんなことに夢中になっている人だったから、家の経済状態など
推して知るべし!だ。
それでも、工事の計画を一緒に考えさせてくれたり、図面を引く手伝いをさせてくれたり。
たくさんの機械が動く仕組みや、材料の特性、加工の仕方、それら全てを教えてくれたのは
父だった。
お陰で手先だけは妙に器用になったが、その代わりと言っちゃなんだけど、このご時勢に
出世のための最短ルートを切り開ける可能性のある能力『剣の腕』のほうは、さっぱり
……というやつで。
なにせ(確かに剣術の師でもあるけれど)この歳になっても、未だ父に一度として剣で勝
てたことがないのだ。お互いの年齢的なものを考えても、とてもじゃないが才能あふれる
とは言い難いに違いない。
だって非常に優秀な人だとは思うけれど、父はあくまで技術者なのだから。それに勝て
ないとは、我ながら情けない。
「シーシアスは綺麗な太刀筋をしているよ」
と兄は言ってくれたけど、……兄さんは優しいからな。
だから、特段変わったところのない人だと思っていた父に
「働き口を探すために帝都に行く」
と報告したとき、『それならば紹介状を書く』と言われて実は少し驚いた。帝都にそん
な事を頼める知人がいるなどという話は聞いたこともなかったし、それらしい友人が
家を訪ねてきたこともない。
ただ、言われてみれば手紙だけは昔からたくさん届いていた。村の郵便配達員さんが
専用の袋に入れて、必ず父に直接渡すようにしていたから、その内容も誰からのものなの
かも、もちろん僕は知らないのだけれど。
まあ、そうは言っても親にだって子供の知らない交友関係くらいあるだろう……。
実はその程度に思っていた。紹介状のあて先が
セントラニア帝国 大将 ガーランド殿
であることを知るまでは。
蝋で封をされた手紙の表書きにあるその文字を見て、『帝国の大将』ってジェネラル
クラスの将官の肩書き意外にも存在するのだろうかと、半ば真剣に考えてしまった。
厨房大将とか、清掃大将、みたいなさ。
が、話を聞く限り、そんななんちゃって大将ではなく、どうやら本当に帝国軍の現役大将
宛の紹介状……らしい。こんな片田舎に暮らしていれば、帝国の正規軍人だって物珍しい
というのに、そんな雲の上の人物に一体どんなつてがあったというのか。
もちろん勢い込んで聞いてはみたものの、『古い知り合いだ』という以外のことを言っ
てはくれなくて。
本当は食い下がって色々聞き出したかったのだけれど、普段は温厚そのもの、というか
茫洋という印象ですらあった父が初めて見せる異様に張り詰めた雰囲気と
「先方には、お前が帝都に行くことを手紙で知らせておいた。心配しなくていい」
というひと言に、その場は引き下がらざるを得なかった。
そしてその後も何度となく機会を伺ってはいたのだが、その度にあの時の異常な空気を
思い出してしまって。
結局詳しい話は聞けないまま、旅立ちの日を迎えることになった。
フサアカシアの花が咲き誇り甘く懐かしい香りに包まれた家の門の前で、集まった家族
全員に「行って来る」と挨拶をして。
別れ際に母から抱擁と頬に接吻を受けた。さすがにこの歳になって……と少し照れくさ
くはあったけれど、目を潤ませるその表情をみると無碍にもできなくて。
感傷的な出発にはしたくなかったから、殊更明るい口調で
「何も今生の別れってわけじゃないんだから。落ち着いたら手紙も出すよ。
休暇がもらえるようなら、たまには帰るつもりだし」
と、ありきたりの約束をした。
実際には、その言葉のうち確約ができるものなんてひとつもないのだけれど。
でも、そう言っておくのは必要なことだ。
自分自身の指針になる。
まあそんな身の上の僕だから、帝都へ向かう足となる馬だって名馬というわけにはいか
ないけれど、大志を抱いて旅立つ青年が乗るのは年老いたロバのようなよれよれの馬だと
相場が決まっているのだから、形而上の慣例に従ったまでだ。
何代目だか定かでないロシナンテとの道中は、それでも思ったよりは順調で。
時期柄気候が穏やかなのも幸いして、日中の旅は快適そのものだった。これから先の運
命もこの光景のように前途洋々と開けていく暗示なんじゃないかと、すっかり気をよくして。
そんなのはただの気のせいだ、なんてことは言われなくてもわかっているつもりだけれ
ど、できれば期待と不安とが熾烈な勢力争いを演じている内心に、楽天的な援護を送って
やりたかったから、可能な限り不安をかき立てるような事案には意図的に目を瞑ることにした。
*
故郷から早駆けでない馬の足で二日と半日。
それが、帝都クレイトンにたどり着くために必要な日数だ。
旅にはありがちな多少のトラブルには巻き込まれつつも、最終的には多少余裕を持って
帝都にたどり着くことができて。
それをくぐればすぐに市街が展開する石造りの堅牢な城門の脇にいったん馬を止め、
こっそりと安堵のため息をついた。
帝都に来るのは初めてではないけれど、町と町との間を定期的に運行している駅馬車を
使うわけでもなく、父や兄と一緒でもない完全な独力でここまでたどり着いた経験はなか
ったから。比較的治安が良いとされているセントラニアだけれど、僕くらいの年齢……に
限らずよほど腕に自信がなければ、独りで旅をするのは何かと危険を伴うものだ。
それに紹介状を受け取る際『必ず第四の月五日までにはガーランド殿に面会するように。
期限に間に合わなければ、この話はなかったものと思いなさい』と釘を刺されていたのだ
から、紹介状を使いもしないうちに紙くずにする羽目にならずに済んだのは、幸いと言っ
ていいだろう。
後は、この千載一遇のチャンスを活かせるかどうかは自分次第。
そう、何とも参ったことにここから先は、僕自身の才覚だけがチップのやり直しが効か
ないギャンブルみたいなもので。明らかに元手の少ない僕が『文無し』にならないために
は細心の注意が必要なはずなんだけど……。
実のところ何に注意すればいいのかなんて、さっぱりわからない。
なにせ、紹介状の内容すら僕はよく知らないのだ。
大将に失礼があってはいけないから身だしなみだけはしっかりと整えて、後はもう賽を
振らなきゃ何も始まらない。
門の入り口のところで馬を扱っている商人にロシナンテ『数え切れないくらい一杯』世
を引き渡し、ここまで無事に連れて来てくれた事への御礼と、別れを告げて。
帝都クレイトンの中心部へ、二度とは戻れない一歩を……って、そのときはそんな深刻
に考えもしなかったのだけれど、確実に僕は踏み出した。
□■□■ -鋼装騎兵隊-(2)へ ■□■□