心臓マッサージをしますか?と説明をしたとき”どれくらいの確率で助かるんですか?”という質問を受けたことが私はありません。実際はどうなのでしょう。

 

病院の中と、病院の外の違い。

 

病院という環境は安全に病気と闘うという意味でとても大切な場所になります。

ボクシングでは、試合中の選手の安全を守るため、レフリーや、リングドクター、セコンドなどが様々に選手を見守ります。

病院で患者を医療スタッフが見守っているのと同じ事ですよね。訓練されたスタッフがいる環境は蘇生率に大きな影響を与えます。

 

病院外と、病院内での心肺停止の蘇生率がそれを物語っています。

75歳以上が病院外で心肺停止になったとき、1ヶ月後に後遺症なく生存する確率は約1%にすぎません。

(循環器専門医第25巻第1 号 2017年2月p22-26)

逆に病院内の心肺停止になったときの1ヶ月後に後遺症なく生存する確率はは少し年齢が若くなる(平均年齢71歳)ので対比にはしにくいですが、約20%です(Circ J 2011; 75: 815 – 822)。

そういった意味で、入院することは安全に病気と闘うことができる場所と言えるかもしれないですね。

それと同時に”え?これしか助からないの?”という疑問もあるかもしれません。

一般の人のイメージとしては心肺蘇生の成功率は50%以上と考えている人の割合が81%であったという報告があります。

(J Am Osteopath Assoc. 2006;106:402–404)

痛いのに・・・。

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蘇生率の高い病態

 

病気には、癌、呼吸器疾患、心疾患などの様々なものがありますが、突然発症するような致死的的疾患を除いて基礎疾患は蘇生率にはあまり関係ないという報告があります(Medicine 74(4):p 163-175, July 1995.)。

ほとんどの心肺蘇生についての研究は基礎疾患よりも”心臓の止まり方”つまりどうして血圧がなくなるような状態になったかで調査されている報告が主なものとなります。

 

心臓マッサージで一番蘇生率が高い心臓の止まり方は何でしょう。

それは”心室細動”です。

心室細動は全身に血液を送る役割をする心室(心臓の下の部屋)がぶるぶると不規則にけいれんする病気です。

その回数は1分間に300回以上。

これが起きると心室の機能が麻痺してポンプの働きが果たせなくなるため、

脳を含めた全身への血液供給が停止して十秒で意識を消失。

適切な治療がなされなければ、十分で死にいたる可能性もあります。

心臓マッサージを行い、適切に電気的除細動を行えば

院内発症の心室細動だった場合約40%が後遺症を残さずに回復します(Circ J 2011; 75: 815 – 822)。

院外でも同様で、適切な処置さえ行われれば、

院外発症の心室細動であっても約25%が後遺症を残さずに回復します

(循環器専門医第25巻第1 号 2017年2月p22-26)。

本当に心臓が停止して痙攣すらしていない場合で後遺症なく退院できる割合は

心電図波形が記録できる状態

(PEA:pulseless electrical activity)

約17%

心電図波形が記録できない状態

(Asystole)約9%

となります(Circ J 2011; 75: 815 – 822)。

 

 蘇生率に関係する患者の状態は?


心臓がとまる、ということは体に大きなダメージを与えます。
それに耐えられるだけの体力も必要になります。
大きく関係するのは年齢とフレイルです。

年齢と共に体力は衰えます。
心肺停止と院内生存率と年齢を調べた研究では65~69歳までが22%、年齢が5歳上昇するごとに生存率は2~3%ずつ低下し,90歳以上になると12%になると報告されています(n engl j med 361;1 nejm.org july 2, 2009)。

フレイルとは虚弱とも訳されますが、加齢に伴う様々な機能変化や予備能力. 低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態をさします。
身の回りのことが一人でできず、歩行も困難になって来た人と、そうでない人では当然基礎体力が違います。
杖をついて歩いている人が院内心肺停止になったときの院内生存率は約46%ですが、寝たきりで動けない人の場合は約16%と1/3程度に下がります。(J GEN INTERN MED 37(14):3554–61)

○○どれくらい心臓が止まっていても助かるのか?


全身に血液が回らない状態が続けば、蘇生不能になります。
心肺停止になってから心臓マッサージをはじめる時間が1分遅れるごとに9-10%程度生存率が下がります。基本的に10分心臓が停止した場合、ほぼ助からないと考えられます。
また、心臓マッサージを20-30分以上続けていても蘇生しない場合もほぼ助からないとされます。
私も10分以上心臓マッサージをして歩いて帰った人を見たことは20年以上診療をしていて片手で数えるくらいしかがありません。

心臓マッサージの救命率は
①平均すると院外で1%、院内で20%程度である。
②心室細動が最も助かる可能性が高く、院外で適切な処置を受ければ25%、院内で適切な処置を受ければ40%程度。
③高齢、フレイルでは救命率が低い
④心臓が止まっている時間が10分を過ぎたらほぼ助からず、30分心臓マッサージをし続けて戻らなければまず救命はできない。


これらを理解する必要があります。

あなたはそれでも心臓マッサージをしますか?