マスクをつけていると熱中症のリスクが高まると報道されています。

報道記事をパラパラ見てみますと
岡山大大学院の伊藤武彦教授(公衆衛生学)はマスクを着用していると、空気を吸い込みにくく、吐き出しにくい。呼吸筋の負荷が大きくなることで余分な熱が生じ、体温を上げる要素になる。(山陽新聞2020年05月26日)
また、マスクをすると、喉の渇きに気づきにくいという意見もあります。
「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長 済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜さん(東京新聞2020年5月19日)
厚生労働省も熱中症予防のため三密でないときはマスクを外すように注意しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000633494.pdf
大学教授や医師グループがもっともらしいことをいっているのですが、なんでマスクをつけると熱中症になるのか、という明確な根拠を示したコメントはありませんでした。厚生労働省も明確な根拠を示していません。
私としては根拠がないことはすすめたくない思っていますので本当かどうかわからず困ったと感じていました。
早稲田大の永島計教授(環境生理学)はマスクと熱中症の関係を調べた研究は恐らくないが、体内の熱はマスクの有無でほとんど変わらないのではという意見です。(JIJI.COM2020年05月18日)
薬師寺 泰匡医師(薬師寺慈恵病院)も今のところ、マスクで熱中症のリスクが上がるという確固たるデータはありませんと述べています。(日経メディカル2020年5月28日)
私もどちらかというとこちらに近い意見です。
ということで仮説の域を出ていないことで注意喚起をしたくないので調べてみることにしました。
マスクをしているから口渇に気づきにくくなり、熱中症になりやすいということ、
マスクをつけることで呼吸筋の負荷が高まり、体温が上昇することに関しては
調べた範囲内では文献をみつけられませんでした。
ざっと調べたところマスクをつけて体温が上がると報告をしている論文はこれだけでした。
(Hong Kong j.emerg.med. 2005;12:23-27)
サージカルマスク、いわゆる普通のマスクをつけて30分した後に体温がどの程度上がったか調べたものです。
0.11度だけ上がったそうですが、臨床的な有意差ではありませんでした。
医療用のN95マスクという更に機密性が高いマスクでは0.27度上昇し、有意差があったとしています。
この報告では30分しかつけておらず、暑いところで測定しているわけではないのですが、少なくとも普通のマスクで簡単には体温は上がらなそうです。更に言うとこの論文では体温を耳と口で測っています。マスクによる顔面の温度上昇を示しているだけの可能性もあり、今ひとつ信憑性に欠けます。
実際にマスクを夏につけることは一般的でないことからデータがほとんどないと思われます。
医学雑誌の熱中症のレビューや厚生労働省のいままでのマニュアルを見てもマスクという項目はありません。
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
人間は90%以上の熱を皮膚からの放散で逃がしていることから犬のように口をマスクで多う程度で体温が上昇するという仮説は成り立ちにくいように思われます。
でもマスクつけると暑くなって具合は良くないのは事実だと思いますので更に調べてみました。
熱中症の病態は高体温とそれに伴う大量発汗で塩分と水分が失われることが合わさって生じます。
体温が上がるのではなく、マスクをつけることで発汗量が増えて熱中症になるのかもしれません。
その観点から調べてみます。
マスクをつけたときに生じることでマスクの中とマスクの外(工事などでの作業用ではありますが)で温度差を調べた研究があります。
Ann. Occup. Hyg., Vol. 56, No. 1, pp. 102–112, 2012
それによるとマスク内の唇の温度は1.2~4.8度温度が上昇します。マスクで覆っていない外の部分(頬)もその1/3程度温度が上昇します。夏場のマスクの中の温度を真面目に測ったことがないですが、普通のマスクでも顔の温度はそれなりに上がりそうな気がします。

テレビのニュースで口元の温度の上昇について着目しているものがありました。(FNNオンライン2020年5月19日)
この写真だとわかりづらいのですが、息を吐いた瞬間にマスクの部分が真っ赤になるようです。
首元の温度も上昇しています。マスクをつけることで顔面の温度が上がることは間違いなさそうです。
そして、体のどこの部分を温めると最も汗をかくかという研究がありました。
J Physiol 565.1 (2005) pp 335–345
顔でした。
4度暖めると発汗量が60%上昇するとされています。
逆に冷やすと発汗量が一番減る部位も顔でした。
以上のことから夏場にマスクをつけることで熱中症になるメカニズムの仮説で最もそれらしいのはこれではないかと考えました。
1)環境的に体温が上がっている。
2)マスクの中は更に温度が上昇し、顔の温度がマスクをつけていないときより上昇する。
3)顔の温度が上昇することによりマスクをつけていないときよりも発汗量が相当量増える
4)発汗が増えることで脱水になりやすくなり、熱中症の発症率が高まる。
どうでしょう。
いままでにあるデータに基づいて考察するとこれが一番すっきりするように思います。
現在のところマスクをつけることで熱中症のリスクが上がるという報告はない。しかし、マスクをつけることで顔の温度が上昇して発汗量が増え、熱中症のリスクが増える可能性がある。
すると冷たいマスクをしていればマスクによる熱中症リスク増加を防ぐことができるという仮説も成り立ちますね。
山形県で冷やしマスク始めた人がいました。
とても理にかなっている気がします。
売れ行きも良いそうで1日500個売れることもあるそうです。
流石冷やし文化をもつ山形ですね。
