【タイトル】
ICHI
【概要】
2008年の日本映画
上映時間は120分
【あらすじ】
盲目の旅芸人の瞽女である市は、チンピラに絡まれると浪人の藤平十馬が仲裁に入る。チンピラが襲い掛かって来るも刀を抜けずにいた藤平十馬をよそ目に市はチンピラを次々に切り倒すのだった。
【スタッフ】
監督は曽利文彦
音楽はリサ・ジェラルド/マイケル・エドワーズ
撮影は橋本桂二
【キャスト】
綾瀬はるか(市)
大沢たかお(藤平十馬)
中村獅童(万鬼)
窪塚洋介(虎次)
竹内力(伊蔵)
柄本明(長兵衛)
【感想】
曽利文彦監督にとって「ピンポン(2002)」以来となる監督2作目は、興行収入4億4千万円程度と振るわなかった。
一応は子母沢寛が原作の「座頭市」の主人公を男性から女性に置き換えたリメイク。按摩や鍼灸をしていた盲人を指す「座頭」ではないことから、タイトルはその座頭を抜いた「ICHI」となったのだろう。ただ、時代劇の映画でローマ字表記はやっぱり違うな。
また、「座頭」ではないのなら、わざわざ主人公を女性にしてまで「座頭市」のリメイクにする必要があったのかという話である。これだったら松山容子が主演した「めくらのお市物語 真っ赤な流れ鳥(1969)」に始まるシリーズのリメイクにした方が良くないか。こっちは主人公が「お市」なわけだし。
さらに、主人公の市は瞽女(ごぜ)という設定である。瞽女は盲目の芸者のことを指し、かつて篠田正浩監督、岩下志麻主演で「はなれ瞽女おりん(1977)」なんかでも描かれた。ちなみに、瞽女は秘密裏に男と関係してはならず、その掟を破ると「はなれ瞽女」として一人で旅しなければならなくなるものである。そんな瞽女である市が居合いの達人であるというのも無茶な話である。
それから、あろうことか本作の主人公は市というよりも大沢たかお演じる藤平十馬という感じである。市は基本的には完成されたキャラクターであり、藤平十馬が過去のトラウマを乗り越えるというお話である。本当に「座頭市」をやりたかったのかな。これなら、「座頭市」と離れて映画を作るべきじゃないかな。もう何がしたいのかが分からん。
そして、綾瀬はるか演じる市の居合いは基本的にスローモーションで演出されている。カッコよさはそれなりにあるのでこの演出で正解だったのだろう。ただ、映画内で市が居合いで斬る相手は雑魚ばっかり。しかもクライマックスは寝込んでいてほぼ不在。ほとんど勝負が決まった段階で登場してとどめを刺すだけ。この場面を除けば中盤に捕まった市が居合いで敵をやっつける場面以降、市の居合いは全く登場しない。藤平十馬のトラウマ克服をクライマックスに用意したもんだから市の出番がなくなるってどういうことよ。
その藤平十馬は過去のトラウマにより刀を抜けない状態にある。映画内での演出だと刀が壊れていて物理的に抜けないのかと最初は思ってしまう。刀自体は問題ないが、藤平十馬に問題があるという風に見えづらい。というか、侍が刀を抜けずに今までどうやって生きてきたんだよ。市と並んでこのキャラクターもリアリティを感じない。
どこか日本語っぽくない歌声の音楽がBGMでかかるのも違和感があるなと思って調べると、本作の音楽はリサ・ジェラルドとマイケル・エドワーズという二人の外国人が担当している。リサ・ジェラルドといえば、「グラディエーター(2000)」のクライマックスで流れる“Now We Are Free”を歌い、ゴールデングローブ賞の音楽賞を受賞した音楽家である。
さらに、エンドクレジットに入るタイミングで流れる主題歌は韓国人歌手SunMinの歌う「Will」である。歌いだしからしばらくは英語である。これも違う気がするなぁ。そもそも主人公を女性にした座頭市という時点でかなり奇をてらったことをやっているんだが、音楽にしても主題歌にしてもことごとく外している印象である。
百歩譲って女版座頭市は良いとしても、主人公を瞽女にしたうえにもう一人の主人公を用意する必要はないだろう。綾瀬はるかという素晴らしい女優を起用できたんだから、彼女が敵をばったばったやっつけるシンプルなお話で良かったと思う。綾瀬はるかは悪くない。
【関連作品】
「座頭市物語(1962)」…シリーズ1作目
「続・座頭市物語(1962)」…シリーズ2作目
「新・座頭市物語(1963)」…シリーズ3作目
「座頭市兇状旅(1963)」…シリーズ4作目
「座頭市喧嘩旅(1963)」…シリーズ5作目
「座頭市千両首(1964)」…シリーズ6作目
「座頭市あばれ凧(1964)」…シリーズ7作目
「座頭市血笑旅(1964)」…シリーズ8作目
「座頭市関所破り(1964)」…シリーズ9作目
「座頭市二段斬り(1965)」…シリーズ10作目
「座頭市逆手斬り(1965)」…シリーズ11作目
「座頭市地獄旅(1965)」…シリーズ12作目
「座頭市の歌が聞える(1966)」…シリーズ13作目
「座頭市海を渡る(1966)」…シリーズ14作目
「座頭市鉄火旅(1967)」…シリーズ15作目
「座頭市牢破り(1967)」…シリーズ16作目
「座頭市血煙り街道(1967)」…シリーズ17作目
「座頭市果し状(1968)」…シリーズ18作目
「座頭市喧嘩太鼓(1968)」…シリーズ19作目
「座頭市と用心棒(1970)」…シリーズ20作目
「座頭市あばれ火祭り(1970)」…シリーズ21作目
「新座頭市 破れ!唐人剣(1971)」…シリーズ22作目
「座頭市御用旅(1972)」…シリーズ23作目
「新座頭市物語 折れた杖(1972)」…シリーズ24作目
「新座頭市物語 笠間の血祭り(1973)」…シリーズ25作目
「座頭市物語(1974)」…テレビシリーズ
「新・座頭市(1976)」…テレビシリーズ/第1シリーズ
「新・座頭市(1978)」…テレビシリーズ/第2シリーズ
「新・座頭市(1979)」…テレビシリーズ/第3シリーズ
「座頭市(1989)」…シリーズ26作目
「ブラインド・フューリー(1989)」…ハリウッドリメイク/ルトガー・ハウアー主演作
「座頭市(2003)」…北野武監督作
「ICHI(2008)」…綾瀬はるか主演作
「座頭市 THE LAST(2010)」…香取慎吾主演作
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
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├オリジナル(日本語)
【ソフト関連】
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├オリジナル(日本語)
音声特典
├曽利文彦(監督)とスタッフによる音声解説
映像特典
├メイキング
├未公開映像
├VFXメイキング
├完成披露舞台挨拶
├ジャパンプレミア舞台挨拶
├公開初日舞台挨拶
├特報/予告/TVスポット