【タイトル】
チアーズ(原題:Bring It On)
【概要】
2000年のアメリカ映画
上映時間は98分
【あらすじ】
チアリーダー部のトーランスは引退する先輩からキャプテンを引き継ぐことになる。キャプテンとしての練習初日にカーバーが大怪我をしてしまい、オーディションを実施する。身体能力に優れたミッシーが合格し、彼女が練習を見守るとそれは他校からの盗用だと非難される。
【スタッフ】
監督はペイトン・リード
音楽はクリストフ・ベック
撮影はショーン・モーラー
【キャスト】
キルスティン・ダンスト(トーランス)
エリザ・ドゥシュク(ミッシー)
ジェシー・ブラッドフォード(クリフ)
ガブリエル・ユニオン(アイシス)
【感想】
約1千万ドル程度の低予算ながら、全世界で9千万ドル程度のスマッシュヒットを記録した。ちなみに、キルスティン・ダンストもガブリエル・ユニオンも学校でチアリーダーをやっていた経験がある。
独創性を売りにしていた彼女たちが一生懸命練習していたのは他校からのパクリだったことに気付く。それでもフットボールの試合までの時間を考慮してそのままの演技を練習する。そしてそこで他校と全く同じ演技を披露したことで大恥をかいてしまう。
それではダメだと気付いて慌てて振付師のスパーキーを雇って新しい演技を練習する。そして臨んだ大会では他校と全く同じ演技をしてしまうという大恥をかくことになる。そもそもこのスパーキーという振付師は各地で同じ演技を仕込んでいたという詐欺師の男らしいのだが、何がしたいのかがさっぱり分からない。一応はトーランスの恋人アーロンの差し金ということみたいだが、それでも理解に苦しむ。仮にアーロンと別れることを後押しする要素だとしたらちょっと意地が悪い。
というか他校と同じ演技を披露するというのを2回もやる必要はあっただろうか。最初の1回だけで十分に恥をかいてこのままではダメだと思わせる要素になっていると思う。なので振付師を雇うというのも悪くないが、ちょっと違うと思う。
結局、この2回の大恥によってついにトーランスらは独創性を見つめ直すことになる。そこからは今まで取り入れてこなかった要素を取り入れるシーンが足早に映され、最後の大会の場面に行ってしまう。チアリーディングに一生懸命取り組んできたティーンエイジャーたちが実は何かの真似事を必死に覚えさせられていた。だからこそ自分たちだからこそできる何かを目指すという流れをもっと意識すべきなのに、この独創性に取り組むシーンはモンタージュで片付けられてしまう。しかも、このモンタージュの中に出てきた要素は最後の演技にそこまで出てくるわけでもない。この所詮は真似事しかできない大勢の中の一人に過ぎない主人公たちが、自分たちのアイデンティティーを探し求めるには時間が短すぎる。そんなに真剣に向き合っていないように見えてしまうのは残念だ。
その観点から言うとライバルチームのアイシスはとても魅力的だ。パクリ演技でもディフェンディングチャンピオンとして全米大会への出場が決まったトーランスは父親に頼み込んでアイシスのチームが全米大会に出場できるようにお金を都合してもらう。そのお金を渡しに行くと当然の如くアイシスから受け取りを拒否されてしまう。もしお金のおかげで出場して優勝したとしてもケチがつくからと。ごもっともである。アイシスはチームの演技が他のチームにパクられて優勝したとしてもどこかにチクるようなことはしなかった(もしかしたら黒人故にチクっても受け入れられなかった⁉)。トーランスと比べても大人だし寛容だし、アイシスを演じたガブリエル・ユニオンも魅力的だった。ライバルキャラクターがこれだけ「できた」人だと主人公は「いまいち」に見えてしまうな。これでラストに主人公が優勝でもしようもんなら観客側がブチ切れていたところだ。
トーランスからすれば先輩たちが他校からパクった演技をオリジナリティあるものと信じて疑わずに練習してきた。それがパクリだと気付いて振付師を雇ったらそいつが詐欺師だった。これ自体はトーランスに責任があるとは思えない。ただ、リーダーという立場になった以上、解決させなければならなくなる。まさに立場が人を作る状況になるわけだ。
そこで独創性を本当に目指すのならばモンタージュで済ませるのではなくてチームメイトたちと真剣に考えぶつかり意見し合う場面を入れるべきだった。また、アイシスのチームが出場できるように父親に頼み、父親の作ったお金をアイシスに持っていく場面もティーンエイジャーのトーランスにすればいい教訓だと思うが、このお金を持って行ったらアイシスや彼女のチームからどう思われるかを想像できる能力がないわけだ。父親もほいそれとお金を出してどうする。そこは大人という立場の両親がトーランスを正しい方向に導く、あるいは間違った方向に導かないキャラクターとして存在すべきだ。これだとこの父親にしてこの娘ありという印象も受けてしまう。
それでもトーランスは逃げずにアイシスのところへ何度も通った。これは勇気のいることだろう。ただこれも勇気を出して行ったというよりも彼女なりの決意で行くべくして行った感じがする。このキャラクターの性格を考えるとやりそうではある。
というか、本作はたった98分の上映時間にあれもこれも詰め込み過ぎ。まず恋愛要素はごっそり削っても良かったと思うわ。この要素が映画内の面白さに直結していないし、そのパートが物語の進行の妨げになっている印象さえ覚える。それから本作は冒頭の時点ではトーランスを「勉強も頑張るキャラ」として進めていこうとしていたのかその形跡みたいな場面もある。序盤以降、トーランスが勉強を頑張る場面は一切出てこない。
それから、先輩が他校からパクった演技で優勝したという事実、それからその事実がありながら引退した先輩からトーランスをキャプテンに指名したことが失敗だったと言われる展開も以降は放ったらかしである。他校からパクった演技で優勝したことを何も悪いと思っておらず、それがバレて責められているトーランスを貶めるなんてただのクズである。このキャラクターをギャフンと言わせる展開は欲しかったな。
また、チーム内にはトーランスを良く思っていない二人の女子部員がいて、事ある度にトーランスに意地悪をする。彼女たちはいがみ合うだけで特段話し合うわけでもなく、最終的には「キャプテンの言うことは絶対!」と王様ゲームの如くトーランスの言うことにその二人は従うことになる。言っていることは間違っていないけど、トーランスが努力する描写にしないと対立している意味がないと思う。
それから、トーランスのチームがパクったのは黒人のチームの演技である。白人が堂々と黒人のものをパクっているのだ。これは当時、白人のラッパーとしてエミネムが大ブレイクしていたころだ。もちろん白人のエミネムが黒人のパクリをしたわけではないのは十分理解しているつもりだが、そう思われてしまうこともあったわけだし、遡ればエルヴィス・プレスリーだって黒人音楽から音楽の道に進んだ人だ。なんかこの辺りを深堀出来たとは思うが、本作のテイストなら無理か。
ぱっと見は明るく楽しい青春スポコンコメディなんだが、勢いに任せたいい加減な脚本の作品にしか思えない。不要な要素を削って主人公たちが他の何者でもない自分たち独自の演技を追求していき最終的に試合に敗れて勝負に勝つといった「ロッキー(1976)」方式をとるべきだったと思う。主演のキルスティン・ダンストはじめ、キャスト陣は概ね好印象だっただけに残念。
【関連作品】
「チアーズ!(2000)」…シリーズ1作目
「チアーズ!2(2004)」…シリーズ2作目
「チアーズ3(2006)」…シリーズ3作目
「チアーズ4(2007)」…シリーズ4作目
「チアーズ!アミーゴ(2009)」…シリーズ5作目
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【配信関連】
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