今日の午後からまた連続勤務が始まる。
働いて、連休を得て堕落休憩してまた働く。
人生はその連続に過ぎない。
だけどその果てが、そろそろ見え始めた今が
実はメンタル面で一番難しい曲がり角でもある。
何の為に自分は生きて来たのか?
大切な人を失った今でも、
何故自分だけは生かされているのか?
そんな自責の念に毎晩責められ、
浅い眠りの中でうなされる様になる。
私は、そう悩みを打ち明ける友人に
「それでも生きよう!」と、在り来たりの
使い古された薄っぺらな言葉で励ます事しか出来ない。
私は娘にもいつも言っている。
「お父さんは大丈夫だよ!
時々、お前が居ない寂しさに負けそうにはなるけど。」
 
 
 
「寝ずの番」36

その時龍平の胸には、怒りを勝る大きな悲しみの波紋が胸に広がった。
京太は肩に掛けたスコップを手に取ると勢い良く地面に突き立てた。
「おい、何をしているんだ?ここは誰かの墓だぞ!」
龍平は叫んだ。
「誰かの墓だって?お前、ふざけているのか!
ここはお前の叔母・洋子の墓じゃないか!」
「え?洋子さんの?」
「洋子の墓を掘り返したら、
お前のお袋さんの紫陽花のかんざしが出て来るかも知れない。
そう言い出したのはお前だぞ。龍平!」
京太はそう言うと凄まじい形相で龍平を睨み付けた。
京太に睨み付けられた龍平は顔を左右に振りながら嫌々をした。
「京太誤解だ、俺はそんな事は言っていない!」
「やかましい!」京太は言いながら
今度は地面に尻餅を付いたままの姿で居る龍平の肩を
思いっきり蹴飛ばした。
龍平は激しく後ろにひっくり返った。
京太は龍平が今まで見た事も無い凶暴な人間に変貌していた。
京太は一心不乱になって洋子の墓を掘り始めた。
そしてあっという間に丸型をした棺桶の天板が姿を見せた。
「龍平、よく覚えておくんだな。
なにもなぁ。埋められている死人全部が全部、
安らかに眠っているとは限らないんだぜ!」
そう言った京太の濁った虚ろな目は完全に狂気に支配されていた。
そして京太が腰に差した釘抜きと金槌を手に、
さあ釘を抜こうかとしたその時、
掘り出した棺桶の天板の辺りから
「ぎぎっ。ぎぎぎ~。」
と耳を塞ぎたくなる不快な摩擦音がふたりの耳に届いた。
京太は恐れをなして
地中から姿を現した棺桶から思わず2歩3歩と後退りした。
龍平は手で両耳を塞いだ。
「ぎぎっ。ぎぎぎ~。」
音と共に棺桶の天板の中央が僅かに持ち上がった。
そして耳元で雷が落ちた時の爆音が炸裂して、
同時に棺桶の天板が割れて辺りに飛び散った。
そして中から影の様な黒い物が飛び出した。
それは完全に腐乱した洋子の亡骸だった。
洋子の顔はガスが溜まってぱんぱんに膨れ上がっている。
体が飛び出た拍子に両目から眼球が毀れ落ちた。
落ちた眼球には透明の紐が繋がっている。
京太は思わず地面に尻もちを着いて
「はあ、はあ。」と激しい息遣いで
四つん這いになりながら龍平の元に逃げ込んで来た。
その時、森の中から緊急事態を告げる警報ベルが鳴りだした。
「おい龍平見て見ろよ。洋子の頭にかんざしが刺っているぜ!」
京太が腐乱した洋子の亡骸を指さしながら叫んだが、
その声は警報を告げるベルの大きな音にかき消された。
すると京太が龍平の体をドンと押した。
目の前に腐乱した洋子の腐敗した顔が迫った。
この時、畳の上で寝そべって組んでいた
龍平の片足が解けて畳の上にドスンと落ちた。
そして頭の付近ではアラームを仕掛けた携帯電話が
けたたましい怒鳴り声を上げながら畳の上で踊っていた。
龍平は、はっとして目を覚まし、
慌てて頭上の携帯電話を掴んでアラームをOFFにした。
「夢だったのか!」
龍平はそう呟いた後、暫く茫然として天井を見上げた。