前中後編のつもりでスタートし、中編までアップしましたが、とても残り1話では……とてもとても……
 
ちなみに1話目はこちらです。
 
前回はこちらです。
 
このタイミングにこんな流れで……甘さも……すみません(;>_<;)
 
 
 
 

 
 
 
 
「あれ?おかしいな、蓮のやつ……
 ここで待っておくように伝えたはずなんだけどーーーって、うわっ!!」
 
 
社が蓮を探しに自動販売機のある休憩所の周りをうろうろしていたところ、植え込みの陰に蹲るキョーコに気がついた。
 
 
「キョーコちゃんっ!?どうしたの、こんな所で!」
 
 
体育座りで顔を膝に埋めていたキョーコは、そろりと視線を上げた。
 
 
「……え?泣い……」
 
 
泣いていたであろうことがハッキリと分かるキョーコの様子に動揺した社は、一先ず人目につかないところへということでラブミー部の部室へとキョーコを連れ立った。
 
 
「……何があったのか聞いてもいい?」
 
 
何も話そうとしない雰囲気のキョーコに、社は遠慮がちに聞いた。
 
 
「……何も……ありません……。」
 
 
「何もって……」
 
 
やっぱり話したくないことなのかと思いながら社はふぅと溜め息を吐いた。
そして質問を変える。
 
 
「蓮を見かけなかった?」
 
 
「……見ま……した。」
 
 
「あいつ、どこに行ったかな?」
 
 
「……元カノと……どこかへ」
 
 
「元カノぉぉぉっ!!?」
 
 
社は初めて聞く担当俳優のスキャンダルに飛び上がった。
 
 
「元カノって!!?」
 
 
今まで蓮からそんなことは一言も聞いたことがないと、ましてやこのLMEの関係者区域内での出来事ということは、少なくとも業界関係者。
これは是が非でも担当マネージャーとして把握しておかなければ!と必死の形相だ。
 
そんな社の事情も察しがつくキョーコは、敢えて秘密にすることなく素直に答えた。
 
 
「お相手は……外国人タレントセクションのエイミーです。」
 
 
「外……?」
 
 
そう言えば新しいセクションの発足に向けて事務所内が慌ただしいことを思い出した社だが、エイミーとの面識はまだない。
 
 
「どこへ行かれたのかは知りません。
 お二人でお話はされていました……。」
 
 
「そう。ありがとう、キョーコちゃん。
 とりあえず俺は蓮の次の仕事のこともあるし、もう一度連絡してみるよ。」
 
 
社はキョーコを部室に残し、再び蓮を探しに出掛けた。
 
 
(蓮のやつどうなってるんだよー!
 元カノって……!!?しかも外国人??
 ……まぁでも……外国人のがむしろ納得かも……って!いやいや!
 キョーコちゃんにホワイトデー渡してもう少し二人はいい雰囲気になってると思ってたのに……
 キョーコちゃんを泣かせるようなことするなんていくら蓮でもお兄ちゃん許さないぞー!)
 
 
社は蓮へのコール音を鳴らし続けながら、事務所内をズカズカと探し回った。
 
すると、後ろから声を掛けられる。
 
 
「あ、社さん。」
 
 
「ん?って蓮!お前どこ行ってたんだよ!」
 
 
「え?どこって……ここで待ち合わせでしたよね?」
 
 
「え?」
 
 
社が辺りを見回すと、待ち合わせ場所に指定していた休憩所にたどり着いていた。
 
 
「でも、さっきは……」
 
 
「さっき?……あぁ、ちょっと人に道案内してたんで、いなかったかもしれないですね。」
 
 
「道案内……?それって……
 
 いや、どのみちこんな所では話せない。
 とりあえず移動するぞ、蓮。」
 
 
焦る社を余所にきょとんとした表情で次の仕事へ向かうため車に乗り込んだ蓮。
 
社はその車中で、キョーコから聞いた内容を蓮に問い詰めた。
 
 
「えっ……最上さんが……」
 
 
エイミーがキョーコと既に面識を持っていたことは分かっていた。
けれどもまさかエイミーが自分との過去の関係までキョーコに話していたとは思わず、また社から聞いたキョーコの状況から察するに、先ほどの際どい会話もキョーコに聞かれていた可能性が高いと蓮は感じた。
 
 
「なぁ蓮。俺はキョーコちゃんと付き合えとまでは言わないけど、悲しませるようなことはするなよ?」
 
 
「……なんでですか……
 
 そもそも、彼女は愛の欠落者ですよ?」
 
 
「……今でも……そうだと思うか?」
 
 
「…………」
 
 
「それと蓮……元カノって……一体いつ頃のなんだ?」
 
 
「…………俺が、アメリカに住んでいた頃です。」
 
 
「アメリカ?……そうか。
 
 いいか?蓮、スキャンダルにだけはするなよ?」
 
 
「分かってます……。」
 
 
社は蓮がアメリカに居たことがあること自体初耳だったが、蓮と初めて出会った頃から今までの様々な出来事を鑑みるに、点と点が線で繋がったように腑に落ちた。
 
 
 
一方、仕事を全て終えてだるまやの自室に戻ったキョーコ。
 
最初に部屋で見つけたとき以来開けることのなかったチェストを開けて、蓮から貰ったという指輪を取り出した。
 
改めて見ると、細かいディテールまで全てがキョーコ好みで、既製品ではなく特注品なのではないかと素人目にも感じた。
 
 
蓮は、自分のことを好きだと言ってくれている。
 
そして自分も、蓮のことを自分でも驚くほどにこんなにも好きになっていたんだと今回のことでよく分かった。
 
 
キョーコは、そっと指輪を左手の薬指に嵌めた。
 
 
そして、携帯を開いた。
 
 
 
「……あの、お話……したいことが、あります。」
 
 
 
 
翌日の夜ーーー
 
 
いつものように蓮と食事をすることになったキョーコ。
 
キョーコは、今夜蓮に返事をしようと決めていた。
 
 
蓮のマンションで簡単な食事を作って、二人で食べた。
 
他愛もない話や、仕事の話をしながら、まるでいつものようにーーー
 
 
食事の後片付けを蓮と一緒にし、蓮の淹れたコーヒーを飲み終わる頃、いよいよキョーコは蓮に切り出した。
 
 
「あのーーー敦賀さん……」
 
 
「……うん?」
 
 
「お返事……させて……下さい。」
 
 
「……うん。」
 
 
ソファーに並んで座り、キョーコの膝の上で固く握りしめられた手を見つめる蓮。
 
 
「……………………っ」
 
 
「…………?」
 
 
「……私も……敦賀さんが……好き……です。」
 
 
「……っ!!」
 
 
「………でも………」
 
 
「……でも?」
 
 
「っ……ごめんなさい……」
 
 
「えっ……」
 
 
「…………お付き合いは……出来ません……」
 
 
「それってどういう…………」
 
 
「これも……お返し……します。」
 
 
キョーコは鞄からリングケースを取り出すと、テーブルに置いて蓮の方へと差し出した。
 
 
「いやでもっ、これはホワイトデーとして渡したものだから……
 最上さんに持っていてもらいたい。」
 
 
「……っ……」
 
 
キョーコは悩んだが、そう言われてしまえば返しにくく、心ならずももう一度自分の鞄へと仕舞った。
 
 
「……帰ります。」
 
 
「っ!
 待って、送るよ。」
 
 
蓮は慌てて立ち上がった。
 
 
「……今日は、一人にして欲しいんです……。」
 
 
キョーコにそう言われ、返す言葉もない蓮は、出ていくキョーコの後ろ姿を見つめることしか出来なかったーーー。
 
 
 
 
 

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