コトン……と無造作に俺の目の前の小さなテーブルの上に、特に包装などもされていないパッケージのままのソレが置かれた。


「…………セツ……」


ただ置いただけで何も言わず、恐らく夜食でも作ろうとしたのだろう、袖を捲りながらシンクの方へと向かおうとしていたセツを俺は呼び止めた。


「なぁに?兄さん……」


「俺は、甘いものは食べない……。」


そう。
目の前に置かれたソレは、紛れもなく甘いものの代表ともいえるチョコレートだ。


「分かってるわ……。
でも、今日はバレンタインでしょう?」


あぁ。
そういえば、世の中にはそんなイベントもあったっけ……。
今はカインとしての演技の中で生きている俺にとっては、世間が盛り上がっているイベントだろうと知ったことではない。


「私のだぁいすきな兄さんに何も渡さないなんて出来ないわ。」


大好き……か。
いつか最上さん自身に言われてみたい台詞だな……。


「これでもなるべく兄さんが食べてくれそうなものを選んだのよ?」


そう言いながら箱の蓋を外したセツは、中身を俺に見せながら、ほらね?と俺の反応を伺っている。

決して手作りでもないソレは、きっと最上さん自身だったら有り得ないようなチョイスなのだろう。
でもそれがセツだと思うと何だか納得出来る。

箱の中の一つのチョコレートを手に取った俺は、可愛い妹からのプレゼントを無下に出来る筈もなく、その包み紙を剥がした。


「私も一つ食べちゃおっと。」


そう言いながら伸ばして来たセツの手を俺は咄嗟に掴んだ。


「待て。
これはブランデー入りだろう?」


セツは未成年だ。


「そうだけど……
一つくらい、いいじゃない。」


「ダメだ。

……どうしても欲しければ、取りに来い……。」


きっとそこまでして食べたいとは言わないだろう。
そう高を括っていた。

…………俺が、間違っていた。

明らかにムッとした表情に変わったセツは、そのまま俺が指し示した場所目掛けて躊躇なくやって来た。

俺の座っている一人がけソファーのひじ掛けに手を置き、狭い座面の僅かな隙間に膝を付き、チョコレートを咥えている俺の口唇目掛けて……。




⇒ 中編へ続く……♡


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ホントは分けるほどの長さもない予定なんですが、全部書き終わるの待ってたら、ひょっとしてもしかしてバレンタイン過ぎちゃうといけないので……( ̄▽ ̄;)

とりあえずたまには私も焦らしぷれいを……♡