ウクライナへのロシアによる根拠なき侵攻を見るにつけ、60年代のアメリカが、ヴェトナム戦争にのめり込んでいった時のことを思い出す人も多いことでしょう。 

 

今のロシアと当時のアメリカが違うのは、当時はアメリカ国内でヴェトナム戦争に反対する内容の映画や音楽やデモなどの社会運動が多く生みだされ、反戦をテーマにした作品が多く世界にも発信されたことです。 広く知られているのは、『タクシー・ドライバー』(1976年)、『ディア・ハンター』(1978年)、『地獄の黙示録』(1979年)、80年代に入っても『グッドモーニング、ベトナム』(1987年)などでしょうか、多く制作され世界で公開されました。 

 

ボブ・ディラン、ピート・シーガーがシングアウトした反戦歌の多くはこの戦争への意思表示でしたが、後にベトナムからの帰還兵の辛すぎる心情を直接歌ったのはブルース・スプリングスティーンの「BORN IN THE U.S.A.」が代表格でしょう。歌詞を改めて読むといかにブルースがこの戦争を憎んでいたかが切々と伝わってきます。(余談ですが、それを当時の某大統領がアメリカ讃歌と勘違いしてキャンペーンに利用しようとしたことも噴飯ものでした) 

 

さて本日取上げる曲は、この中の『ディア・ハンター』(1978年)でオープニングとエンディングで流れた美しいギター演奏による「カヴァティーナ」です。Georgesandさんからリクエストをいただきました。 

 

これは1970年に映画音楽家のスタンリー・マイヤーズが自ら担当した映画音楽『The Walking Stick』(邦題不明)のために書いた中の1曲です。 詳しい経緯は不明ですが、この曲をクラシック・ギタリストのジョン・ウィリアムズ(「スター・ウォーズ」の作曲家とは同性同名)が翌年の1971年にロンドンでオーケストラと共演して録音し、同年発売したアルバムに収録しました。 

 

よほどギター曲にアレンジして取上げたかったようです。オリジナルの譜面はピアノ譜だったそうですから、ギターのために譜面を起こしたのは慧眼だったと思います。 

 

するともう一人、このギター演奏を聴いてジョン・ウィリアムズに歌の共演を求めたジャズ・シンガーが登場します。イギリスの実力派歌手、クレオ・レーンです。彼女が「He Was Beautiful」という英語詞を書いてジョンをバックに録音してアルバム『Best Friend』を発売したのが1976年(1973年に作詞した説もありますが詳細不明)のことだそうです。 

 

その後また何年かが経ちまして、1978年に制作・公開された映画『ディア・ハンター』(マイケル・チミノ監督)にこの「カヴァティーナ」の音源がが映画のテーマ曲として使われることになりました。使用されたのは、ジョン・ウィリアムズが最初に出したオーケストラをバックにした<ギター+オーケストラ>ヴァージョンです。これによって、映画音楽家スタンリー・マイヤーズとクラシック・ギタリストのジョン・ウィリアムズの名は世界に広がりました。音楽の不思議なつながりとでもいいましょうか。

 

 最初にご紹介する音源は、ジョン・ウィリアムズがロンドンでオーケストラと録音したオリジナル盤「カヴァティーナ」です。これが映画『ディアー・ハンター』で使われたヴァージョンということです。(こんな大作映画で、7年も前に世に出ていた録音物がテーマ曲に使われるもの珍しいと思います)  

 

もちろんジョン・ウィリアムズを筆頭に、ギターソロの録音も多く世に出ています。次は女性のアナ・ヴィドヴィッチによるソロギターです。  

 

次にボクが惹かれたのは、カリスマというギター・デュオがオーケストラと演奏した動画です。この曲自体がギターソロで弾くのはとても難しいのですが、ギタリストが二人になり、さらにとオーケストラが付くと演奏に余裕がでて、ゆったりとして素晴らしい。2013年の5月の映像だそうです  

 

次はクロアチアの若き男性のチェロデュオ、日本でも若い女性に人気の2CELLOSによる「カヴァティーナ」です。MVが作られていてとても素晴らしいです。ちなみにこのデュオを見出して世に出したのは、エルトン・ジョンだそうです。才能を見抜く力はすごいですね。

 

余談ですが、イギリスのシンガーソングライターでここ数年大人気となったエド・シーランも、最初はエルトンがメジャーシーンに引っ張り上げたそうです。  

 

意外にも、ガットギターではなく、エレキギターでリードを弾いているイギリスのロックバンドがいました。 The Shadowsです。もともとは英国の人気シンガー、クリフ・リチャードのバックバンドとしてエレキ好きには評価が高かったのですが、サイドギターにはアコースティックギターを配したバンドのライヴ動画(MV?)が見つかりました。1979年の映像です。  

 

次は歌モノの「カヴァティーナ」です。 早くもこの曲に着目して英歌詞を書いたクレオ・レーンとジョン・ウィリアムズの1976年の録音で「He was beautiful」です(この動画は1980年だとか)。クレオもイギリスで活動していましたので、イギリスでこの曲は色んなカヴァーが出て大人気曲だったようです。

 

男性の歌モノもいくつかありましたが、ボクの見立てで英国出身の若き男性4人組コーラス・グループ、<BLAKE>の歌唱を選びました。  

 

時代は変われど、名曲はいつ聴いても心に届きます。1970年から半世紀を経ても色あせない「カヴァティーナ」。

 

ちなみにカヴァティーナとは、クラシック音楽用語で「素朴な性格の短い 歌曲 という意味であったが、現在では アリア や レチタティーヴォ などと区別して、素朴な旋律をもつ歌謡的な 声楽曲 という意味に使われる」(Wikipediaより引用)言葉なのだそうです。