アーヴィング・バーリンといえば「ホワイト・クリスマス」の作家として有名ですが、他にも幾多の名曲を残しています。とりわけボクが好きなのはミュージカル『アニーよ、銃をとれ!』の中の「ゼイ・セイ・イッツ・ワンダフル」や「ショウほど素敵な商売はない」など。 

 

特に後者はアメリカのミュージカル界賛歌といえる晴れやかな曲で、そのミュージカルだけにとどまらず、後に同じ題名の映画(エセル・マーマンやマリリン・モンローらが出演)が作られたくらいです。 

 

この曲「ブルー・スカイ(ズ)」(原題:Blue Skies)は1926年の12月に開幕したミュージカル『ベッツィ』に主演した人気スター、ベル・ベイカーが、このミュージカルのためにバーリンに特別に書き下ろしを頼んだ曲だとか。でも『ベッツィ』の中の曲は、リチャード・ロジャーズとロレンツ・ハートがすべて書いているというのに、他の作家に、しかも主役スターが頼むとは無神経ですよね。当時ロジャーズ=ハートがいくら若手作家だったとはいえ、いかにミュージカルスターが尊大な存在だったのかが分かる驚きのエピソードです。   

 

さてその大スターの録音は見当たりませんでしが、余りに数多くの録音がのこされている「ブルー・スカイ」。初のトーキー映画の主役を演じたアル・ジョルソンが、その映画『ジャズシンガー』(1927年)の劇中に歌っています。  

 

アル・ジョルソンはアメリカのポピュラー音楽史に残る偉大なシンガーですが、彼の時代にはマイクはまだ普及していなかったため、歌唱は声量のある朗々たる歌いっぷり。

 

その後1930年に入る頃に普及したマイクを活用して、そっと優しく歌いかけてラジオの向こうの女性方をメロメロにしたのがビング・クロスビー。クルーナーの先駆けでした。これは1946年の録音です。この声と歌い回しですもの、男のボクでも痺れますよ。  

 

次は温かい声とお人柄で、誰からも愛されたペリー・コモが自身のテレビ番組で「ブルー・スカイ」を歌っています 傘をひらげると青空が広がるという演出も当時のテレビの楽しさが伝わってきます。1950年ごろのオンエアらしいです。ビックバンドも入って豪華なTVショウですね。  

 

男性ポピュラー歌手の王者となったフランク・シナトラは、ビング・クロスビーの正統的継承者。スウィング感と自己流の歌唱法を確立した映画&音楽のスーパースターです。これは1959録音ですが、見事な「ブルー・スカイ」も彼にかかれば、シナトラ色に染まっているみたいです。  

 

そのシナトラの後継者として嘱望されたのがボビー・ダーリン。くどくて申し訳ないのですが、ボクの少年時代のアイドルです。1962年録音のこの歌唱を聴いてもらえば、その方針が確認できるというもの。

 

後半は難しい転調を何度も繰り返しては、シナトラ越えを目論んでいるかのようです。でも1973年に37歳の若さで亡くなったのは返す返すも残念でなりません。

 

歌唱技術でいえば、最高峰といいたくなるのがアル・ジャロウ。あの超絶技巧ももう聴けないのが惜しい「ブルー・スカイ」。これは1992年録音の音源です。

 

カントリー・シンガーでありながら、後年はアメリカのスタンダード曲を味わい深い歌唱を弾き語りで歌い綴ったウィリー・ネルソン。このライヴ映像は、同じくカントリー歌手のケニー・ロジャーズとのデュエットしています。しかもケニーはウッドベースも演奏していて、なんとも楽しく和む「ブルー・スカイ」です。  

 

さて男性編「ブルー・スカイ」の最後は、ナット・キング・コールが、パティ・ペイジとこの曲を歌う貴重なフィルム映像です。 

 

この映像はとても凝っていて、前半はピアノの弾き語りのナット・キング・コールから始まり、中間分にジーン・クルーパの派手なドラムやベン・ウェブスターのサックス部分が加わり、後半はパティ・ペイジが「バードランドの子守歌」とミックスしながら4分割のマルチ画面でスウィングして、最後はキング・コールとデュエットに戻るとっても楽しい動画です。

 

撮影は1958年だそうですが、リハーサルにこんな素晴らしいフィルムを撮っていたのですね。ビックリなアメリカ音楽業界。  

 

「ブルー・スカイ」の名唱の数々、いかがだったでしょうか。まるでアメリカの男性ポピュラー歌手の歴史を辿るみたいな歌唱の数々でした。次回は女性編です。これも名歌手がたくさん登場します。