誰でも聞き覚えのあるスタンダート曲は、もうかれこれ14年もの間にマイブログで紹介し尽くしたと思っていました。とはいえまだ残っていた中にこんな曲がありました。

 

「ザット・オールド・ブラック・マジック」。 原題はそのままの"That Old Black Magic"で、1942年にハロルド・アーレン(「虹の彼方に」の作曲でお馴染み)と、ジョニー・マーサー(「ムーンリヴァー」、「酒とバラの日々」の作詞でお馴染み)のゴールデンコンビが映画『Star Spangled Rhythm』のために書いたものです。 

 

ちなみにこのお二人コンビの作品には、『Blues in the Night』(1941) 『降っても晴れても~Come Rain or Come Shine』 (1946)があります。ヒットメイカーですね。 これは古いナンバーではありますが、新しい映画で使われて若い世代に伝わることもあります。

 

この「ザット・オールド・ブラック・マジック」は、映画『GREEN BOOK』(2018年)で劇中にコパカバーナ・オーケストラのシーンで使われたそうです。アカデミー賞作品賞を取った(スパイク・リー他、多くの映画関係者が憤慨したと伝わる)こともあり、ボクも動画サイトで観たことは観たのですが、ホントに覚えてなくて情けないです。しかも比較的新しい映画なのでその場面の限定動画はありませんが、お聴きになれば「ア、これね」と思いだすかたが多いのではないでしょうか。  

 

さすがに誰もが聞いたことがある名曲だけに、歌唱者もキラ星のごとし。まずトップはフランク・シナトラで、彼も主演映画『Meet Danny Wilson』(1952年)の劇中でこの「ザット・オールド・ブラック・マジック」を歌唱しています。この頃にはソロシンガーとして、アメリカ中のボビーソクサーを熱狂させたアイドル的人気を彷彿とさせます。  

 

次は時代は後なのですが、映像がいまいち。でもペリー・コモの歌は、画質・音質を問わず聴く者の心にストレートに伝わります。ボクはこの人のテレビショウがとても好きでした。これは1960年(昭和でいうと35年)のテレビ番組での映像だそうです。  

 

珍しいリタ・ライス(オランダのジャズ歌手)が1973年にドイツのテレビ局の番組で歌った映像です。ボクはこの人のアルバム『シェイクスピア・ジャズ』(原作を楽曲にした)を入手して、コーフンした記憶がありますが、果たしてあのアルバムはどこへ行ったのでしょうか。処分したのかな?  

 

なんとコメディアンのジェリー・ルイスも、スマートな主演映画『Nutty ProffessorJerry Lewis 』(邦題「ジェリー・ルイスの底抜け大学教授」って凄すぎますね、笑)で歌っています。これは1963年の映画ですが、後にエディ・マーフィーで同名映画としてリメイク(?)されたようですね。ボクは観ていませんが、太っちょで巨漢のエディのポスターなどには記憶があります。ここでのジェリー・ルイスは超マジの二枚目でカッコいいシーンですよ。  

 

話は飛びますが、50年代後半にはエルヴィス・プレスリーが世界の若者を熱狂させたことから、多くのプレスリーさんの2番煎じ、3番煎じアーティストがポップス界を賑わせました。その中の一人(なんていいうと怒られそうかな)ボビー・ライデルが、これまたなんのご縁か、ペリー・コモの番組にゲストで出演して「ザット・オールド・ブラック・マジック」を歌っています。当時ボクも好きでしたが、実際に歌っているところはこの映像で初めて見ました。クールでカッコいいですね。1961年だそうです。  

 

あまり日本では知られていませんが、“密かに”ボクが好きだったルイ・プリマ(バンマスでおっさん然としています)とケリー・スミスをフィーチュアした「ザット・オールド・ブラック・マジック」のあざといパフォーマンスが、アメリカのショウビジネスを象徴するようで、実はボクは結構好きでした。この人のライブLPまで買ったことがあります(笑)。これはカラー映像(後付けの着色?)で、ビッグバンドをバックに一席ってところかな(笑)。 このエグ味が癖になります(笑)。  

 

最後はこの人で決まりでしょう。マリリン・モンローが主演の映画『バス・ストップ』(1956年)の劇中にセクシーな衣装で歌唱するシーンです。ちなみにボクの持っているモンローのCDにも、この曲は収録されていますが、改めて聴くとこの映画のサントラから直接音源をコピーしたもので、映画のセリフやノイズなど入っているヴァージョンでした。本人の歌唱力より下手に歌うことを指示されているようで、どうにもお気の毒なモンローさんです。  

 

かくしてモンローは、アメリカ映画におけるセクシー・シンボルとして世界に名を馳せ、多くの男に翻弄されて一人淋しく世を去りました。 

 

この人のCDには、まともに歌った曲も多いのに、なぜか酒場では露出度の高い衣装を着させられて、歌はちょっと下手っぴいに歌うことを余儀なくされる。後にマドンナは、モンロー映画の有名場面曲(Diamonds are a girls best friend)そっくりに自分のミュージックビデオとしてリメイクして、モンローを痛烈批判したことがありましたが、本当に批判されるべきはmetoo運動に象徴される“やらせのおっさんたち”ではなかったのでは?と思うとモンローさん、お気の毒に思えてきます。 

 

ちょっと脱線してしまいました。本題はスタンダードの名曲「ザット・オールド・ブラック・マジック」の時代(1942年は日本では戦時下の真っ最中)がテーマでした。

 

ところで「恋の魔術師」と邦題がついたこの曲の「古い黒魔術」とは、「恋」のことなのです。歌詞の最後に、"I'm in under that old black magic called love"とタネ明かしされています。フムフム、あの魔術にかけられた憶えのある方も多いのでは・・・・。

 

老婆心ながら、後のサンタナ「ブラック・マジック・ウーマン」とは全くの別曲ですと申し添えます(笑)。