原題が「This Can't Be Love」。1938年のミュージカル『シュラキュースからやってきた男』のためにリチャード・ロジャーズ(作曲)とロレンツ・ハート(作詞)のコンビが書いたもので、ブロードウェイ初のシェイクスピアの原作になるミュージカルとなりました。

 

 その原作名は『間違いの喜劇(The Company of Errors)』。歌の内容は、「こんなに気分が爽快で楽しいのは恋ではないと思っていたものの、後になって心臓がドキドキするようになって初めて愛に違いない」と気づく洒落たナンバー。ちなみに作詞作曲のお二人は、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のコンビです。 

 

多くのシンガーがこの軽快なナンバーを録音しています。最初はナタリー・コールのアルバム『UNFORGETTABLE』から。実にゴージャズなアレンジで、このアルバムを愛聴していた頃(もう30年前になりますね!)を思い出します。

 

となると、やはりお父上も聴かないとね。ナット・キング・コールのスウィンギーな歌唱に脱帽です。キング・コールが45歳で肺がんで亡くなったのが1965年のことだそうですから、あのヴェルヴェット・ヴォイスを思うと切ないですね。  

 

次はエラ・フィッツジェラルドの「ディス・キャント・ビー・ラブ」。ビッグバンドをバックに変幻自在のグルーヴィな持ち味を発揮しています。エラならではの歌唱です。  

 

意外やステイシー・ケントもレパートリーにしています。コケティッシュな表現が魅力的ですね。  

 

さて、ローズマリー・クルーニーの「ディス・キャント・ビー・ラブ」の録音は、1958年だそうです。バックはバティ・コール・トリオで、オルガンとギターにベースの編成。ドラムレスみたいです。  

 

この曲は、後に映画でも使われています。ドリス・デイ主演の映画『ジャンボ』(1962年。原題「Billy Rose's Jumbo」)の乗馬サーカスのシーン。

 

当然ドリス・デイが白馬の上で曲芸をしているハズはないのですが、本業のスタント・ウーマンの見事な技に最後まで見とれてしまいました。もっともドリス・デイは西部劇にも出ていましたから乗馬はお手の物なのでしょう。最後のシーンはドリス自身が馬から降りてカメラ前に颯爽と現れます。さすが!  

 

次はジャズ・ピアニストとしても素晴らしいダイアナ・クラールの弾き語りヴァージョンによる「ディス・キャント・ビー・ラブ」。歌とピアノのスウィンギーなスタイルが、すごくいいですね。

 

フォア・フレッシュメンが名盤『with 5 trombones』に収録しています。わが愛聴盤の一枚です。このコーラス・ハーモニーを聴くと、タイム・ファイブを思い出してしまいます。でもこのジャケット写真はオリジナル盤とは違いますね。  

 

女性ピアニストのパット・モラン率いるクアルテットによる「ディス・キャント・ビー・ラブ」。ここではメンバー全員が歌っていて、女声ヴォーカルはパットとビバリー・ケリー。名前が似ていますが、ビバリー・ケニーではありません。

 

なおベースがスコット・ラファロですが、歌っているのかな?。スコットがビル・エヴァンスのトリオに入る3年ほど前になりますね。あの「ワルツ・フォー・デヴィ」のベースはいつまでも忘れられません。  

 

このパット・モラン・クアルテットによる録音が1956年、フォー・フレッシュメンと5トロンボーンが翌年の1957年です。両方の音源を聴き比べると、フォー・フレッシュメンが、パット・モランの演奏に触発されたことがよく分かります。 

 

音楽は継承だと思い知る名曲の名演。ロジャーズ=ハートの作品の良さと歌唱やテンポ、アレンジの妙をしみじみ感じる「ディス・キャント・ビー・ラブ」ですが、曲が古すぎるのか、動画がドリス・デイの映画の場面のみというのもちょっとさびしい。