第二次大戦後、イタリア映画界と文学界で生まれたネオレアリズモとよばれる潮流は広く世界に発信したといわれますが、今日取上げる楽曲「死ぬほど愛して」(原題:Sinno' me Moro)が強いインパクトを与えた映画『刑事』は最後のネオレアリズモ作品とよばれているそうです。

 

 ロッセリーニ、デ・シーカ、ヴィスコンティなどのネオレアリズモ派にやや遅れて、1955年に監督兼主役としてピエトロ・ジェルミが発表した映画『鉄道員』の4年後の1959年に映画『刑事』が公開されました。同じように主演と監督がピエトロ・ジェルミで、恋人が警察に連行される 最後の場面で砂埃の中をクラウディア・カルディナーレが車の後を追うように走るシーンが感動的でした。

 

この映画の主題歌として、実に効果的に使われた曲が「死ぬほど愛して」で、カルロ・ルスティケリが作曲し、ピエトロ・ジェルミ自身が作詞したものです。 まずは映画『刑事』の最後のそのシーンです。  

 

♪アモーレ、アモーレ、アモーレ、アモーレ・ミオ~と切々と歌われる「死ぬほど愛して」が余りに強力な印象を与えて、映画を見なかったボクのような人にもアリダ・ケッリの名前は忘れることができません。 ボクはこの歌の原詞を当時はカタカナで覚えていました。

 

♪ヴァイオレスタ・コンテー、シノメモーロ~と歌われるタイトルの意味が「死ぬほど愛して」だと信じていましたが、最近になって知ったのですが、イタリア語(Sinno' me Moro)の意味は「私が死ぬまで」ということなのだそうで、邦題を付けた方のセンスが光ります。 次はこの歌のために映画シーンを編集したもので、アリダ・ケッリ(歌)のレコード歌唱に画像をハメ込んだものです。  

 

実は、映画において歌の「死ぬほど愛して」は、最後のシーンには流れません。その少し前に刑事(ピエトロ)が犯人の恋人(クラウディア)の元に取り調べに着た時に効果的に流れ、最後の車の走る背後を叫びながら走るシーンには、イントロにあたる切ない音楽が流れます。テーマ音楽のイントロ部分と歌部分を見事に使い分けています。

 

ちなみにボクが持っているCD『カンツォーネ ベストセレクション』に収録されている「死ぬほど愛して」は同じサントラヴァージョンですが、イントロ部分の音源は入っておらず歌のみのシンプルな構成で、タイムはわずか1分54秒という短いサイズです。 

 

これは意外にイタリア本国でのカヴァー録音が多くなかったようで、YouTubeでは1例を除いては他の歌唱映像を見つけることができませんでした。 しかし日本の歌い手が「死ぬほど愛して」を原詞や訳詞で歌うヴァージョンはいくつかありました。当時の日本の歌手は、外国映画の主題歌を積極的にカヴァーしていたフシが伺えます。時代的にもカヴァーポップスの時代ですから、この曲を後に今陽子が音楽番組でイタリア語で歌唱していたのも納得できる企画です。  

 

次はシャンソンやカンツォーネ、また岩谷時子作詞のオリジナルヒットを持つ岸洋子のレコードでは、日本語で歌われています。  

 

他にも浜村美智子(「バナナボート」で一世を風靡した)や、朝丘雪路のヴァージョンもありましたが、ここではあえて男性歌手を選んでみました。 

 

佐川ミツオが歌手時代にレコード発売した「死ぬほど愛して」。このリズムとテンポ、アレンジがオリジナルにはないほど実に斬新だからです。それにカップリングが「エデンの東」というのも謎(笑)ですが、まずはご一聴あれ。

 

異色といえば日本にラテンブームを巻き起こしたトリオ・ロス・パンチョスがスペイン語にて歌っています。これもなかなかの出来栄えだと思います。  

 

しかし世界的にヒットした曲ですので探したところ、最近イタリアでカヴァーされた演奏動画を見つけました。男女ユニット(Vo&g)のROMA 2.0がライヴハウスで歌っています。

 

Claudia Tortoiciという女性歌手がこの歌を歌う場面は、1:10-4:40です。なかなか味わいがありますが、このグループの実績は皆目不明です。  

 

この「死ぬほど愛して」は、Dupinさんからのリクエストでした。お陰で以下の余談も含め、いままで知らなかったことが分かってきました。ありがとうございます。

 

【追記】もう一つ書き忘れたので、追記します。この映画で最後に刑事に連行される男優は、後に『シェルブールの雨傘』でドヌーヴの恋人役を演じたニーノ・カステルヌォーヴォです。(この項のみ3/23書き込み)

 

 【余談】

 

 同じ監督(ピエトロ・ジェルミ)と音楽担当(カルロ・ルスティケリ)の『鉄道員』(1955年)のサウンドトラックも味わい深いので、一緒に並べてみました。記録によるとこのサントラ盤の音源は映画のサウンドトラックから抜き出したもので、人の呼びかけ声や工場のサイレンが流れるのはそのせいだそうです。日本ではこのヴァージョンのシングルがヒットしたことは覚えていますが、イタリアではどうだったのでしょう。  

 

ところで今回、この2本の映画を比べてみて分かったことがあります。「死ぬほど愛して」を歌ったアリダ・ケッリは、この「鉄道員」のテーマ曲に歌詞がついた(テストーニが歌詞を書いと記録にあります)ヴァージョンを、イタリアでレコード発売していたことを今回初めて知りました。そのレコード音源と写真がこれです。  

 

それとそこまでアリダ・ケッリが2作品に深く関われた理由も分かりました。この2本の映画音楽を担当したカルロ・ルスティケリの娘だったのです。

 

本名は、アリダ・ルスティケリ、うーむ、なるほどと納得しました。 このアリダ・ケッリは2012年に69歳で亡くなるまで、イタリアでは人気歌手であり人気俳優だったそうです。日本にはそんな情報が入ってこなかったのが残念です。