それにしてもタイトルがスゴイ。直訳すると「恋に落ちやすい私」。これを歌うに相応しい男は、この人を措いてなし(笑)。 薬物と多くの女性に囲まれて亡くなったチェット・ベイカー。彼の歩みと死を知るには、イーサン・ホーク主演の映画『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』(2015年)より、1988年のドキュメンタリー『レッツ・ゲット・ロスト』のほうが彼のリアルに近いかもしれません。  

 

この曲「I Fall In Love Too Easily」は、ジュール・スタイン作曲、サミー・カーン作詞の黄金コンビの手になるものです。 このコンビには他にも「イッツ・ビーン・ア・ロング・ロング・タイム(邦題:お久しぶりね)」(1945年公表、ビング・クロスビー盤で有名)、「イッツ・マジック」(ドリス・デイの主演映画で歌われヒットした1948年の曲)、「レット・イット・スノウ!レット・イット・スノウ!レット・イット・スノウ!」(1945年にヴォーン・モンロー歌でヒット。後に、映画『ダイ・ハード』のエンディングで脚光を浴びました)など名作がたくさんあります。 

 

次のこの方は、やはり薬物とアルコールに苦しんだ女性シンガー。ベルリン・ジャズフェスで復活した時のライブアルバムを聴いた時の感慨(良きにつけ、悪しきにつけ)忘れ難し。 アニタ・オデイの1955年録音盤です。ボクは一時、彼女のほとんどのアルバムを買い漁っていました。  

 

マイブログでは取り上げる頻度が意外に低いカーメン・マックレーさん。この人のアルバムも12~3枚持っていました。トーチ・ソングがお得意なので、この曲の切なさはピッタリだと思います。  

 

サラ・ヴォーンは、珍しく「I Fall In Love Too Easily」をヴァースから歌っています。さすがのサラ。  

 

お気づきの通り、ボクのお気に入りリンダ・ロンシュタットの可憐な歌唱もステキです。2004年の録音です。  

 

毛色が変わってブラジルのガル・コスタ、ブルーノートでのライブ映像です。2006年5月だそうです。  

 

この曲の定番となっているのは、フランク・シナトラ。映画『錨を上げて』(「Anchors Aweigh」 1945年)で主演して歌い、見事この曲はアカデミー作曲賞を受賞しました。映画での歌唱シーンは、1:20あたりから。  

 

最新見つけたカヴァー録音は、ボクのお気に入りメロディ・ガルドー。新アルバム『サンセット・イン・ブルー』(2020年10月発売)で歌っています。5年ぶりのアルバムなので、喜び勇んで近くのCD店に買いに行きました。  

 

メロディ・ガルドーは、若い頃に交通事故で瀕死の重傷を負い、それを克服して音楽活動を始めた人。初来日のとき(確か渋谷のクアトロだったかな?)の印象的なライヴを思い出します。 写メを撮るためにCDラックを探したら、新作(冒頭写真のブルーの絵柄)を併せて3枚しかなかったですが、実に静謐で素晴らしい作品揃いです。いすれもpopfreakの密かなオススメアルバムです。

 

 これで終わろうかと思いながら、最後はピアニストの「I Fall In Love Too Easily」で締めたいと思います。 キース・ジャレット・トリオの1993年の演奏です。

 

クレジットは次の通り。 Recorded live in Tokyo, July 25, 1993 at Open Theater East. Keith Jarrett piano Gary Peacock double-bass Jack DeJohnette drums  

 

2年前に脳卒中で倒れたキースは、後遺症の左手まひが回復せず、公演に復帰する可能性は低いと報じられました。 まだ75歳ですが、あの静かな情熱が生で聴けないのは残念ですね。