もはや家庭の団欒としての聴く音楽鑑賞という文化的な時間は失われ、いまは音楽はスマホのサブスク・アプリで個々に聴く時代。“ムード音楽”とか“イージーリスニング”とかは過去の遺物となってしまったのでしょうか。 

 

心安らぐいい音楽は、いつの世も聴く者を幸せな気分にしてくれると思うのですが、そんな懐古趣味の音楽ファンはもはや絶滅危惧種。でもこんな名曲こそ次世代に残したほうがいいのでは?と思っています。 

 

この前振りで古い曲だとお分かりですよね。1937年にジミー・ケネディとヒュー・ウィリアムズが作った「ハーバー・ライト(邦題は「港の灯」ですが、ここではカタカナで表記します)」です。この曲を誰の歌唱や演奏で聴くのが好きかによって世代が分かれそうですね。 

 

【自称戦前派のかた向け】 まずは、ルディ・ヴァリー楽団(Vo.ルディ・ヴァリー)による1937年録音の「ハーバー・ライト」。これがこの曲の初ヒットとなったブルーバードレーベルのSP音源です。ルディ・ヴァリーは映画『カサブランカ』で一躍有名となった「As Time Goes By」を創唱した人気バンド・リーダーで、あまりの美形に女性ファンが熱狂したそうです。 またメガフォンを持って歌う姿がトレードマークでステキなので、僭越ながらpopfreakのマイブログ写真として使っています。  

 

【戦後焼跡派】 国破れて山河あり。1950年といえば、戦後の混乱期から朝鮮動乱の特需でわが国の景気が回復し始めた年です。サミー・ケイ楽団がこの曲をリバイバルヒットさせたのは、音楽にスウィートな味わいを感じる余裕がでたためでしょうか。ダンスホールで社交ダンスでも踊りたい気分になりますね。(というpopfreakはダンスも不調法ですが、笑)  

 

30年代にラジオと共に世の女性陣をその甘い声で痺れさせたビング・クロスビーも1950年に「ハーバー・ライト」を録音しています。やっかみ半分、大甘の皇子(大海人ではなく)と名付けたい気分です。  

 

【ロックンロール世代】 なんといってもエルヴィス・プレスリー。この歌を1954年にサンレコードで録音しています。ハワイアン風サウンドに乗せて、バラードに味を聴かせていますが、「ハートブレイク・ホテル」(RCA)の発売前なので、歌唱スタイルは大人しくてオーソドックスです。ロック前夜的な貴重な録音です。  

 

【フェロモン発散世代】 当時、トム・ジョーンズともみあげの太さを競った(ホンマカ?)エンゲルベルト・フンパーディンクの「ハーバー・ライト」。朗々たる歌唱を持ち味とするエンゲルならではのソフトな表現に、却って男の色気を感じる方がおられるかも?  

 

【ムード音楽派】 「峠の幌馬車」「浪路はるかに」など、地味ながらムード音楽界をリードしたビリー・ヴォーン楽団の「ハーバーライト」。安心できる演奏って、こういうのをいうのかな。平和な時代の平和な音楽。  

 

【女性ヴォーカリスト愛好派】 イギリスの女性歌手界の大御所、ヴェラ・リンの歌唱です。主に戦時中に活躍した人なので、戦前派のかたにオススメ。特にこの曲を唯一(探した中では)ヴァースから歌っています。なんと今年6月に103歳で長寿を全うされたとのことです。  

 

アメリカの女性ジャズ歌手界を代表するダイナ・ワシントンの1950年の録音です。この頃は男女ヴォーカリストを問わず、コンボバックのレコードとストリングスバックの甘いサウンドが両方共存していました。歌手も主張も拒否もしなかったのかもしれませんね。個人的には、ダイナのレコードはクリフォード・ブラウンなどジャズ奏者とのアルバムのほうが好きですが、どんなバックでも個性を発揮する歌技には、さすが脱帽です。  

 

【本命狙い派】 「ハーバー・ライト」といえば、プラターズ1960年のリヴァイヴァルヒット。大好きでした。「夕陽に赤い帆」とか「オンリー・ユー」とか、ワクワクする歌唱とコーラスワークが大好きでした。今時はこういうスタイルのコーラスグループはいないのかな?流行らないのかな?  

 

かくしてコロナの8月が過ぎ、9月になりました。いつになったら「ハーバー・ライト」を見て心休まる日々が訪れてくれるのでしょうか。