バート・バカラックの伝記は6年前に出ていましたが、あまり通しては読んでいませんでした。改めて読むと、あまりにもモテモテでラヴラヴ連続の華麗なる人生。さすがです。それに、なにより作る曲が素晴らしい。気を取り直してバカラック紹介を続けましょう(笑)。

 

今日のお題は、「恋の面影」(原題が「The Look Of Love」)。バカラックの代表曲となったこの曲が、ジェイムス・ボンドの007シリーズ『カジノ・ロワイヤル』のために作られたことは知りませんでした。とはいえこの映画のジェイムス・ボンドはショーン・コネリーではなく(同じ英国紳士の)デヴィッド・ニーヴンだったそうです。へー、そんな007シリーズもあったのですね。

 

ただボンド・ガールは、ウルスラ・アンドレス(ボクの記憶はアシューラだったんだけどな?)で、バカラックは自伝で「あるひとつのシーンを何度も繰り返し観た。そこに出てくるウルスラ・アンドレスが、呆気にとられるぐらいゴージャスだったからだ。そうやってわたしは彼女のテーマを書き上げ、それが結局は「恋の面影」になった」そうです。

 

へー、なるほどね~。ゴージャスなウルスラ・アンドレス。映画音楽の作曲家って、女優さんに恋して名曲を書くものなんだと、目から鱗でした。 ところが最初に指名した歌い手は、アメリカの男性歌手のジョニー・リヴァース。ボクにはロック歌手のイメージがあるのですが、映画会社がロンドンでのレコーディングに呼んだところ、来るには来たが「彼はこの曲が気に入らなかった」。しかも彼は「かなり不快な態度を示し、なんの断りも入れずに帰国してしまう」(伝記より引用)。 

 

ワー、すごい。筋を通すところがジョニー・リヴァース! でも歌っておけばよかったのに、と打算的なボクなどは考えますがね(苦笑)。ビックリですね。1967年といえばバカラックも注目の作曲家だったのにねぇ。

 

そこで打診されたのが、ダスティ・スプリングフィールド。この方は当時、英国を代表する人気シンガーで、後にプレスリーが映画で奇跡の復活を果たした人気楽曲「この胸のときめきを」(原題:You Don't Have To Say You Love Me)を1966年にヒットさせた人。しかし伝記によると「ダスティは必要以上に自分に厳しく、もし一緒にアルバムをつくるようなことがあったら、まちがいなくおたがいを破滅させていただろう」というほど、ひどい不安症なのだそうです。古いですが、テレビの動画です。

 

 

その後、ハーブ・アルバートとティファナ・ブラス(ジョニー・リヴァースに断られた後に録音してバートの窮地を救ってくれたそうです)、セルジオ・メンデスなども「恋の面影」を録音しています。YouTubeで見つけた映像では、セルメンとウェス・モンゴメリー後でダスティが歌っています。

 

 

ボクがダイアナ・クラールのアルバムで一番好きなのがアルバム『恋の面影』での同曲。トミー・リピューマ(プロデュース)、クラウス・オガーマン(ストリングスアレンジ)、それに録音エンジニアがアル・シュミット。ボクの敬愛するベストスタッフによるものです。パリのオランピア劇場でのライブが素晴らし過ぎて、DVDも買っています(この曲の指揮はクラウスではありませんが、他の曲では一部指揮もしています)。

 

バカラックの素晴らしいところは、ディオンヌ・ワーウィックのように歌唱力のあるシンガーを積極的に起用することだと思います。白人・黒人関係なし。ここでは90年代にイギリスの“レア・グルーヴ”で人気だったブラン・ニュー・ヘヴィーズのメンバー(ただし2003年に加入)だったサイ・スミス(Vo)が、人気トランペッター、クリス・ボッティとのステージで歌っています。2009年ボストンでのライヴです。

 

珍しい男性歌手による「恋の面影」。『SHAFT』でブラックミュージックの旗手として70年代から活躍のアイザック・ヘイズが渋い声で歌っています。しかもお色気たっぷりのポール・ダンサーと一緒のライヴなので、ついついそちらに目が・・・(汗)。

 

 

久しぶりにマイブログに登場のカーメン・マクレエ。ドスの効いた歌唱は素晴らしいです。1967年録音です。

 

最後はご本人の登場。アメリカの歌手、ヴィッキー・カーとバート・バカラックがスペイン語系のテレビ局での出演時の動画です。なんともチャーミングなヴィッキー・カーと男前全開のバカラックが、いままさに「恋におちなん なこそ おしけれ」。なんのこっちゃ(笑)。

 

 

ゴージャスなウルスラ・アンドレスのお姿に恋して(仮想して?)、曲を作ったバート・バカラック。新たな恋が新たな曲を生み、それが聴く人の心に沁み込んで、新たな恋の動機となるような歌と恋の連鎖反応。それこそが「The Look Of Love」ということなのでしょうか。

 

ポピュラー・ソング、奥深し。