アンドリュー・ロイド・ウェーバーの名前を決定付けたミュージカルが『エヴィータ』。ブロードウェイ開幕(1979年9月25日)の前年にロンドンで大成功した勢いをかってNY進出し、題材についての賛否両論をものともせず3年9カ月間、延べ1567回のロングランを続けました。

 

アルゼンチンでは悪名高きエヴァ・ペロン(ペロン大統領夫人となった)の伝記的ミュージカルですが、最初はレコード用に企画され、物語は歌と踊りだけで進められたそうです。それが鬼才ハロルド・プリンス(今年の7月に91歳で死亡)の優れたアイディアと演出によって舞台作品として完成したのですから、ミュージカルの成功にはいかに演出が大切かを思い知らされる話ですね。


さて、最初に「アルゼンティーナよ、泣かないで」を歌ったのは、サウンドトラック用に録音したジュリー・コヴィントンですが、彼女はミュージカル化を望まず、実際に初のロンドン公演で主役ペロンを演じ、この歌を歌ったのは『キャッツ』で「メモリー」を歌ったエレーヌ・ペイジでした。

 

結局ブロードウェイ公演では主役となったパティ・ルポーンが歌って人気を博しました。

 

YouTubeにはミュージカル場面の映像はなく、パティ・ルポーンがピアノのみを伴奏に熱唱している「アルゼンティーンよ、泣かないで」で万雷の拍手喝采を浴びている映像がありました。カリフォルニアはパームスプリングスにて。

 


さてそれから数年経って、1996年にようやく映画化された『エヴィータ』。マドンナが主役エヴァにキャスティングされた時には、反対の動きもあったようです。しかししかしマドンナの歌唱は素晴らしい。映画の場面ですが、53秒あたりから歌い始めます。

 

 

次はニコル・シュレジンガーが2013年に行われたロイド・ウェーバー40周年イベントでの歌唱です。こういうロイド・ウェーバーお得意のスローバラードですから、大胆にリズミックに歌ったりするのはご法度なのでしょうかね。長いイントロの後で歌いだすパターンがみな同じなのがボクとしてはチト残念です。

 

 


と言っていたら出ましたジャーマン・ディスコの女王さまドナ・サマー。ディスコビートでカマシてくれるか(すいません、お下品で)と思いきや、多少のリズムは入っているものの、これまた右に倣えのスローバラードです。サーの称号を持つロイド・ウェーバー様にご無礼があってはならじ、なのでしょうかね。

 


この人は、聴く人の期待を裏切りません。カレン・カーペンターならではの「アルゼンティーナよ、泣かないで」です。

 


さすがに男声による歌唱がなかったのですが、イル・ディーヴォがやってくれました。ただしオーディオのみです。

 


さてアンドリュー・ロイド・ウェーバーの3作品、いかがでしょうか。世界のミュージカル好きには知らない人はいないと思われる巨匠ですが、実はボクには一つ不満があります。

 

今回とりあげた3曲「私はイエスがわからない」「メモリー」そして「アルゼンティーナよ、泣かないで」。ボクが残念に思うのはこの超レベルの高い名曲についてではなく、それらのミュージカルで他の曲が思いつかないことです。

 

せいぜい「ジーザス・クライスト・スーパースター」のテーマ曲(コーラスのみでタイトルだけが歌われる)のみ。『オペラ座の怪人』もテーマ曲の♪ダ、ダダダダダーって下降するメロディのみ。『キャッツ』のサントラ2枚組(ロンドン公演のOC盤)も『エヴィータ』の映画サントラも持っているボクでも、結局聴くのは「メモリー」と「アルゼンティーナよ、泣かないで」のみ。1作品で聴きたい曲が1曲だけとはチト寂しいと思うのですが、皆さんはいかがでしょう。

 

かつて一世を風靡したリチャード・ロジャーズやコール・ポーター、またジョージ・ガーシュウィンなどが1作品中に何曲も歌いたくなるいい曲を作っていたことを思うと、ちょっと残念かなというのが正直な印象です。サーへのなんたるご無礼、気に障るかたがおられたら平にご容赦。