またあの男です。♪ボクはすぐに恋に落ちる・・とか、ボクは惚れっぽいので、と口説いている様が目に浮かびます。マッタく~。

 

チェット・ベイカーにかかると世の女性はクラクラしちゃうのでしょうか。あのダメ男の術中に籠絡されてしまうのでしょうか(トホホ、「籠絡」だなんて表現が古典ですね(笑))。

 


この曲は1944年(昭和19年)に作られたナンバーです。その時日本は終戦前年の壮烈な時期。進め一億火の玉だ!なんていっている場合に「ボクはすぐに恋に落ちちゃうのよねぇ~」とか言ってる男がいたら、間違いなく非国民!でしょう。

 

これはサミー・カーン作詞、ジュール・スタイン作曲のナンバーで、翌年1945年の映画『碇を上げて』で主演のフランク・シナトラが切なく劇中で歌っています。1分20秒あたりからです。短いですが、お見事です。

 


カーン=スタインのコンビには、以下のような珠玉の名曲があります。

 

・「It's Magic」:これは先日亡くなったドリス・デイのレコードでミリオンセラーとなりました。(映画『Romance on the High Sea』1948年)録音が悪い時代で、LPになっても音がキンキンしていましたが、ドリス・デイの高揚する歌声にはピッタリのナンバーでしたね。

 

・「レット・イット・スノウ」:これは以前にマイブログでもご紹介した歌で、映画『ダイハード』のエンディングで使われていました。ヒットしたのがヴォーン・モンローで、以来多くの男性シンガーが歌っています。これも1945年の作。気分がハイになること間違いなし。

 

・「People」:1964年のミュージカル『ファニー・ガール』で主演のバーブラ・ストライザンド(実在のファニー・ブライス役を演じた)の当たり役で彼女の代表曲の一つです。歌い上げて盛り上がるバーブラの本領発揮。見事です。

 

・「ジャスト・イン・タイム」:とくればトニー・ベネット、と下の句がでます(百人一首か、笑)。♪I'll find my way~~のところが大好き。

 

・「久しぶりね/It's been a long long time」:「お久しぶりね」だと小柳ルミ子ですが(笑)、こちらは1945年の曲。第二次対戦の終わりが近いと、派兵されていた英米の若き兵士たちが、この戦争に勝って久しぶりに愛する彼女や家族に会いたいと思う気持ちにさせる戦意高揚ソングだと言われています。


気分を変えて、最近の女性シンガーのヴァージョンをYouTubeで見つけました。2017年だとチェットは亡くなっていますので、この女性シンガーまでは影響は及ばないでしょう(笑)。詳しいバイオグラフィーは分かりませんが、BMGレーベルだそうです。

カトリーヌ・マクフィー、2017年の録音です。

 


そうそう、さすがにこの姉御にはチェットの色仕掛けは及ばないでしょう。ところが妙にこのストリングスアレンジがしっぽりと色っぽいんですよ。

 

アニタ・オデイは珍しくヴァースよりストリングスバックに歌っています。

 

 


この人も、サバサバしていてそうなジューン・クリスティ。この初夏の季節にはこの人の「サムシング・クール」が聴きたくなります。

「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー」は1963年の録音です。伴奏はギターとフルートとベースという小洒落た編成です。

 


ねばねばしない恋は、リンダ・ロンシュタット。なんてボクの偏見かもしれませんが、ストレートで好きです。色・恋抜きの爽やかソングに聴こえます。

 


カーン=スタインのコンビが世に送った曲の多くが日本にとって終戦前後の作品が多く、当時はほとんど伝わってこなかったはずです。

 

わが国では、1943年からは「敵性音楽1000曲追放」のお触れが出た時代ですから、当時アメリカのポピュラーソングライターの代表だった彼らの作品をリアルタイムで聴くことはまず無かったのでしょう。こんな曲を当時聴いていたら、あの特攻隊の若者たちはどう思ったでしょうか?

 

リクエストいただいたDupinさん、ありがとうございました。