この曲を紹介した6年前の記事に間違いがあるとの指摘を受け、改めて書き直しました。

 

原題は「Boulevard of Broken Dreams」。邦題はそのままの訳となっていますが、この古典的表現からわかる通り、古いナンバーです。

 

歌詞は英語(アル・デュービン作詞)ですが、パリを舞台にしたアメリカ映画『ムーランルージュ』(シドニー・ランフィールド監督作品1934年)に使用されたことで一躍世界で知られることになりました。しかし日本ではこの曲が裁判沙汰となってしまうのですから、皮肉なものです。


まずはその1934年(昭和だと9年)の映画で歌われる場面を編集した映像を見つけました。YouTube恐るべし。

 

 

「夢破れし並木道」をダンサーたちが踊るシーンから始まって、主役のコンスタンス・ベネットが歌唱するシーンに繋がります。その後も4分くらいからダンサーの伴奏や歌唱シーン、最後はタンゴのダンス場面も繋がっています。こんなに度々映画の中で使われたのであれば、映画を観た人には絶対忘れられないナンバーに違いありません。

 

Wikipediaによれば、最初にこの曲をレコーディングしたのは、ディーン・ジャニス(歌手)とハル・ケンプ楽団で、時に1933年。映画の前年ですね。このレコードでは当時の楽団と歌手の決まり通り、1番は演奏のみで2番から歌唱となっています。後奏でタンゴアレンジとなっていますが、このアレンジアイディアが映画にも流用されたのかは不明です。

 

初レコードのディーン・ジャニスとハル・ケンプ楽団

 

 


ボクが最初に聴いたのはトニー・ベネットのヴァージョン。これは最初から最後までタンゴのアレンジで歌われていて、トニー・ベネットのコロムビアレコードでのデビュー作品。時に1950年。彼の初期の代表曲の一つとなっています。

 

 


またトニー・ベネットは何度かこの曲をレコーディングしていて、2006年に出たデュエット・アルバムではスティングとデュエットしています。冒頭にアルバムのプロデューサー、フィル・ラモーンがコメントしています。余談ながら、ボクにとってフィル・ラモーンはビリー・ジョエルのアルバム『The Strangers』が忘れ難し。

 

 

ボクは女性ではダイアナ・クラールがお気に入りでした。アルバム『All for You』に収録されていますが、副題が「A dedication to the Nat King Cole Trio」です。ピアニスト出身でヴォーカリストとして世界中で愛されたキング・コールへのオマージュを捧げています。自身の歩みとオーヴァーラップするのでしょうか。これは1996モントリオール・ジャズ・フェスでの映像です。

 

 

ボクは映画『ムーラン・ルージュ』を観たのは、2001年のラズ・バーマン監督作品。ニコール・キッドマンとユアン・マクレガーが主演したもので、ニコールのお人形のような姿と歌(彼女自身の歌)がステキでしたが、この「夢破れし並木道」は使われていませんでした。

 

なおこの曲のカヴァーはナット・キング・コールやエイミー・ワインハウスなど、たくさんあるハズなのに、YouTubeにはあまりアップされていません。残念ながら聴き比べはこのあたりまで。


閑話休題

 

ところでこの曲の作曲家は、30年代から多くの名曲を生んだハリー・ウォーレン。アカデミー賞受賞の「Lullaby of Broadway」を始め「チャタヌガ・チューチュー」など、主に映画音楽を担当。膨大な作品を世に残しました。

 

でも日本の法曹界で最も有名なのは、この「夢破れし並木道」でしょう。音楽界ではなく、法曹界。それは盗作裁判が最高裁まで行った最初の事件として判例集の多くに取り入れられているからです。題して「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」。

 

作曲のハル・ウォーレンの日本における権利者(音楽出版社)が、「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」を作曲したX氏を著作権侵害で訴えた事件です。それを作曲した人がある放送局のレコード室勤務の時期があったことから、聴いていたに違いない、知っていたに違いない、例え世には周知でなくてもX氏には周知だったのではというのも訴えの一つに入っています。

 

ボクは「夏の日の思い出」でお馴染みの日野てる子のヴァージョンが好きなのですが、残念ながらYouTubeには上がっていなかったので西田佐知子さんの歌で聴いてみてください。

 

 


侵害したか否か。裁判所の出した判決は、「依拠」と「類似」の2要件を満たさないと盗作とはいえないということでした。単に似ているだけでは盗作とはいえず、原作品に拠って創作した結果が似ていればアウトだが、本作ではその二要件は該当しないということでした。

 

さて、みなさんの判決はいかがでしょうか。

 

今、「Boulevard of Broken Dreams」で検索するとロック・グループのグリーンデイの同名異曲の記事がたくさんでてきます。今や「夢破れし並木道」も「ワン・レイニー・・」も知られざるナツメロとしてひっそりとその役割を終えたのかもしれませんね。トニー・ベネットやダイアナ・クラール、それに日野てる子を愛聴してきたpopfreakとしては淋しい限りです。