かつてマーシャル・マクルーハンが、メディアをホットとクールに峻別したように、ポピュラー音楽にもホットとクールとがあるようです。

「ビ・バップ(ホットなジャズ)」VS「クール・ジャズ」、
「ハード・ロック(ホットなロック)」VS「AOR」など。

時は超クールビズの6月になりました。ボクは毎年6月になると聴きたくなる曲があります。

ジューン・クリスティの代表作「サムシング・クール」(ビリー・バーンズ作詞・作曲)です。

まずは1953年録音の“モノーラル”盤。わが生涯の(大げさではなく)愛聴盤トップ・クラスです。

なお冒頭タイトルの15秒は無音です。ガマンして音楽がでるまでお待ちくだされ。できればフルコーラスお聴きいただきたく・・。





いまやiPodもWalkmanもすべてのオーディオ機器は、左右のスピーカーやイヤフォンで音楽を鑑賞するSTEREO方式が一般的ですが、それは1950年代の後半から商品化されたもので、それ以前(SPしかなかった時代もシングル盤やLPの初期)はすべて音楽の再生機器はスピーカーが一つでした。チャンネルが1つ、それを聴くわけですから、音楽を立体音像として聴けなかったのです。これがモノーラル

つまりジューン・クリスティが、キャピトル・レコードでこの曲をピート・ルゴロの編曲指揮のもと録音した1953年には、LPこそ商品化されていましたが、録音・再生方式はモノーラルしかありませんでした。

しかしそのハンディ(現在もモノーラルこそ至上の再生方式という信奉者も多くおられます)をものともせず、ボクはモノ録音アルバムを長く聴き続けてきました。その都度、ジューンの心洗われる名唱に気持ちはクール・ダウン(笑)。

さてこのモノ・アルバムは、発売以来アメリカで大ヒットして、ジューン・クリスティは一躍人気歌手に躍り出ます。

その後1960年、時代はステレオが主流となりました。そこで大ヒット・アルバム『サムシング・クール』のステレオ盤を再録することになり、アレンジは同じピート・ルゴロがステレオ盤用に全曲を改めて書き直し、楽団のメンバーこそ入れ替わりましたが、全曲同じ曲順で発売されたのが、ステレオ盤です。

この2枚のアルバムの大きな違いはジャケットです。モノ盤は、伏し目がちのモノクロのイラストであるのに対して、ステレオ盤はカメラ目線(笑)のカラーのイラストが華々しくジャケットを飾ります。お聴きください。





さて、この7年の歳月を経て録音された2つの「サムシング・クール」。あたなはどちらがお好きですか?

お聴きになるとお分かりのように、歌いまわしが随分違っています。一言で言うと、ステレオ盤はやや技巧をこらしたところが感じられます。演歌歌手が、楚々としたレコード・ヴァージョンとは違って年季が入った証明にやたら引っ張ったり、コブシを回したりするのに少し似た印象を受けました。もちろんボクの単なる印象なのですが、ぜひ両方じっくりお聴きになってジューン・クリスティの7年の歳月を思っていただければ・・・。


ところで、ジューン・クリスティが亡くなった1990年の前年に、ボクの大好きだったオランダのジャズ歌手、アン・バートンが亡くなっていたことを最近になって
知りました。昨年の秋、アン・バートンの多くの放送録音で、かつ名コンビだったルイス・ヴァン・ダイク(P)がバックを務めたトラックばかりを集めたCD「Laughing at Life」が発売されましたが、その中にも「サムシング・クール」が収録されています。

嬉しい喜び。

或る夏の日、女性が町で“サムシング・クール”をオーダーするのがこの歌詞の内容ですが、解説はヤボというもの。このアン・バートン・ヴァージョンで3回目を聴くと、なんとなく主人公の女性がサムシング・クールを飲みたくなる気持ちが分かるような気がします。

次はアン・バートンを偲んで・・・。「サムシング・クール」蘭語のMCつき(2分間のおしゃべり)です。




6月21日がジューン・クリスティの命日です。

いつもこの季節になると、ボクはこの「サムシング・クール」が聴きたくなります。

ジューン・クリスティと、ジューンのファンだったアン・バートン。いかがだったでしょうか?