ラテン音楽の人気曲といえば、まずはこの曲がトップにちがいありません。

メキシコの女流ピアニストで音楽家のコンスエロ・ヴェラスケスが21歳(1940年)時に作ったナンバー。

カバー録音や演奏される回数は、ラテン曲でも断然トップでしょう。

日本で「ベサメ・ムーチョ」を最初にヒットさせたのは、トリオ・ロス・パンチョスだというのが定説です。1953年(昭和28年)に発売になっています。

このイントロとオブリガートのレキント・ギターが一世を風靡しました。



トリオ・ロス・パンチョスと「ベサメ・ムーチョ」が、昭和30年代に開花したラテン音楽ブームと、その後の鶴岡雅義と東京ロマンチカや黒沢明とロス・プリモスなどムード歌謡コーラスのブームに大いに貢献したというのは、単なる私見にすぎませんが・・・。

次は、ボクの好きなダイアナ・クラールのヴァージョンです。

以前にも取り上げたことがあるアルバム『The Look Of Love』に収録されている超クールな歌唱とアレンジです。

この曲の意味“もっとキスして”から察すると、ダイアナ・ヴァージョンはあえて情熱的なアプローチと真逆のクールな情熱を感じてしまいます。

ダイアナ・クラール



竹村淳著『ラテン音楽ベスト100』でも「ベサメ・ムーチョ」はイの1番に取り上げられています。

この曲をコンスエロ・ヴェラスケスが作ったいきさつが紹介されていますのでちょっと引用すると、

“わが国では不名誉なことに安っぽいキャバレー・ソングの代表のように見られている。(中略)でも「明日はボクは遠いところにいるだろう」という箇所が腑に落ちなかったのだ。”なぜならヴェラスケスが知人の見舞いにいったとき、いまわの際にあった男性が付き添っていた伴侶に今生の別れの口づけを求めていた”いわば死への旅立ちの最後のキスを歌にしたとのことです

ですから、ダイアナの最後の口づけ的なクールで淡々とした歌唱こそが、この曲の核心をついた表現ではないかと思います。


もうひとつ、これも淡々としたなかに味わいのあるヴァージョン。

ブラジルを代表する二人、カエターノ・ヴェローゾとジョアン・ジルベルトによる「ベサメ・ムーチョ」です。前半はカエターノが歌い、ジョアンはギターとバック・コーラスに徹しますが、4分15秒あたりからはジョアンが一人で歌います。心に沁みます。

Joao Gilberto & Caetano Veloso en Buenos Aires, 2000 後半4:15からジョアンのソロ



ダイアナ・クラールとジョアン・ジルベルトがともに録音した「ベサメ・ムーチョ」には共通点があります。

この曲の収録されているジョアン・ジルベルトのアルバム『Amoroso』、


$♪blowin' in the music


またダイアナの『The Look Of Love』
$♪blowin' in the music

録音された年代には20年くらいの差がありますが、ともにアルバム・プロデューサーはトミー・リピューマ、レコーディング・エンジニアはアル・シュミット、オーケストラのアレンジャーはクラウス・オガーマンなのです。

いずれもボクが敬愛してやまない人たちです。


さて次回「ベサメ・ムーチョ」の二回目では、みなさんにぜひぜひ聴いてほしい、知ってほしい孤島の名歌手をご紹介します。