前回取り上げた<作詞:ハワード・ディーツ、作曲:アーサー・シュワルツのコンビ>としては、「ダンシング・イン・ザ・ダーク」(1931年)のほうがおなじみかもしれません。ところでこの曲を世界中に知らしめたのは、神業のようなフレッド・アステアとシド・チャリシーの華麗で息をのむようなダンスでした。

$♪blowin' in the music スマートなアステア

いわずと知れた映画『バンド・ワゴン』(1953年)から。時にアステア、54歳。このスタイリッシュなダンスを映画でみて“まだまだ自分も現役でいける”と意を強くした男性も多かったのではないでしょうか。

Fred Astaire and Cyd Charisse, at the Central Park



そもそも『バンド・ワゴン』は、1931年のブロードウェイで、姉アデルと弟フレッドのアステア・コンビが主演した大ヒット・ミュージカルです。つまりこの曲はアステアに始まり、アステアの終わりにつながった曲ということになります。

もちろん「あなたと夜と音楽と」同様に多くの歌い手によってカヴァーされているスタンダード・ナンバーです。なおこの曲に「暗闇に踊る」という邦題がついていた記憶があります。この訳もなかなか素敵です。

$♪blowin' in the music


ボクが大好きなダイアナ・クラールのヴァージョンも素晴らしい。もちろんこのアルバム『The Look of Love』も最高!

わが敬愛のプロデュサー:トミー・リピューマ、アレンジャー:クラウス・オガーマン、エンジニア:アル・シュミットの3人コンビの名前を見ただけでもひれ伏してしまいそうです。

Diana Krall from the album "THE LOOK OF LOVE"



この流麗ヴァージョンと対比すべきスウィンギーヴァージョンといえば、いつもながらのシナトラです(結局は、この人を引き合いに出さざるを得ないのです。ご容赦っ!)アルバムは『カム・ダンス・ウィズ・ミー』に収録されていますが、このYouTube映像はライブ音源です。



なんだか、バックバンドがシナトラ一人に引っ張られているような印象を受けますね。

次はお約束の演奏モノ定番。とくれば・・・


モダン・ジャズの名盤中の名盤『サムシン・エルス』。

噂ではアルバムのリーダーはキャノンボールということになっていますが、本当はCBSとの専属契約をしたマイルスが、いままでのブルーノートへの義理を果たすため、主導的な役割を果たして制作のイニシアティブをとったというのが定説です。

現に、ここに収録された「ダンシング・イン・ザ・ダーク」では、マイルスが“サラ・ヴォーンがこんな感じで歌っていたのを思い出して、キャノンボールに演らせたんだ”とコメントしたことが原盤のライナーノーツに書かれているそうです(popfreak注:ここでは日本語版ライナーからの孫引きです)。

やはりセッションは、マイルスが仕切っていたことを証明しているようです。しかもこの曲では自分は演奏に加わらずに・・・。

Cannonball Adderley from the album "SOMETHIN' ELSE"



【同名異曲】

お待たせしました。東京オリンピック以降にお生まれのかたへ

「ダンシング・イン・ザ・ダーク」といえば、ブルース・スプリングスティーン『ボーン・イン・ザ・USA』収録の代表曲の一つ。

Bruce Springsteen Dancing In The Dark/Barcelona 1n 2002
From the Album "Born In The U.S.A."




同名異曲は世に多しといえど、これほどの極端な異曲はないのではないでしょうか?

ところで、「ダンシング・・・」ならぬ「ダンサー・・」という映画のことはぜひとも記さなければなりますまい。

次回、いざっ。