ジャニスの代表曲といえば、死後発売になったアルバム『パール』1曲目に入っていてシングルとしてもヒットした「ムーヴ・オーヴァー」でしょう。

Janis Joplin - move over (photos)


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でも、アルバムではB面に収録されている「メルセデス・ベンツ」もいい味を出しています。伴奏もなくちょっとふざけた味わいで歌っています。
 
1番は;“おお神さま、メルセデス・ベンツを買ってくださいな。
     友達が私のポルシェに乗っちゃうので、買い替えなければならないし”で始まり、
      
2番は;“おお神さま、カラーTVを買ってくださいな。”とおねだりしてから、
    “おお神さま、街で一晩遊ばせて。・・愛しているとこ、見せてよね。”


ジャニスはポルシェに乗っていました。もちろんテレビだって買えないはずはありません。
でも、「もっててもおねだりする」寂しがり屋のジャニスの姿が透けて見えて、とても可愛く感じられます。

前回ブログで紹介した映画『ローズ』のなかで、主人公に扮したベット・ミドラーがこんなセリフを言います。
 
    “コンサートで何万人と愛を交し合った後で、
     たったひとりでホテルの部屋に帰るのよ”


セリフの表現は正確ではないかもしれませんが、このようなローズ≒パール≒ジャニスの心の寂しさを分かってくれる人もいなかったかと思うと、切なくなります。

「メルセデス・ベンツ」にこんな面白い映像がついています。

Janis Joplin - Mercedes Benz


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さて、激動の1970年前後を激しく生きたロック・シンガーと、20世紀前半のアメリカを代表する作曲家との組み合わせは、意外かも知れません。

ジョージ・ガーシュウィン
ジャニス・ジョプリンは、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー(バンド名)時代にガーシュウィンが作曲した「サマータイム」を歌っています。

Janis Joplin - Summertime (live Grona Lund 1969)B&W


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アルバム・ジャケットは、これです。
これも擦り切れるほど聴いた曲です。

 「サマータイム」収録のアルバム『チープ・スリル』
「サマータイム」は多くの歌手に歌われたガーシュウィンの代表曲の一つですが、これはオペラ手法を用いたミュージカル『ポーギーとベス』のなかのハイライト曲。
このミュージカルは、黒人が主な出演者という異色作で、ジョージ・ガーシュウィンは兄で作詞家のアイラの協力のもと、作曲と編曲に約2年の歳月を費やしたといわれています。
ところが1935年の初演は、わずか124回で打ち切りとなります。

この作品が評価されたのはガーシュウィンの死後5年経っての再演で7ヶ月のロングランを記録します。黒人の生活をミュージカルにしたいというジョージ・ガーシュウィンの
信念がようやく実を結びました。

『ポーギーとベス』を全編ジャズ・ミュージシャンの歌と演奏で録音したこんなアルバムもでています(マイ・コレクション)。


 ジャズ・アルバム『ポーギーとベス』
ポーギーには、白人歌手メル・トーメ。ベスにはやはり白人歌手フランシス・フェイ。その他私の好きなジョニー・ハートマンなども参加しています。
レーベルは、ベツレヘム。意欲作です。

ジョージ・ガーシュウィンは38歳で世を去りました。
ジャニス・ジョプリンは27歳でした。

ジャニスの「サマータイム」を聴くたびに、この歌をガーシュウィンが聴いたらどんな風に感じるだろうか、と思うのです。
黒人ミュージカル完成に苦労したジョージが、心寂しきスーパースター、ジャニスの切々たる歌唱に心打たれているのではないか、と思うのです。

*次回は、ジョージ・ガーシュウィンが世に出るきっかけを作った1910年代のスーパースター、アル・ジョルソン物語。ちょっとディープな話ですが・・・。