フランク・シナトラといえば超大物歌手としての風格を想像しがちですが、若い頃の絶大な人気は語り草です。

 ハリー・ジェームス楽団時代のシナトラ
1930年代は「スウィング時代」でした。多くの楽団がボール・ルームで演奏し、男女はダンスに熱中していました。フランク・シナトラが頭角を現したのは、ハリー・ジェームス(写真右のtpを吹いている男前)楽団の専属歌手としてでした。

YouTubeにもハリー・ジェームス楽団時代のシナトラの放送録音がアップされています(1939年 remote broadcast)



場所は、NYのRoseland Ballroom、「From Bottom of My Heart」など数曲歌っています。
当時の楽団専属の歌手は、出番は数曲だけでしかも歌うのは2番とか3番だけ。あくまで楽団の演奏でダンスするのがお客さんの目的です。

そのシナトラ、人気が出てきたところでハリー・ジェームス楽団から、人気絶頂のトミー・ドーシー楽団に移籍します。ちょっとトラブったそうですが、人気楽団の人気歌手として次はソロ歌手へとトントン拍子。40年代前半、ボビー・ソクサー(女学生)を熱狂させました。アメリカのポピュラー音楽界、最初のアイドル歌手といえそうです。(ただし「実力を伴った」と補足させていただきます(笑))

その人気は、かれのシャープなルックスが大きな要素だったことは確実ですが、とりわけ甘い歌唱スタイルが若い世代を引き付けました。
シナトラの「スムース」な歌い方には、トミー・ドーシーのトロンボーンが影響しています。スライドするトロンボーン独特のグリッサンドする歌唱法、これがシナトラの歌が聴く人を引き付ける大きな魅力となっています。

トミー・ドーシー楽団のテーマ・ミュージック「I'm Getting Sentimental Over You(ぼくはセンチになったよ)」のSP時代のオリジナル音源です。歌は入っていませんが、ちょっと聴いてみてください。


シナトラが名を成し、自分のレーベル「リプリーズ」での3枚目のアルバム「アイ・リメンバー・トミー」にトミー・ドーシーを追悼し、当時ドーシー楽団の編曲者だったサイ・オリヴァーのアレンジで録音しました。その1曲目「I'm Getting Sentimental Over You」は、とりわけ感謝と思いいれをこめた丁寧な素晴らしい歌唱です。

 「I Remeber Tommy」のジャケット

⇒シナトラの「I Remember Tommy」

歌い手が楽器の奏法に影響を受けたのは、ルイ・アームストロングが有名ですが(自分のトランペットを歌唱スタイルにも応用した)、トロンボーンとの出会い、つまりトミー・ドーシーとの出会いがシナトラのスタイルを形成したことにとても感謝していたのでしょうね。

その後、シナトラ一家とよばれるグループで芸能界で大活躍します。その相棒にはサミー・デヴィスJRとディーン・マーティンが有名です。YouTubeにシナトラとディーノ(ディーン・マーティンの愛称)の8分におよぶ素晴らしいデュエット映像がありました。



*次回は、シナトラの娘さん、ナンシー・シナトラとの名ポップ・チューン曲「Somethin' Stupid(恋のひとこと)」がいいかな。