時々、あの夜のことを思い出す。
もう二度とない、あの夜のことを。
ある年の年末のことだ。
新宿のピットインで待ち合わせして、
入口の列に並ぶ。
ドアの所には、
花が一つだけある。
何十年もまえから変わらない
椅子に腰掛けて、
ステージが始まるのを、
待っている、私達。
あの時の、ウイスキーも
ループされたチェロの
ベースラインも。
引き摺り込まれて行くような
彼女の歌声も。
客からのアンコールの拍手も。
あの空間と時間を包んでいた
空気感は、
大変特別なものとなって、
わたし達の心にしまわれた。
そんな夜だった。
彼女の訃報を知ったのは、
年が明けてすぐのことだった。
来年も、また聴きに行こう
といっていたのに。
古い友人が書いてくれた
という歌詞を、
直筆のものだからといって、
弱った目を時々近づけながら
唄っていた。
あの彼女は、もう、いない。
だけど、彼女の残した
時代がある。
わたしは、それをなぞって
いきていくのだろうか。
また、あの夜の気分を
あじわいたいがために。
日々、雑感