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和…side
・・・ぐぅ・・・・
物音に目を覚ました。
横を見ると、胡座をかいた足に肘をついて眠ってる智がいた。
ぐぅ…とイビキをかいてる。
横になりゃいいのに。
「っつ…」
動こうとすると全身が痛む。
庇うようにしてゆっくりと上体を起こした。
まだ部屋は暗く、月明かりの光がぼんやりとここを青白く照らしている。
ここは、この人の部屋か。
ということは…
この部屋で、この布団で、駿河と…
考えるだけで手に力がこもる。
「ん……」
ピクッと智が動いた。
それに対して俺は感情を消すように手から力を抜いた。
「…あ、起きたか」
「…うん」
ごめん寝ちった、って体を伸ばす智。
「起きて大丈夫なの?まだ横になってたほうがいいんじゃねぇの?」
寝起きだからか、いつもより低い声で、いつもより砕けだ口調に、鼓動が大きくなる。
それを落ち着かせるように深呼吸して視界から智を外した。
「平気。もう動けるから……っつ」
立とうと体を支えるのについた手に痛みが走って崩れ落ちかけたその体を「あぶなっ…」て、温もりに支えられた。
振り向くとあまりの近さにあったその横顔に慌てて顔を背けた。
「何が平気だよ。あぶねぇからまだここで寝てろ」
ちょっと怒ってる声。
諦めるしかないかと思ったその時、痛みと同時にさらなる温かさが俺の体を包み込んだ。
「っ…痛い、てば…」
「ごめん、ちょっと我慢して…。少しこうさせて」
俺を包む手に、また少し力が入る。
痛みより、この高鳴る鼓動が聞こえてしまわないかが心配だった。
「…和」
すぐ耳元で聞こえる声に、また鼓動が上がる。
「…なに」
「守ってやれなくてごめんな」
「…」
「もっと早く気付けばよかった。そしたらこんなことに…」
「…助けてくれたじゃん」
「…でも…」
「もういいから。あのままだったら、もっと酷いことになってたかもしれない。でも助けてくれた。それだけで充分だよ」
「和…」
「全く、頼んでもないのに…。上様が小姓を守るなんて、周りが聞いたら驚くよ」
「…上様じゃねぇよ」
「え?」
「上様じゃなくて、俺は俺として、和のとこに行ったの」
体を離した智は、今まで見たことのない、まっすぐな眼差しで俺の目を見た。
「分かってないだろ。俺がどんだけ和のこと想ってるか」
吸い込まれそうなその瞳に捕らえられたみたいに、目が離せない。
「アイツが触ったところ、全部俺が触って消したい。きっと重ねたそこも、俺が塗りかえたい」
俺の唇に視線を落とす智。
かと思ったら、またその視線はすぐ戻る。
「けど抑えられる。和を傷つけたくないから。守りたいから。許されないことだって分かってるけど、それでも俺は、お前が好きなんだ」
こんなにもまっすぐな愛を感じたことがあるだろうか。
俺は、一度もない。
「あ、そうだ、これ」
差し出したのは、小さな手ぬぐい。
前から俺が使ってた手ぬぐい。
失くしたと思っていたやつだった。
「前看病してもらった時、これ、落としてったから」
受け取ると、ボロボロだったはずのそれは、綺麗に縫い直されていた。
「俺が縫ったんだよ。教えてもらったんだ、駿河に」
「…駿河に…?」
「和と同じ部屋の者だろ?裁縫ができるって聞いてさ、前に呼んで教えてもらった。裁縫なんて、女がやるものだし、得意なことは隠したいから誰にも言わないでほしいって、とくに和には笑われるからって言われたから黙ってたけど……それで怒ってたんでしょ?和」
「っ…」
「夜伽に呼んだって思ったんでしょ。だから内緒にしてるんだって」
あまりにも図星すぎて、
「…そんなことない」
少しもごもごした返しになった。
「最初、また俺を避けようとしてたのがなんでかわからなかったけど、和がこの部屋見て、手に力入れてたの見て分かった」
あ…俺が目覚ました時…
…てか、
「起きてたのかよ」
「ふふ、ちょっとね」
笑う智につられて、俺も笑みをこぼした。
受け取った手ぬぐいを見る。
そっか、これだったのか。
もう捨てようかと思ってた物なのに、こんなんされたら、大切にするしかなくなるじゃん。
心の、ずっと奥を覆ってた氷が
すーっと溶けていく感覚がした。
もう、素直になって、いいのかな。
この人になら…
「和、もう休みな?俺ここに居てやるから。多分まだ夜中だし、和が寝たら俺も寝るから、だから「…塗りかえて」
「……え…?」
「全部塗りかえてよ。このままじゃ、気持ち悪くて眠れない」
「だけど…」
「たしかに許されることじゃない。でも、一つだけ許される方法がある」
智だから、できる方法が。
もう隠さない。隠したくない。
だから
「…上様、ご命令を」
眉間にしわを寄せ、俯く智。
でもすぐ、何かを決心したように小さく息をついてから、まっすぐ俺を見て言った。
「和也。お主に今宵、夜伽を申しつける」
つづくーーーーー・・・
