アユが彼氏…爺さんを
 
初めて連れてきたその日から
私の中でモヤモヤが膨らんでいきました
 
 
 
これが自分の娘なら
殴っていたかもしれない
 
 
だけどアユは他人の子
 
 
私を「ママ」と呼び
どんなに慕ってくれていても
 
私は所詮他人に過ぎないのです
 
 
 
そして
 
 
店長彼氏の時に
余計なことを言ってしまった後悔を
 
ずっと引きずっていたこともあって
 
 
私は何も言えなくなっていました
 
 
 
 
アユはそんなこととはつゆ知らず
 
たまに爺さんを連れて
遊びに来るようになりました
 
 
 
アユとは以前と何も変わらない
 
 
変わったことはひとつだけ
 
 
私が夕飯を出さなくなったことだけ
 
 
歓迎はしていないことを
態度で示したのは唯一そこでした
 
 
 
 
アユと爺さんの会話はいつも
早く奥さんと離婚して一緒になろう
 
という内容がほとんどでした
 
 
 
私は酒を飲みながら
そんな二人の会話に耳を傾けていました
 
 
 
クソ(元夫)もこうやって
不倫相手と将来の約束をしていたのか
 
 
クソとのことは
もうとっくの昔に終わっていること
 
 
それなのに
 
心の奥底がチクチクと痛む
 
 
 
まさかアユに古傷をえぐられとは…
 
 
 
 
 
 
 
 
ある日
 
 
今からドンキ行こーっ‼
 
アユが突然言い出しました
 
 
 
時計は22時を指していて
そして平日のど真ん中
 
明日は仕事なのです
 
 
はぁー?この時間からー?
まじで殺す気か⁉
 
と思ったのですが

 
ここで悪魔の私がそっと顔をのぞかせました
 
 
爺さんを夜中に連れ回してやろーと真顔
 
 
 
 
私だって正直言うと
この時間から出かけるなんて
 
吐き気がするほどげんなりする
 
 
 
爺さんはもっとだろうな…
 
 
悪魔の私が笑みを浮かべます
 
 
若い子と付き合うということは
こういうことなんだと思い知れと
 
 
 
爺さんは
  
明日も仕事だから帰ろうと懇願
わかりやすく帰りたがっていました
 
 
 
真顔
 
 
ですよね?あなた63ですもの!
 
当然そうなりますよ
 
 
だけど
 
あなたの彼女は25歳なんですよ
 
こういうことがあるって
わかりきっていたことでしょう?
 
承知で付き合ってるんじゃないの?
 
 
 
は?行きましょうよ‼
私もドンキ行きたーい爆  笑
 
 
苦しめと思いました
 
 
 
 
3人でドンキに行きましたが
アユはただ店内を歩き続けるだけ…
 
 
で、何買いに来たの⁉
 
 
えー別にないよー
来たかっただけー
 
 
 
オイ真顔
 
 
こんな夜中に目的もなく出かけるなんて
中年の世界では許されない行為だぞ
 
 
ですがこれが若者なのです
 
 
あてもなくあちこち車を走らせ
どこにでもあるファミレスで朝まで過ごす
 
 
翌日は眠いと言いながら仕事へ行く
 
これが若いうちにできることです
 
 
 
 
爺さんの様子が
少々心配になりましたが
 
まだまだ元気そうした
 
 
さーて店内1周、いや3週はしたし
そろそろ帰ろうかと言いかけた時
 
 
ここでまた若者が
とんでもないことを言い出します
 
 
 
ママ、カラオケ行かね⁉
 
 
 
か、カラオケだあ⁉
 
てめえ時計も読めねえのか‼
 
てかもう24時な‼
 
これ以上爺さん引きずり回したら
老人虐待で捕まるわ
 
 
 
という気持ちの反面で
 
 
 
アユの彼氏なんだから
彼女に付き合うのは仕方ない
 
 
 
悪魔の私は深く頷いていました
 
 
 
いいよ‼行こ行こー‼
 
 
 
こうなったら私も覚悟します
 
 
嫌がる爺さんを引きずって
カラオケに行きました
 
 
 
やっと座ることができた爺さんは
30分もしないうちにご臨終
 
 
グーグーと寝ているのを確認して
アユに聞きました
 
 
 
 
あのさあ
どうするつもりなの⁉
 
結婚するとか言ってるけど
現実的な話に聞こえないんだけど
 
 
 
 
爺さんの奥さんは58歳
病院看護師をしているそうです
 
 
爺さんと奥さんの間に息子は2人いて
どちらも30代で家庭を持っている
 
 
その息子たちは
不倫していることは知らないが
 
離婚には賛成してくれている
 
 
 
そう話し始めました
 
 
 
離婚に賛成してる?
 
それは離婚の理由が
不倫だという事実を知らないからだよ
 
 
いちいち口を挟みたくなる
 
このお花畑がこの先何を言うのか
容易に想像できて
 
ものすごくイライラしてきました
 
 
 
どうして離婚に賛成なの?
もともと離婚話があったってこと?
 
と聞き方を変えました
 
 
 
奥さんは爺さんに冷たくて
いつでも出て行ってくれて構わないとか
 
あんたが出て行かないなら
私が出て行ってやるみたいなこと言うんだけど
 
 
いざ、爺さんが本当に出て行く
という話をすると
 
奥さんは病気で難聴だから
聞こえないふりをするんだって
 
 
だから爺さんからは一切話しかけないし
夫婦の会話はまったくないみたい
 
話しかけるとキレられるから
 
毎日葬式みたいだって言ってるよ
 
 
あと、奥さんの飼ってる猫が高齢で
その猫がいるうちは
 
奥さんは出て行かないみたい
 
 
そのことを息子たちに話していて
 
親父がツラくて我慢できないのなら
離婚もしかたないよねって
 
言ってくれているんだって
 
 
 
 
ほらね…
 
不倫する男がよく口にする
ありきたりな話しか出てこない
 
 
奥さんを悪者にする男は許せない
 
 
 
 
本当に奥さんは無視をしているの?
 
病気なんでしょ?
本当に聞こえないかもしれないじゃん
 
そんなの誰にもわからないじゃん?
 
アユは爺さんが好きだから
爺さんの言うことをすべて鵜呑みにするけど
 
本当のことは誰にもわからないよ
 
 
 
 
心の古傷をえぐられる
 
 
私も散々悪者にされたから分かる
 
 
奥さんがそう言っているのだとしても
 
それにはそれなりの理由があるのだ
 
 
 
息子たちだって
離婚の理由が不倫だと知ったら?
 
賛成‼って言ってくれるかな?
 
 
アユも、その息子たちも
都合のいいとこだけを聞かされてるだけ
 
早くそこに気付いた方がいい
 
 
 
今のアユに何を言っても
届かないことはわかっています
 
 
だけど
 
わかって欲しかった
 
 
 
 
でも爺さんは離婚のこと本気だから
 
離婚して私と結婚して
うちの親と同居してくれるって
 
爺さん言ったもん
 
アホ美もパパも認めてくれたもん
 
 
 
 
 
 
 
は⁉
 
 
 
 
 
 
 
 
認めてくれた⁉
 
それって…
 
 
 
 
 
 
 
親に会わせたの⁉
この爺さんを!?
 
 
 
to be continued