「キンポコ」についてグダグダ語っていくシリーズ第3弾。今回は、本作のヴィランの一人であるお姉さんについての解説と、しんのすけの味方となるキャラクターについてのイントロをメインに進めていきます。

 

 

 

*以下ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変態との逃走劇から二日後の深夜、地球時間で午前1時20分頃、玄関から「しんのすけくーん」と呼ぶ声がするのを聞きつけたしんのすけが扉を開けたそこには、ボン・キュ・ボン、ダイナマイトボディのお姉さん、2番目の刺客である「プリリン」が立っていました。プリリンがしんのすけに、レンタルビデオ屋までついてきてほしいと頼むと、その美貌に魅了されたしんのすけはまんまと騙され、地球とドン・クラーイとを繋ぐ扉を開いてしまうのでした。

 

この一連のシーンにおいて、プリリンのファンタジックなデザインや、レンタルビデオ屋まで歩いていくという一見普通の設定などから、気付くことが難しいかもしれません。しかし、この映画の中核に中国政府があることを知っていれば、容易に想像がつきます。いわゆる、「ハニートラップ」です。これまで多くのスパイ作品や刑事ものなどで描かれ、実際の事例も報告されているこのハニートラップは、スパイ戦においては時に、国家にとって重大な情報を明け渡してしまうことになりかねない、恐ろしい戦術です。不朽の刑事ドラマ「相棒」のシーズン17最終話でも、研究所で開発された致死性の強い鳥インフルエンザウィルスの奪取に、他国の女スパイによるハニートラップが一役買いました。中国が他国より優位に立つための手段、その2つ目がスパイ戦、ここで描かれるハニートラップなのです。

 

ちなみに、マックやプリリンが、地球の住人にまだ触れることができないという描写がこれまでのシーンでなされていますが、これは序盤のシーンでのプリリンの台詞「今は我々も影としてしか向こうへ行けませんが」に起因します。これをメタファーとして捉えた場合、地球の世界、つまり他国の支配の活路が見出せない今は、まだ表立って行動することはできないという意味になることにお気付きいただけたでしょうか。中国による姿の見えない支配の手、サイレントインベージョンを、影や夜の闇として忠実に表現した本郷監督の想像力は、ヘンダーから12年経過した後でも健在だったのです。そもそも中国と「北の偉い人」の国の存在自体、別の惑星みたいなものですから、「地球とは別の暗黒世界」というのはあながち間違いではないのかも....

 

その後、結局眠れず用を足していたしんのすけの前に、今作の味方キャラである「マタ・タミ」が現れます。マタは、「選ばれし者」であるしんのすけを助けるため、しんのすけに、敵や、敵の使う法術「ア法(ヘンダーでいう「スゲーナスゴイデスのトランプ」)」について簡単に説明した後で、「君は僕が守ってあげる、それがパパとの約束だから」と言い残し、夜明けと共に消えてしまいます。

 

マタ親子のうち、父親の「マタ・タビ」は、アセ・ダク・ダークによる独裁からドン・クラーイを救うために伝説を利用しようと考えました。そして「金の矛」と「銀の盾」を奪い、ダークの手から逃れさせるため、命がけで地球へと武具を送った。その意志を継いだマタ・タミが、こうしてしんのすけの前に姿を現したのです。

マタは、その登場のタイミングの遅さや登場回数の少なさ、設定の深堀のなさなどから、ただデザインの良い、かわいい、かっこいいキャラとしての印象がほとんどですが、実は本作のメッセージを理解するうえで不可欠な、トッペマの代替とは言い難いほどの最重要キャラクターなのです。後程、このキャラクターについて説明するのに必要なシーンが登場するので、その時に詳しく解説します。

 

(*マタも敵も夜にしか行動できないという設定から、ヘンダーランドにおいて、悪役に呪いをかけられたトッペマが夜にしか出現できなくなるというのを連想した方も多いのでは。)

 

そのマタのシーン終了後から、物語は再び、昼間の日常のシーンへと立ち返ります。ひろしは出世の道を逃し、みさえは子育てに負われ、汚職疑惑の政治家はそれっぽい口先だけの台詞を吐くだけ。しんのすけの話は相変わらず夢だと一蹴され、お得意のケツダケ星人までも冷ややかなコメントではねのけられる始末。環境問題に経済問題、家庭問題といったネガティブなニュースは連日報道され、野原夫婦もぎくしゃく。そんな中で一人取り残されていくしんのすけの様子が描かれたシーンは、先程のシーンと同様、視聴者のストレスを煽りましたが、実はこの映画のメッセージに直結する大事な要素です。特にケツダケ星人は要注目、まじで。

夫婦喧嘩の件数まではさすがにやりすぎだけども(笑)。

 

 

度々先延ばしにして申し訳ありませんが、「キンポコ」は主幹となるテーマから枝が分かれ、ストーリーが進むにつれてその枝が再び幹に戻ってくるような構図となっているので、こうせざるを得ません。伏線回収の際にはリマインドできるようにするので、どうかお付き合い願います。

 

次回はいよいよ、敵との本格的な戦闘に入ります。マタの重要性もふんだんに説明していきますので、どうぞよしなに。