ぷりんです。

今回は、御伽草子の中から「はちかつぎ」をご紹介いたします。

 

御伽草子ですが、室町時代に書かれた短編集で作者は不明のようです。江戸時代に入ると、「はちかつぎ」「ものぐさ太郎」など23編を集めて出版され「御伽草子」と名付けられたそうです。子供向けのお話を「おとぎばなし」というのも「御伽草子」からきているようです。(はじめてであう日本の古典11「御伽草子」の前書きから抜粋)

 

娘と「はちかつぎ」の出会いについてお話します。

我が家では、娘が産まれる直前に「まんが日本昔ばなし101」購入し、娘によく読み聞かせをしてきました。そのためか小学生の今でも娘はこの本が大好きで一人でもよく読みます。「鉢かつぎ姫」も何度も読んでいます。

 

昔話を読み聞かせていて不思議なのは、お話の内容について、娘が質問してこないことです。「なんで鉢をかぶるの?」「なんで若君は鉢かつぎ姫を気に入ったの?」とか聞かないのです。物語の世界観をそのまま受け入れることができることも、昔話の良さのように思います。

 

さて、娘が長いお話を一人で読めるようになってきたことから、昔話の原典を読んでほしいと思い、「はじめてであう日本の古典」シリーズ、「1古事記・風土記」「2竹取物語」「10徒然草」「11御伽草子」などを図書館で借りてきて置いておきます。すると娘が気に入った本を一人で読んでくれます。

 

見ていると、竹取物語、徒然草、御伽草子はすぐに読んでくれました。一方で古事記・風土記はもうひとつのようです。これも個性なのだと思います。

 

ちなみに徒然草の巻には、古今著聞集の話も掲載されていて、藤原道長の話があります。NHK大河ドラマ「光る君へ」が大好きな娘は、道長の話からまず読み進めていったようです。

 

話を戻します。「はちかつぎ」のあらすじです。

はちかつぎ姫は河内の国交野(かたの)の備中守さねかたの娘となっています。裕福な家で、姫は、音楽を奏でたり、歌を詠んで暮らし、幸せそのものでした。姫13歳の時に母が重病になって人生が暗転します。母は、長谷の観音様に姫のご加護を祈り、「鉢」を姫の頭にかぶせて亡くなります。

 

姫は嘆き悲しみます。「鉢」はなぜかとることができません。姫は「はちかつぎ姫」と呼ばれるようになります。やがて父は、新しく妻を迎えますが、新しいお母さんははちかつぎ姫をにくみます。姫が亡くなったお母さんのお墓をお参りし、私も寂しくつらいので早くお迎えにきてくださいと泣きます。それを聞いた新しいお母さんは、「私とあなたと私の子供を、姫が呪っている」という嘘を姫の父親に吹き込みます。

 

それを信じてしまった父親は姫を家から追い出します。姫は途方に暮れてさまよい、川に身投げします。しかし「鉢」が浮袋の役割をして沈みませんので死ねません。そこへ国司 山陰(やまかげ)の三位の中将(さんみのちゅうじょう)が訪れます。姫を哀れに思った中将は自宅に姫を連れ帰り、湯殿の火焚きを命じます。姫はお嬢様の出ですので、働いたことがありません。それでもがんばって働きます。

 

三位の中将には4人の息子があり、上3人はすでに結婚していますが、下の息子「宰相殿の御曹司」と呼ばれる君だけまだ未婚です。姿美しく、心優しく、湯殿にも、父や兄の後の夜更けに入ります。そこで宰相の君ははちかつぎ姫の美しさに気づき、「河内の国は狭いが、美しい女性はたくさんいる。しかしこの姫のように飛びぬけて美しく優しい人はいない」と思います。宰相の君は、つげのくしと横笛を姫に送り、心慰めるように言います。姫はこの優しさがうれしくてたまりません。なぜなら、この家のなかでも、姫は鉢をかぶったばけものとして忌み嫌われていたからです。

 

そうこうするうちに、宰相の君とはちかつぎ姫の仲の良さが噂になります。君の母は驚き、何とかして姫を追い出そうと考えます。そして君の乳母の進言を取り入れ、4人の兄弟の「およめさん比べ」を企画します。上3人の兄のおよめさんたちもきれいな方たちです。その席にはちかつぎ姫を同席させれば、いたたまれなくなって出ていくだろうというものです。

 

案の定、姫は家を出ようとします。しかし宰相の君も一緒に家を出ると言います。二人で泣きぬれて、よめ比べの朝がきました。家を出ようと一歩踏み出したところ、姫の「鉢」がかたんと音をたてて落ちました。不思議なことに、鉢の中には、十二単、赤く美しい袴、金銀の宝物やお金などたくさんのものが入っています。そしてなにより姫は天女のようでした。二人は、これも長谷の観音様のご加護と思い、よめ比べに出席することを決意します。

 

上3人の兄のお嫁さんが、着飾って、夫の父母にたくさんのおみやげを送りそろったところで、宰相の君とはちかつぎ姫(今は「鉢」をかぶっていません)が登場します。そして皆、姫の美しさに圧倒されます。

姫の席は末席で、破れた畳が置かれていました。三位の中将は、「こちらに座りなさい」と上座にいる妻のそばに座らせます。姫はたくさんの贈り物をしてこれもみな驚きました。

 

上3人のおよめさんはくやしくて、音楽を奏でることや和歌を詠むことに姫を誘います。しかし、姫はもともと良いうちのお嬢様です。管弦や詩歌に通じていますのでみごとにお相手します。そしてこんな歌を詠みます。「春は花、夏はたちばな、秋は菊、いづれのつゆにおくぞものうき」(春はさくら、夏はたちばな、秋は菊の花が美しい、どの季節のつゆを受けた花が美しいでしょうか、そうです、どの花も同じように美しいものですよ)

 

歌を書いたその字の美しさも、人々を感嘆させます。

三位の中将は、この宴席で、自分の領地の3分の2を、宰相の君と姫に与え、宰相の君を跡取りとすることを宣言します。宰相の君は天皇にも気に入られ、大和、河内、伊賀の3国をいただき、裕福になり、姫との間にもたくさんの子を授かります。

 

その後の物語

まんが日本昔ばなしはここで終わりますが、御伽草子はこの後のお話があります。姫は、父親がどうしているか気になります。一方で父親は、新しい妻とうまくいかず、落ちぶれて家を出て修行僧となっています。そして、今になって、姫を家から追い出したことを後悔します。そして長谷の観音様にお祈りします。「どうか姫が生きていますように。そしてもう一度会えますように」

 

そこへ大勢の家来をつれて参拝にきた宰相の君一行と出会います。姫と父は再開して喜びの涙で抱き合います。宰相の君は、姫の父を河内の国の主として、家族で仲良く幸せに暮らします。

 

感想

私は、その後の物語が大好きです。「はちかつぎ」のその後の物語を読んで頭に思い浮かんだのが「シンデレラ」です。「シンデレラ」の物語は、シャルル=ペローやグリム兄弟などが書いています。そしてその後の物語も様々です。意地悪な姉たちが最後に残酷な結末を迎えるお話もあり、ディズニー映画の実写版「シンデレラ」では、姉たちはどこかに行ってしまいます。一方で、「シンデレラは姉たちをお城に招き、貴族と結婚させて幸せに暮らしました」というエンディングもあるのです。単にひどい仕打ちを許すだけでなく、皆で幸せになる、そんなラストが私は好きです。

 

はちかつぎ姫は、「鉢」をかぶっているというだけで、周囲の人は姫を「醜い化け物」と思い込みます。前回の「稲荷山戦記」の潮彦の言葉を思い出します。

 

『あれが大多数の人の姿よ、あるものを見ぬ、聞かぬ。すなおに目を開き、耳を澄ませばよいものを』

 

「鉢」以外のものに目を向けることのできた宰相の君は、姫の美しさ・優しさに気づきます。気づけた人は素晴らしいとも思いますが、自分は中々気づけないなあと思い、潮彦の言葉を反芻しています。ひどい仕打ちを許すことも素晴らしいことですが、十分反省した人と改めて幸せに生きる選択をした、その後の物語のすばらしさを娘に伝えたいと思いました。