青春を考える
「青春」 それは光のように過ぎて、その光の中にいたことに後で気付くもの。私が 「青春」と向き合った のは、もう何年前のことだろうか…。
「大小、そしてブラックジャック。コレで勝負だな」。私はその頃、香港にいた。日本に戻る最後の週末を マカオ で過ごそうと、高速船でそこへ向かっていた。一人つぶやきながら血が騒ぐのを感じる。これもあの 青春の前触れ だったのか。
香港に入国したときと同じように、宿もなく、地図もなく、ましてやガイドブックなどというものももたずにマカオに入ると、まずはどのようにして宿を確保するかが問題になる。
香港ではうまく安宿が見つかった。金城武主演の映画 「恋する惑星」 で使われた 「重慶大履(チョンキンマンション)」 に程近い 「美麗大履(ミラドールマンション)」 に宿をとった。マカオに出発するにあたって、その宿に大きな荷物は置いてきた。もっているのは小さなリュックサック一つ。いざとなれば野宿でもすればいいさ。そんな気楽な一人旅だった。
マカオに到着し、港の周辺で情報を集める。そこで分かったのは、香港に比べて遥かに物価が安いこと。宿泊費用も非常に安い。どうせなら豪遊してしまえ。ブラックジャックで勝てばどうってことはないさ。
そう判断した私は、その旅の中で初めて「予約ができる宿」に泊まる事にした。ホテルの名前は 「京都(キントー)」。 まさかマカオに来て京都に泊まることになるとは想像もしていなかったが、雰囲気は京都とは大きくかけはなれた(当たり前)その宿で少し休むと、ギャンブルをする前にふとビリヤードがしたくなった。
私は旅に出ると、その旅の成功をかけてビリヤードをすることが常 となっていたのだ。近場にビリヤード場はないか。ホテルのフロントに聞くが、英語が分からないからとあるオヤジを紹介された。このオヤジが、無責任にも私を 「青春」の真っ只中へ放り出した のだ。
「なあオヤジ、この近くにビリヤード場はないか?」
「あるよ、すぐ近くにある。ほらそこ。」
そのオヤジが指をさすその先には、煌々と照る「卓球」の看板。
おいおい違うってオヤジ。 温泉じゃないんだから。頼みますよ。
「意味わかる?いわゆるプール(pool=ビリヤード)よプール。」
ジェスチャーを交えながら熱く説明するも、
「分かってる分かってる。 テーブルテニス だろ?だからあそこ。」
ダメだこりゃ。そもそもテーブルテニス じゃない し。
しかしどこにも行くあてがない私は、とりあえず 本場中国の卓球会館がどのような熱気に包まれているのかという、横道にそれた興味が沸いて来た事もあってその建物に向かったのだった。
エレベーターで4階へ。扉が開く。その瞬間、私は脱力して崩れ落ちそうになった。
そこは、ビリヤード場だったのだ。
あまりのインパクトに私はそのままエレベーターで1階に向かい、もう一度看板を眺めた。
「卓球。…せ、青春…卓球?」
煌々と照るその看板には 「青春卓球」 とある。
なにやら中学校の部活(飛び散る汗・意味の分からない笑顔にハイテンション)を髣髴とさせるその四字熟語には、「若い人向けの卓球」という意味が含まれているのかビリヤードを表す言葉としてマカオで使われていたのだ。
私は20代にして初めて、青春と向き合っていることを自覚した。
その後の旅の記憶はあまり残っていない。 ただ夢中で青春と向き合い 、卓球にいそしみ、その結果からかギャンブルでは大勝したことだけはうっすらと覚えている。全てが青春の光にあてられてしまったかのように眩しく、そしてうわついた記憶が残っているのみだ。
気が付くと私は、香港のスターフェリー乗り場の前に立っていた。
今夜もまた、青春卓球に向き合おうか。その思いを胸にして…。
と思ったら、香港では 「亜州卓球」 という名前だった。ギャフンギャフン!!
とまあ、そんなことを思い出し笑いしながら一人酒をあおった、土曜日の夜。
そんなことは、どうでもいい。