「Alive」と「秘密」
飛行機の中で、特に見る映画がなかったので、適当に選んだ邦画がありました。
その映画についてはほとんど前情報がなく、公開されていた時もほとんど存在を知らず、あらすじもキャストも、映画の紹介画面で5行程度読んだ程度――で見ました。
かろうじて、監督の名前が目に入ったくらいでした。
その監督が、映画をほとんど見ない私ですら知ってるくらいに有名な方であり、特別ファンでもないが嫌いでもないので、今回の映画も見てみました。
それが、私が「秘密 –トップ・シークレットー」に出会ったきっかけでした。
キャストは、生田斗真さん、岡田将生さん。
監督は、大友啓史監督。
あらすじは、近未来の日本において、死者の脳の「映像」を見れる技術を持ち合わせた警察の「第九」という捜査機関が難事件に挑むというもの。
原作が、コミックスであり、あらすじから受ける印象とは違って「花とゆめ」コミックスだったらしい。
全12巻で完結はしているが、現在続編的なものが刊行中であるということ。
↑最後の二行は、映画を見たあとに知ったのですが。
映画のネタバレに入りますが・・・・・・・・。
映画自体は、大コケだったという結果に反して私としてはなかなか面白かったです。原作を一切知らなかったことと、「大コケした映画」だということすら知らなかったせいでしょうか、一切の偏見なしで見ることができたのがよかったのかもしれません。
映画の中の内容自体は、コミックスで言うところの最初の数巻のうち、二件の事件をミックスさせたものでした。「貝沼事件」と「絹子事件」です。原作を知らない身としては、「28人の少年を殺した犯人」とか「一家を惨殺した長女」などという目を引く話が出てきて興味深く見れましたし、映像的なグロさという意味でも、グロすぎず易しすぎず、見やすかったです。原作のキャラを知らなかったので、生田さんも岡田さんもイケメンだしまぁグロいあらすじだとしても美度的には帳尻が取れるものだなと思いながら見てました。しかも松坂さんまで出ているので、まさかイケメン3人出てるのに興行収入が悲惨だったなどとは思いもよりませんでしたが。
事件の流れ自体はわかりやすいというか、特にひねりもあまりなく、推理モノをよく見たり読んだりする人にはトリック的な面白さはないのですが、生田くんの苦悩のシーンなども多かったので、たぶんこの映画のテーマはミステリーとしての面白さの追求ではなく、「秘密を抱えて生きていく苦悩」「本当に、こんなMRI捜査が現実のものになったとしたら、こういう問題が起きるのではないか」を描いた作品なのだろうなと思いながら見てました。
映像的にも目を引くシーンも多かったし、印象的なところもあったので、またレンタルとかでいつか見てみたいなーと思えるくらい、私の中では好印象で、5段階でいうと4くらいは気に入ってました。最近の全員同じ顔に見える20代前半の若手俳優陣とは違い(彼らに非があるのではなく、私の年齢があがってることが問題なのですが)、ちゃんと私の中で見わけのつくくらいの年齢層のイケメンたちだったし(笑)
が、その5段階の4だった映画が・・・・・・・・・まさか、、、、、、、ラスト シーンが 終 わ っ てか ら、「5」になるとは思ってもいなかった・・・・・・・・・・・・・・・!!!!
しかし、予感しておくべきでした。
この映画の監督が「大友啓史」監督、つまり「るろうに剣心」や「プラチナデータ」「ミュージアム」の監督と同じだったと知った時点で。
そう、この監督さん・・・・・・・原作を変えてる部分があったり、前半テンポいいのに後半のテンポがダレるなどの批判もある中・・・・・・・しかし私が絶対的な信用をおいているポイントがあるのです。それが・・・・・・・・・・
主題歌。
この監督さんの主題歌への思いのかけ方は他の監督より断然信じられます。
「るろうに剣心」でONE OK ROCKを世界認知レベルに押し上げただけでなく、彼らのライブ映像も見てパンフレットにコメントも寄せてらっしゃり。熱もこもっていたし。
「プラチナデータ」では嵐というアイドルが主題歌であるものの、この楽曲と映画とのマッチング具合は素晴らしく、楽曲自体も私の中では断トツでジャニーズ全楽曲の中で一番好きなほどです。
「ミュージアム」では、わざわざ主演俳優とは違う事務所のONE OK ROCKに主題歌を直々に頼まれている。脇役にワンオクと同じ事務所の野村くんがいたといえども、いまや有名なバンドになったワンオクに「わざわざ主題歌用に作ってくれ」と頼めるコネクションと情熱をお持ちなのが素晴らしい。
そして、さらに大友監督への信頼はこの「秘密 -トップ・シークレットー」の主題歌を機内で突然聞いたときに、固いものになりました。
そして激しく後悔しました。公開中に劇場で聞けなかったことに。
その楽曲というのが、世界的ヒットメーカー・シンガーソングライターSiaの「Alive」。
Siaは数曲好きな曲がありますから、「Alive」をYoutubeで聞いたことはありました。しかし、格別好きな曲にはならなかったのです。
ところが、この「秘密」という映画を最初から最後までノンストップで見た後、この「人の脳が見た映像を、その人の死後に見る」という倫理に反しているかのような仕事をしながら、その責の重さに耐えて生き抜いてきた主人公「薪 剛」という人物とその彼を支えてきた人間たちの「生きている」様子を、2時間半に渡りじっくり見たあとに、突然「Alive」という曲が流れてきたのです。
衝撃的でした。
イントロからAメロにいたるまでのその、音の少なさ。まるで心音のように響くベース。
死ぬ瞬間に人が見るという、それまでの人生の映像が走馬灯のように流れる瞬間に流れそうなキーボードの音。
「But I survived(でも、生き抜いた)」と、地獄の底から這いあがってくるような歌い方。
「I’m still breathing(まだ、息をしている)」と歌うBメロに対し、息の根がとまる寸前の生物の心臓をあらわすような、絶望的なさまをあらわすベース音。
そして、サビ前の「カッ!!!」という、薪 剛の目が見開く瞬間を描いたかのような音。
サビでの「I’m aliiiiiiiiiiiiiiiiiiive(自分は、生きている)」、と4回連続で、あのMRI捜査用のマシンに座りながら薪 剛が叫んでいるかのような歌声。
あまりにも歌詞と、曲と、歌声が、全て映画に一致しすぎていて、身震いしたのと同時に、ある疑問が浮かびました。
「ここまで映画の内容に一致した楽曲を作れるなんてさすがSiaだ・・・・・・・。しかし、あそこまでの世界的に有名なヒットメーカーが、いくら有名監督とはいえ、まだまだ芸術後進国の日本の映画監督が頼んだからといって、楽曲なんか作ってくれるのだろうか・・・・・・・・というかそもそも、Aliveがリリースされたのは確かこの映画よりもっと前だった気がする・・・・・・・・・」という疑問が。
そこで、調べてみたら。
やはり 映画製作後に楽曲製作されたのではなく、映画製作中(または企画段階?)に大友監督がAliveを聞いて、「是非主題歌に使わせてほしい」と頼まれたそう。それも3カ月ほどは交渉が難航し、最終的には手紙を書いたということ。楽曲製作してもらうどころか、既存の曲を使わせてもらうことすら、世界的アーティスト相手だと難航するようであります。
しかし、、、、、、、大友監督がそこまでされたのも納得・・・・・・・・・いや、本当に感謝です!!
もう、、、、、、、、、まるでこの作品のために書かれたといってもいいくらいに、この「秘密」という作品のコンセプト・世界観に合いすぎています「Alive」は!!!
そんなAliveへのリンク
https://www.youtube.com/watch?v=t2NgsJrrAyM
歌詞の隅から隅まで、「秘密」という作品に合いすぎている。
イントロから、最後の一音に至るまで私がこの作品に持つイメージ通りの楽曲です。
さて、先ほどから「作品」と書いています。
この主題歌と映画の衝撃的なマッチング具合にドハマリして、主題歌を聞く一秒前までは買う気が全然起きなかったコミックスをチェックしはじめました。
3巻読んだあと、すぐに全巻購入してしまいました。
そして間違いなく人生で好きな漫画ベスト10には入ります。
漫画を読むと、さらに「Alive」とピタリあっています。この漫画を読むときに、この曲以外は考えられない。
そして、漫画を読むと、ネットで言われていた「原作ファン怒り心頭」という映画のことがちょっとわかってきました。確かに漫画とは別物として見ないと、・・・・。もちろんコミックの実写化はたいていの原作ファンには嫌われるのですが、この「秘密」に関しては本当に「MRI捜査」のアイディア、キャラの「大まかな」設定、貝沼事件と絹子事件に関する「だいたいの」あらすじ、くらいしか原作通りではないと思いました。
知る順番としては、「映画」⇒「漫画」で良かったと思いました。
しかし、映画があったから、というかこの映画にこの主題歌を選んでくれたからこそ、私は漫画「秘密 -トップ・シークレット」に、連載開始後19年という時を経て出会うことが出来ました。
一度は聞いたことのある「Alive」なのに、その時には気に入らず、この映画の主題歌として再度出逢ったからこそ大のお気に入りの曲になったことには、やはり音楽と映像のコラボした時の無限の可能性を思い知らされました。
そんな秘密へのリンク▼
http://www.hakusensha.co.jp/himitsu-eiga/
しかしこれは、、、、、、、映画が酷評されるのは、、、、、、仕方ないというか。。。。。。作った人が悪いわけではないと思います。この漫画の世界観を映像で表し、なおかつ2016年の時代においてヒットする映画に作り上げるのは・・・・・・・無理 です。つまり企画段階で、、、、、、、、コケるのは決定していたと思います。
色々な要因があると思います。
その1、漫画の設定やメッセージ性が連載開始当初「1998年にしては」斬新だったからこそ漫画のストーリーに目新しさがあったが、脳内を見るというのは今となってはわりとドラマや映画などで見かけるネタになってしまったということ。
その2、しかしそのネタの既視感をも凌駕するほどの絵画的な美しさがこの漫画原作にはある。カラー絵などはそのまま美術館に飾ってもいいくらいの綺麗さですし、この原作者の方のコマ割やセリフ回しの構成力もすさまじいので、なんのへんてつもないセリフでも、とんでもなくドラマチックに見える。が、あくまで「漫画」であるから活きるのであり、それがそのまま映画で応用できるわけではないのでしょう。
その3、そもそもこの漫画の魅力のかなりの部分を、主人公キャラである「薪 剛」はじめ、影を背負いながらも様々な人生を壮絶に生き抜いている各キャラクターが担っているのですが、そのキャラクターの良さは映画では活かしきれていない。というか、活かすには時間が足りない。そして「35歳なのに20代前半に見える、とんでもない美形の身長160センチくらいの警視正。しかも華奢な感じ」という主人公キャラの設定自体が非現実的であり(だからこそ漫画なんだけど)、そんな俳優は存在するわけがない。この原作者さんが、1998年ころのhydeをモデルとして薪警視正のキャラを作ったらしいです。その当時に映画化していたならそのままhydeに主演をお願いすればよかったのでしょうが、18年も経ってから映画化したばっかりにそれは難しい。結果、かなりの美形であるにも関わらず、薪警視正役の生田斗真くんが原作ファンから文句を言われるという、かわいそうな展開になってしまったのでしょう。
唯一、薪剛にそっくりだなと思ったのが、ハンターハンターの「クラピカ」という人だったのですが、よく考えたらクラピカも漫画のキャラだったw
ハンターハンターの「クロロ」のモデルもhydeらしいし、hydeはいろいろな漫画のモデルにされてそうな気がします。
その4、漫画での事件の面白みは、かなり詳細に描かれている虐殺シーンや、同性愛を取り扱った「秘密」などのショッキング性もあるのですが、それらは300スクリーンにもわたって大々的に公開するような映画「秘密」には向いていない。結果的に、「28人殺しの貝沼事件」でも映像的にはソフトめな表現しかできなく、漫画の良さが活かしきれなくなってしまったのでは。個人的には「チャッピー事件」が事件としては一番好きなのですが、あれも子供を惨殺するシーンが多数出てくるのでこれだけ大規模な映画には向いてないですしね、、、、、、。同性愛も2000年前後の頃にはまだまだ偏見の目で見られていましたが、今となっては同性愛を問題視するほうが逆に問題視されるような時代になってきたので、ちょっと映画にはそぐわないでしょうか。私は自身の尊厳のために命を捨ててまで秘密を隠そうとした人の事件、好きだったんですが。
その5、キャラクター同士の繊細すぎる人間模様がこの漫画の大きな魅力なのだが、それを表すには時間があまりにも少ない「映画」という二時間半なので、人間関係がほとんど描けていなくて、ただの事件解決映画になってしまっている。これがせめて連続ドラマだったら、なぜ薪剛は独身を貫いているのかとか、雪子さんがいつだれを想ってきて、それはどういう理由だったのかとか、なぜ青木はあの女性を好きになった、なろうとしたのか、とか、「事件」の重さと比較したらどうでもいいのかもしれないけど人間の人生において一番重要な感情の切なすぎる部分について描く時間が、漫画の全部とは言えなくてもある程度はあったと思います。しかし二時間半では無理だと判断したのか、バッサリと・・・・事件解決と、薪の過去にのみ焦点をあてたような脚本でした。
漫画「秘密」の中で私が最も感銘を受けたのは、この「その5」の部分の複雑さと、描き方のうまさでした。心の底から尊敬してきた人を突然平手打ちしてしまったり、でもそこに至るまでにはそれほどの信頼関係とその崩壊があったり。好きだったはずの人はやめて、あっさり違う人と結婚しちゃったり。大事な人を傷つけたくないと思って行った行動が、その人には伝わらなかったり。そのすれ違いに乗じる人間がいたり。同性の先輩に対して、恋愛感情は抱いていないのだが、尊敬の念が大きくなるあまりに、憧れが時に恋愛感情よりも大きなものになっていたり。よかれと思ってした施しが、理解しがたいほどの憎しみとなって却ってくること。
この漫画ほどドラマチックではないにしても、日常生活のどこかで、なんとなく似たような感情や場面に出会ってきたことは誰しもあると思います。
その描き方が、事件の複雑さもありつつなのに、ものすごく素敵でした。
事件をきちんと終わらせることと、人物たちの気持ちを描き切ること、人間関係に一応の終止符を打たせること、でも人の感情は永遠に続いていくことを余韻として残すこと、、、、それが全て計算しつくされた劇のように終わっていったことに感動しました。
ミステリーと人間ドラマと両方入った作品ですが、この漫画が傑作なのは、人間ドラマのほうの良さが際立っているからだと思います。
あと、その人間ドラマがよりドラマチックに見えるような、美しい絵ももちろん一つの魅力です。
しかしこの構成力をもってすれば、下手な絵だったとしても十分感動してたと思います。
というわけで・・・・・・・・・・・。
Aliveと、大友監督に感謝です。