携帯の強制解約で「負のループ」、

連絡先なく職や家も探せない…

孤立する「通信困窮者」

 

読売新聞オンライン

 経済的な苦しさから携帯電話を失ったために、自立の道を阻まれ、孤立する「通信困窮者」がいる。社会生活を送る上で「持っている」ことが半ば前提の携帯電話がないだけで、職や住居を探すのにも支障を来し、困窮から抜け出せない“負のループ”に陥ってしまう。そんな通信困窮者に携帯電話を貸して、再起を促す取り組みが始まっている。(後田ひろえ) 【図表】「手頃な価格」中古スマホ、所有率は年々増加

八方ふさがり

 

 「社会とのつながりが断たれた気分だった」。北九州市の男性(56)が振り返った。

 設備会社で働いていた2020年4月、脳出血で倒れた。半年間の入院後に復帰したが、担当を変えられて給料が減った。コロナ禍で会社の業績も低迷し、退職を余儀なくされた。

 収入が途絶え、家賃を払えず野宿生活に。携帯電話は強制解約された。「通信困窮者」の困難が始まった。

 職を求めてハローワークに通った。携帯電話がないと伝えると、担当者から「面接日時の連絡もできない。就職活動そのものが難しい」と告げられた。

 困窮者を支援する情報を、ネットで探すこともできない。自立支援施設への入所を希望したが、空きが出ても連絡を受けられなかった。

 八方ふさがりの中、区役所で、困窮者に携帯電話を貸す民間の事業を教わった。さっそくスマートフォンを借りて、ようやく自分の“連絡先”を取り戻した。今は生活保護を受けながら、再就職先を探している。

コロナ禍で増大

リスタートから借りたスマートフォンで求人情報を調べる男性(1月、北九州市で)=中山浩次撮影

 男性がスマホを借りた一般社団法人「リスタート」(東京)は、携帯電話のレンタルを行う企業を母体に、通信困窮者の支援を目的に19年に設立された。月約3000~6000円でスマホを使え、自治体などから紹介された延べ約1万2000人に貸し出す。担当者は「1か月あたりの利用者は、コロナ前の2~3倍に増えている」と話す。

 厚生労働省は、通信困窮者らに携帯電話を貸し出す事業者を、全国の自治体や社会福祉協議会などに案内している。熊本県八代市は22年5月から、困窮者に代わって市が3か月間、リスタートに利用料を払っている。その間に仕事を見つけ、再起を目指してもらう狙いで、2人が就労を果たした。

 

一般社団法人「つくろい東京ファンド」(東京)は、無償で貸し出すスマホに、発信先をあらかじめ登録した5か所に限定する、専用のアプリを入れている。携帯電話を不必要な目的に使われるのを防ぐためだ。

 受信は無制限で、支援団体とつながって自立を目指すことを条件に、約250人に貸し出してきた。定期的に連絡を取って状況を聞くなどしており、新規事業部長の佐々木大志郎さん(44)は「スマホを渡して終わりにせず、寄り添って支援することが必要」と話す。

孤立を防ぎたい

 携帯電話は、孤立しがちな困窮者と他者との懸け橋でもある。

 NPO法人「つながる鹿児島」(鹿児島市)の居住支援を受けた元ホームレスらは、リスタートから借りたスマホなどを活用した互助会を設けている。メンバーは、通信アプリ「LINE(ライン)」で数人ずつのグループを作り、毎日1回発信して、互いを見守る。

 同NPO理事長の芝田淳さん(54)は「携帯電話がないと、他人とのコミュニケーションが取りづらくなる。孤立を防ぎ、社会参加を助けるためにも欠かせない」と強調した。

ブラックリスト、再契約が困難に

 携帯電話料金の未納を理由に強制解約となった人が、再び契約を結ぶのは容易ではない。契約に関わる「信用」を損なったためだ。

 携帯電話の支払いは、月々の利用料金と端末購入費の分割払いをセットにすることが多く、支払いの遅れは分割払いの滞納に直結する。そのため、支払いが3か月以上滞ると、割賦販売法に基づき、信用情報にブラックリストとして登録される。

 携帯電話会社は、他社から解約されたことを隠して契約を繰り返し、支払いを逃れる行為に目を光らせている。リスタートの推計では、ブラックリストに登録された人は全国で300万~600万人に上るという。